むかしむかし、デジタルワールドに にんげんという 

デジモンとは ちがういきものが あらわれました

にんげんは じゃあくなこころの もちぬしで おおくのデジモンたちが

にんげんによって  くるしめられていました

 



しかしにんげんは じゃあくなこころのもちぬしばかりでは なかったのです

やさしいこころをもった にんげんのこどもが デジモンに みかたしたのです

にんげんのこどもと デジモンのこどもは かたいきずなでむすばれ

そして ふたりのところに おおくのデジモンたちがあつまりました


 


デジモンたちは にんげんのこどもと ちからをあわせ

わるいにんげんを ついにデジタルワールドから おいだしたのです

めでたし めでたし









Digimon Meets Boy

 

 

 

 








はぁ」

 何度もめくられ、ページの端々が傷んだ絵本を閉じながら、淡い薄紫の体毛に包まれた獣人はため息をついた。手にしている絵本の表紙には、人間の子供と成長期デジモン・アグモンの絵が描いてある。

「あたしも、この絵本みたいに人間のパートナーがいたらなぁ

 そう言って獣人型デジモン・ストラビモンは、自分が寄りかかっている木の洞に絵本を投げ入れる。投げ込まれた絵本電脳世界に当たって何かが崩れる音がする。積み重ねられた本の山だ。電脳獣冒険記”“電脳獣冒険記・2巻”“デジモンの育成師達”“電脳開拓史”“デジモンの救済者等といったタイトルの 本達が木の洞の外に転がり落ちる。

「ああっ!?」

 ストラビモンは慌てて本を広いあげ、木の洞の奥へ重ねて戻す。その際に洞の奥にあった物体を拾い上げるとストラビモンはそれをうっとりと眺め、ゴムバンドに二つのカップ型のパーツがついたその物体を頭に引っ掛けると木の外へ身を躍らせる。

「へへっ、我ながら結構似合うと思うんだよねー」

 頭にゴーグルを巻いたその姿を地面の水溜りに映しながら、ストラビモンは先ほど以上に恍惚に浸る。洞の奥に重ねられた本の表紙には、額にゴーグルを巻いた彼女と同じくらいの背格好の人間がデジモンと寄り添う様子が描かれていた。

「トコモン、ワープ進化だっ!」

 ストラビモンがびしっ!という擬音が目に見えそうなほどの勢いで指差した先には、たまたま傍を通りかかった小さな幼年期デジモンの姿があった。彼女の気合の入りようとは裏腹に、大きな口を天に向けて大欠伸している。そして何事もなかったかのように、名前どおりトコトコと歩いて去って行く。

ま、デジヴァイスがないから当然か」

 そもそもあたしはデジモンだしね、とストラビモンは付け加える。昼寝でもしながら本を読み返そうかと、ストラビモンは木の洞を覗き込む。すると不意に、背後で何かが激しく光った。洞の中まで照らし出すような眩い輝きに気づいて振り返ると、森の奥に光の発生源があるのが分かる。

「なんだろう?」

 ストラビモンは木々を掻き分け、少しずつ弱まっていく光のもとへと向かう。彼女の胸にははっきりとした期待が宿っていた。彼女が求めてやまないものが、光の中にあるのではないかという期待が。



「あ!」



 光が消えうせる頃に、ストラビモンは発光源へとたどり着き、そして声を失う。期待が確信に変わり、求めていた出会いが果たされた感動によって。

 背格好はストラビモンと同じくらい。体毛は頭部を除いてごく薄く、硬質化し鎧じみた外皮もなければ、筋肉もついていない脆弱な体。武器を身につけてもなけ れば、その代わりとなる爪や牙らしきものもなく、翼など望むべくもない、デジモンに比べると非常にシンプルなシルエット。

 一糸惑わぬ姿の、人間の少年が落ち葉のベッドの上で身を横たえていた。瞳を閉じ、耳をすませなければ聞こえないほどの小さな寝息を立てて眠る姿は、何処か非生物的な印象さえ感じられる。まるで人形のようにさえ感じられる人間の姿に、ストラビモンも思わず動きを止めていた。畏怖にも似た感動が胸を支配し、一 瞬が永遠にも感じられるそう思えた矢先に、身を横たえていた少年の顔にむずかゆそうな表情が浮かんだ。








 

 

 



「へ、へックション!」


 

 

 

 










「カ―――――――――ット!」









 静寂を貫く一声と同時に、パールピンクの鎧を来た痩身のデジモンがストラビモンと少年の間に踊りでる。それに一呼吸遅れて、多数の人間やデジモンが彼らを囲むように集まってくる。

「ちょっと何やってくれてんの!ここはこの作品の導入部であり作品全体の要でもあるシーンなんだから、完璧に演じきってくれないと困るよ!」

 痩身のデジモンがまくし立てる最中、先ほどまで裸だった少年はそっぽを向き、周りの人間が持ってきたタオルケットに包まりながら差し出されたティッシュで鼻をかんでいる。くしゃみが落ち着いてからようやく少年は痩身のデジモンに向き直った。

「そうはいいますがロードナイトモン監督。このシーン、裸で出てくる必要性感じませんよ。むしろ観客が引くんじゃないんですか?」

 少年は睨むように反論する。周りにいたデジモンや人間たちも、密かに頷いていた。

「そ、それはだな!ここでストラビモンが出会った人間はリアルワールドから来た人間ではなく、「選ばれし子供」に対抗するために生み出された人造デジタル生命体が生成された瞬間にストラビモンが立ち会ってしまったから、という状況だから裸なんだ!決して意味もなく裸なのではない!」

 一瞬言葉を詰らせるが、直ぐにまたロードナイトモンは早口で弁明を始める。少年を始め、出演者やスタッフ達は露骨にうんざりした表情を浮かべた。

「そもそもこの作品は『リアルワールドに住む人間が突如異界の者、デジモンと出会う、』という定番のプロットをひっくり返して『デジタルワールドに住むデジモンが突如異界の者、人間に出会う』という流れで始めるという画期的なアイディアが根底にあるのだ!それ故にこのシーンこそがこの作品の全てを担うと 言っても過言ではなく

 それを知ってか知らずか、監督は尚も語り続ける。誰かの口から「じゃあやっぱり普通の人間がここで現れないと意味がないんじゃ」という指摘が呟かれてもお構いなしだ。

「この際だから俺も意見させてもらうぜ監督!」

 見上げるほどの巨躯のデジモンが大声を張り上げることで、ようやくロードナイトモンの演説が中断される。叫んだのは頭部が硬質の外皮で覆われた恐竜型デジモン、グレイモンだ。

「自分で言うのもなんだがな、俺はそこら中でお呼びがかかるような大物俳優だ。その俺がこの後のシーンでちょっと暴れたすぐ後に退場してそれっきりなんて納得がいかねぇ。碌な台詞がない上に画面に映っている時間なんざ3分に満たねぇぞぉ?」

 グレイモンは思い切り身をかがめて、鼻先の角をロードナイトモンの顔面にぶつかりそうな程接近させ、唸るように言う。しかし見下ろし威圧されているにも関わらず、胸を張り、ロードナイトモンは得意げに答える。

「フフン、私の作る大作は他の作品とは違う。君のような大物ばかりをメインに配するような安易な配役はしないのが私のやり方なのだよ。素人はそれが分からないから困る」

「てめぇ!なーにが「安易な配役はしない(キリッ)」だ!てめぇが昔作った作品に「困ったらヴァンデモン」「定番中の定番悪役」とさえ呼ばれているヴァンデモンさんを悪役で呼んだ事を知ってんだぞ!しかも二回!」

「黙れブランド商売の権化が!私が目指す作品は王道なんだよ!安心して御覧いただける古き良きお約束パターンの踏襲!「パターン破り(キリッ)」とか言って得意になっている奴らとは違うのだ!」

「さっきと言っている事が正反対じゃねーか!定番をひっくり返すとか言っていたのはどうした!?そもそも安心して見れるもんを作るつもりなら自分のショタコン趣味を押し付けんなやぁぁぁぁぁぁ!」



尚も口論は続く。大作が完成する日は遠い。





 

 

【未完】