デジタルワールドにあるとある森の中。早朝だというのに、森の入り口から叫び声が響いていた。

「…ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!」

 バシィ!!と大きな音がして、メカノリモンが殴った木が大きく揺れた。それでも腹の虫が収まらないメカノリモンは、さらに木を叩く。

「畜生!畜生!あいつらめぇぇぇ!!」

 木が倒れた辺りで、メカノリモンは殴るのを止め、呼吸を整える。

「クソッ!!なんで次から次と邪魔が入るんだよ!!」

 メカノリモンは森の外側に広がる大草原にポツンと建っている農場を見て叫んだ。

「おこまりの用ですネェ〜」

 その時、茂みの中から一匹のデジモンが出てきた。ひょうたん型のくすんだ緑色のボディ、腕に相当するであろう太く長い二本のツルはあるが、足らしきものは見当たらない。頭部に類するであろう部分では、裂けた口と細い目が、意地悪そうな表情を作っていた。

「ザッソーモンか…何の用だ?」

「何の用だはないでショ〜。私もターゲットを探しているノニ〜。」

 ザッソーモンもメカノリモンと同じく、この地方にいると特定されたターゲット…モノクロモンを探しに来たデジモンだった。

「その事なんだが…」

「言わなくてもわかってますヨ〜。ここからアナタが逃げ帰って来るのを見てたんですからネェ〜」

 ザッソーモンは確実にメカノリモンの怒りを買うであろうセリフを、いつもどおりの他人を子馬鹿にしたような口調で言う。当然、メカノリモンは目を細め、右手を振り上げた。

「テンメェ!!」

 メカノリモンの右腕が振り下ろされるが、ザッソーモンはジャンプして両腕で近くの木にぶら下がる。

「マァマァ。アナタだけじゃぁあのケンタルモンを倒すのは無理ですヨ〜。農場にはたくさんのデジモンがいますしネェ〜」

「あんだとぉ!?じゃぁてめぇには出来るってのか?」

 ザッソーモンはヤレヤレ、と首を左右に振った。

「イエイエ。私は成長期にも勝てるかどうか怪しいほど弱いですからネェ〜。ヴァンデモン達に雇われたのも、元々は貴方と違って、「アレ」の解析に協力する為ですしネェ〜。確実に勝てる相手と言ったら、鋭い爪と牙も、強靭な筋力も、鎧のような外皮も、身を焦がす炎ももたない奴くらいでショ〜」

 ザッソーモンは自分を卑下する言葉を、さも面白そうに言った。メカノリモンは、「鋭い爪と牙も、強靭な筋力も、鎧のような外皮も、身を焦がす炎ももたない」と聞いて、いつもターゲットのそばにいる、人間の子供を思い出した。

「ヨッ」

 ザッソーモンは鉄棒の逆上がりのように、クルッと回って枝の上にたった。

「だから…頭を使いましょうヨ〜」

 ザッソーモンは細い目を面白そうに、さらに細く歪めた。


 


第4章 災厄―Their Journey―

 




 吉武達がデジタルワールドに来てから十日目…


「おい新入り!そんなに急いではいかん!」

 背中に野菜が大量に入った籠を背負ったハヌモンは、自分の横を通りすぎたモノクロモンに向かって叫んだ。

 モノクロモンは車輪のついた荷台を引きずりながら走っている。荷台には、あふれんばかりの野菜が詰まっており、さながらその姿は、道路を疾走する八百屋のトラックのようだった。

「平気平気!このくらいへっちゃらさ!」

 しかしハヌモンが心配しているのは、モノクロモンの体力ではなく、荷台にからこぼれ落ちそうな野菜の方だった。いや、既にモノクロモンが通った後には、砕けた野菜が点々と落ちていた。その時、走っているモノクロモンの眼前に巨大な影が立ちはだかった。この農場で働いている赤い恐竜型デジモン、ティラノモンだ。

「うわぁぁ!?」

 モノクロモンはあわててブレーキをかけ、ティラノモンの寸前で立ち止まる。衝撃で数個の野菜が荷台から落ちた。

「こんの馬鹿モンが!!やる気を出すのは結構だが、食べ物を粗末にするんじゃない!」

 ティラモンの叫びを聞いて、モノクロモンは自分が通ってきた道の方を振り向いた。そこに落ちていた砕けた野菜を見て、モノクロモンはいたたまれない気持ちになった。

「あの野菜は野菜炒めにしてお前の昼食に肉の変わりに出すからな!」

 モノクロモンは肩を落として、トボトボと歩いていった。

「最近、張り切っているようですね」

 いつの間にかティラノモンの足元にケンタルモンが立っていた。

「まぁ、な。だが張り切りすぎるのも考えモンだ。」

「おそらく、この前の一件…あれが原因でしょうな」

 この前の一件…つまり、メカノリモンに全く歯が立たなかった事だろう。その為、必要以上にモノクロモンは仕事をしている。それだけではなく、食事の後の休憩時間や夜中にも農場を何週も走っていた事もあった。巨体ゆえにうるさいので止めさせられたが。

「まぁ、わしにもわからんこたぁないが…」

「同感です。しかし、襲って来た者の目的は一体…おそらく、彼が他のモノクロモンとは違う事に関係があるのでしょうが…」

 ケンタルモンはトボトボと歩いていくモノクロモンの、巨大なナイフのような角を見て行った。

「ま、あの子達が何者かなんて関係ない。わしらは怪しいモンが近づかないように、農場を見張っていればいい。」

 ティラノモンはそろそろ自分が見張りに行く時間だという事を思い出した。例のメカノリモン襲撃以来、農場のデジモン達が交代で見張りについていた。

「私も見張りにつきましょうか?」

「いんや、お客人に迷惑はかけられねぇ。それにあんたはあの子…吉武が元の世界に帰る方法を探してくれや。そうそう、もう小一時間もすれば飯の時間だけどよ、飯は冷めねぇうちに食えよ〜!」

 そう言うとティラノモンはその場を去って行った。

「…」

 ケンタルモンには襲撃者の目的や、帰る方法の他に、気になっている事があった。それはモノクロモンの体の事だった。デジタルワールドに来た人間の伝承を調べる傍ら、手元にあるこの世界に存在するデジモンの資料を片っぱしから調べていた。しかしどの資料にも巨大な角をもったモノクロモンや、グレイモンのようなブルーのラインの入ったアグモンは何処にもいなかった。それどころか、幼年期の頃の特徴を聞いてみたがその特徴はどのデジモンにも当てはまらなかった。そして一年程でのデジタマから成熟期への進化、わずかな期間での体力の増大など、他のデジモン達との相違点は多い。人間の世界で生まれ育った事の影響か?幻の「古代種」なのか?それともまったくの新種なのか?どれも仮説の域を出ない。

 そしてケンタルモンはこう考えていた。やはり襲撃者の目的に関係があるのだろう、と。

「やはり…あのメカノリモンから直接聞き出すしかないか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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 農場の外れ、壊れて使えなくなった荷車などの粗大ゴミが置かれている場所に、モノクロモンはいた。さっきからしきりに首を上下に振っている。首を振るたびに、鼻先の角の先端が風を切る音を立てる。巨大な角を使いこなす為に、首の筋肉を鍛えているのだ。突然、「ズボッ」と間の抜けた音がした。勢い良く振り下ろした角が、地面に突き刺さったのだ。

「ん、んぐぐぐ!!」

 四肢で地面を踏みしめ、首に力をこめる。すると、あっという間に角は地面から抜けた。

「すごいすごい!一昨日は地面に刺さったのを抜くのに5分もかかったのに!」

 吉武がモノクロモンの方に向かって駈けて来た。

「ヨシタケ!!」

「ティラノモンさんから聞いたよ。お昼の後にそんな運動して大丈夫?午前中の仕事の疲れも残っているんだから、休んでたら?」

 そういえば十分ほど前にティラノモンがこの辺りを通りかかったのを思い出した。

「いや、駄目だ!!もっと強くならないと…あいつ等を一人で追い返せるくらい強くならないと…」

 その時、吉武の脳裏をこの前の戦いや、初めてモノクロモンに進化した時の映像がよぎった。青白いビームで草原を焦がすメカノリモン。とても目では追いきれないスピードで動くケンタルモン。溶岩の塊のような物を吐くモノクロモン。

「いいよ強くならなくても…」

「ヨシタケ!?」

 モノクロモンは吉武の言葉に驚く。吉武はこの前のメカノリモン戦以来、戦闘種族「デジタルモンスター」に、心の底では恐怖を覚えていた。自分達に優しく接していてくれるケンタルモンや農場のデジモン達には、強大な力を持っているとわかっていても、この十日間の生活でその恐怖はだいぶ和らいでいたが、それでもモノクロモンにはそんな力を持って欲しくないと思っていた。

「でも…」

「ちょっと待って!?誰か来たよ!!」

 吉武が農場の外から来た人影に気づく。植物の様なデジモンが、大きな荷車を引きながら吉武達の近くに寄ってきた。

「ヒィヒィ…」

 植物の様なデジモンは、吉武の腰ほどまでしかなく、彼が引っ張ってきた荷車は彼には不釣合
いなほど大きかった。体も小さく、疲れきっている様子なので吉武は全く警戒せず、植物デジモン…ザッソーモンに歩み寄った。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。水を分けてもらいたいんですけど…」

 旅をしているデジモンがこの農場に食料などを分けてもらいに立ち寄るのはよくある事なので、
吉武は何の疑問も抱かなかった。

「その荷車、重そうなので、誰か別のデジモンに運んで貰った方がいいんじゃないですか?」

 自分では無理そうなので、誰か他のデジモンに頼めないかと吉武は辺りを見回した。その時、ある疑問が生まれた。今いる場所はいわゆるゴミ捨て場だ。それもめったに廃棄される事のない、荷車などの粗大ゴミの。デジモンの姿はモノクロモンの他には遠く離れた所にまばらにしか見えない。この農場には柵や明確な入り口のような物はないが、ここから入ってくるのは少しおかしい。疑問に思い吉武がザッソーモンの方に振り返ろうとすると、太いツルのような物が首に巻きついた。

「ケ――――ケケケッ!!」

 ザッソーモンの腕だと気づいた時、吉武の脚は地面から離れていた。宙吊りにされたのだ。

「ヨシタケッ!!てめぇ!!」

 モノクロモンがザッソーモンを睨みつける。

「お〜っと。脚も角も必殺技も出さないで下さいネェ〜。この人間の首がポキッ!と折れてもしりませんヨ〜」

 吉武は首への圧迫感が少し強まるのを感じた。圧迫されてはいるが、少し息苦しい程度で、呼吸には支障はない。しかし窒息させるどころか、首の骨を折るくらいの力はあるのはすぐにわかった。吉武は、恐怖に身を引きつらせていた。

「おとなしく俺達について来て貰おうか!!」

 その時、ザッソーモンが引っ張ってきた荷車が、内側から弾けとび、中からメカノリモンが出てきた。吉武とモノクロモンは初めてメカノリモンに仲間がいた事を理解した。

 ザッソーモンが立てた作戦はこうだった。五日間、遠くからターゲットの行動を監視し、人気のない所で人間と二人だけになる瞬間を狙う。見張りのいない時を狙ってザッソーモンは農場に立ち寄った旅人に扮し、メカノリモンは荷車に隠れる。そして隙をついてザッソーモンが人間を人質にとる。

「あとは…こいつを叩きのめして引きずって行くっ!!」

 メカノリモンの巨体がモノクロモンに突進し、長い腕がモノクロモンのあごを撃つ。

「グアッ!!」

「モノクロモン!!」

 メカノリモンは立て続けに平たく長い腕をモノクロモンの体の下に滑り込ませ、硬質化した外皮のない腹部にボディーブローを叩き込む。

 デジモンを殺さずに生かして連れて行く。こういった行為が行なわれる事はデジタルワールドで
は意外と少ない。デジモンのサイズが種族によって大きく違ったりするのも理由の一つだが、やはり戦闘種族としての形質、どのデジモンも例外なく持つ強大な攻撃力が一番の理由だ。人質などで言う事を聞かせるだけではいつ反撃されるかわかった物ではない。その為、一匹に対し集団で行なうか、それができなければ戦闘不能になるまで叩きのめすのが一般的な手段だった。

「ホラホラ!反撃してみろよ!?「家族」の命が惜しくなけりゃな!もっとも、眠っちまうほどすっとろいお前の攻撃なんかあたんねぇがな!」

 メカノリモンは今度は顔面に蹴りを入れ続ける。

「ケケケ、メカノリモンさん、他のデジモンが来ないうちにネ〜。それと殺さないように気をつけてくださいヨ〜」

 ザッソーモンは面白そうに細い目をさらに細く歪めた。

「モノ…クロ…モン…」

 全く抵抗できず、なぶり続けられる「家族」の姿を見て、吉武の感情を支配するのは、「恐怖」から、「情けなさ」に変わっていた。自分がもっと注意していれば。自分にもっと力があれば。モノクロモンはこんな目に会うことはなかった。

 その時、吉武はある事に気がついた。モノクロモンが強くなりたがったのも同じ理由ではないの
だろうか?この前の一件は吉武に直接危害を加えられる事はなかったが、味わった恐怖は相当な物だった。それを救ったのは、その事態を引き起こす原因となったモノクロモンではなく、何の関係もないケンタルモンだった。モノクロモンはどれだけ情けなかっただろう。どれだけ自分に怒りを覚えたのだろうか。だから強くなろうと必死だったのでは?

 やがて、吉武はいつの頃からか、モノクロモンといつも言っていた事を思い出した。

「「ずっと一緒にいたいね」」

 モノクロモンが強くなろうとした一番の理由はそれだろう。なのに自分は、願いを叶える為に強くなろうとするモノクロモンを否定しようとしたのだ。吉武の感情を、今度は自分への「怒り」が支配した。

「モノクロモーン!!」

 突然の吉武の叫びに、その場にいた者全てが動きを止める。

「戦って…僕の事はどうでもいいから…戦って!!!」

 叫び。無心の叫び。自分の命の危険など考えてなかった。ただ、「自分も何かしなくてはいけない」という思いが言わせた言葉だった。

「てめぇ何を言って…」

 メカノリモンが吉武の方を振り向いた時、背中に重い衝撃が走った。次の瞬間、メカノリモンの体は弧を描いてザッソーモンと吉武の頭上を越え、彼等の後方に落下した。モノクロモンが後ろから突撃したのだ。メカノリモンの巨体を大きく吹き飛ばしたモノクロモンのパワーに、吉武とザッソーモンは驚愕した。

「は、反則だ!普通「僕の事はどうでもいいから」なんて言われたら、まず攻撃できないハズダァ〜!!」

 間の抜けたザッソーモンのセリフを聞いて、呆然としていた吉武の心が我に帰った。

 そして、驚きでザッソーモンの腕の締め付けが弱くなっている事に気がつき、ありったけの力を
振り絞って、ザッソーモンの腕を振り解き、モノクロモンの元へ向かって走った。

「あ!!」

 ザッソーモンは再び腕を伸ばそうとするが、モノクロモンの睨みにひるみ、腕の先端はむなしく
宙を切った。

「吉武、離れてくれ!!」

 そう言うとモノクロモンは起き上がったメカノリモンに向かって突進した。

「アホがぁ!あたんねぇって言ってるだろうが!!」

 メカノリモンは突進を左に避けてかわす。モノクロモンの角の先端が、メカノリモンの後ろにあっ
た廃材の山に突き刺さった。モノクロモンは首を左に大きく振る。角の先端が廃材の山を薙ぎ、廃材がメカノリモンに向かって降り注いだ!!

「うおお!?」

 予期せぬ方向から降り注いだ無数の廃材がメカノリモンを打つ。ダメージなど全くないが、ひる
んだ隙にモノクロモンの尻尾の一撃が直撃した!!

「がぁぁぁ!?」

 メカノリモンは更なる予想外の攻撃に、大きな音をたてて倒れた。

「こ、こうなったらもう一度人質を取っテェ〜!!」

 メカノリモンが二度も攻撃を受けたのを見て、ザッソーモンは吉武に襲い掛かった。

「!!」

「ヨシタケに…手を出すなっ!!」

 すぐさまモノクロモンが追いつく。

「コ、コイツ…こんなに素早かったッケ〜!?」

 ザッソーモンは先日の戦いを見ていた時、モノクロモンのスピードは把握しているつもりだった。今、人間の方を狙ったのは、この距離ならモノクロモンは手出しできないと判断したからだ。しかし、予測を遥かに上回るスピードでモノクロモンは追いついてしまった。モノクロモンは首を大きく振り、長い角の側面をザッソーモンにぶつけた!!

「アアアアア〜!!!」

 ザッソーモンはバットで打たれたホームランボールのように飛んで行き、やがて見えなくなった。

「このぉ!調子に乗ってんじゃ…」

「うおおおおおおおっ!!!」

 メカノリモンが立ち上がって攻撃を仕掛けようとした瞬間、間髪いれずモノクロモンが突撃してきた。メカノリモンは一瞬驚いたが、すぐに回避行動を取った。

「まぐれ当たりが何度も続くかっ!!」

 予想通り、あっさり回避する。しかし、次の瞬間、「ズボッ」と間の抜けた音がしてメカノリモンは廃材の山に突っ込んだ。廃材の山に埋まる形となったメカノリモンに、モノクロモンは正面から突っ込んだ!!

「う、うおおおお!?」

 慌ててメカノリモンは両手を伸ばし、モノクロモンの鼻先を受け止める。しかしモノクロモンはさらに四肢と首に力を込める。メカノリモンの腕の関節が軋んだ音を立て、ゆっくりとメカノリモンの体が廃材の山に埋まっていく。

 この時、メカノリモンは二つの誤算に気づいた。一つは、この場所がモノクロモンにとって有利だったと言う事。五日間、この場所でトレーニングをしていたモノクロモンにとって、この場所は把握しきっている、とまでは行かなくても、少なくともメカノリモンよりは有利なはずだ。それにこのよ
うな狭い場所で接近されてはメカノリモンのような巨体では距離をとりにくい。もう一つは、デジモンの中でもかなり鈍足な部類に入るモノクロモン種の例に漏れず、目の前のモノクロモンはあまり素早い方ではないメカノリモンですら、スピードでは絶対に勝てない。しかし、それと同じように、非力、とは決していえないメカノリモンのパワーですら、正面から組み合っては目の前のモノクロモンには絶対に勝てないという事だった。気づいた次の瞬間には、モノクロモンの突進が直撃し、廃材の山をつき抜け、草原の地面を削りながらメカノリモンは弾き飛ばされた。

「す、すごい!!」

 圧倒的なモノクロモンの力に、吉武は恐怖を感じながらも、それ以上に強い興奮を感じていた。

「ぐ…なんて奴だ…始めてあった時よりも…ずっとパワーが増してやがる…」

 だが粗大ゴミ置き場から離れられたのは好都合だ。草原なら距離を取ってトゥインクルビームで攻撃していけば勝てる…メカノリモンはそう考えながら身を起こした。

「!?」

 その時、メカノリモンはさっきの二つの誤算に気づくのが遅すぎたことを再認識する。騒ぎを聞きつけた農場のデジモン達がいつの間にか集まっていたのだ。廃材置き場を取り囲むように、大小様々なデジモンが並び、全員メカノリモンを睨みつけていた。その中には当然ケンタルモンの姿もある。

「ち…ちぐしょう―――っ!!」

 メカノリモンは涙目になって踵を返した。

「ちぐしょう!ちぐしょう!みんななんでそいつに味方するんだよ!そいつは…」

 メカノリモンはそのまま脱兎の如く逃げていく。

「この世界を滅ぼしかねない災厄なんだぞ――――っ!!」

 あまりの姿に、その場にいた者達はキョトンとして追いかけるのを忘れていた。涙目になって捨
てゼリフを叫びながら逃げ帰っていくメカノリモンの姿は、ケンカに負けた子供か、自分が悪い事をしたのに先生に怒られて泣く小学生のようだったからだ。

 そう、「捨てゼリフ」。

 その場にいた者は、メカノリモンの最後の言葉も、「捨てゼリフ」程度の事としか考えてなかっ
た。

「よくやったな、新入り!」
「スッゲェーよモノクロモンさん!!」
「お前も偉いぞ坊主!よく泣かなかったな!!」

 デジモン達から賛辞の言葉をあびるモノクロモンと吉武、それとケンタルモンを除いて…。

 

 

 

 


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 その夜、大型デジモンの客人用の小屋に寝転がりながら、吉武とモノクロモンは、「この世界を滅ぼしかねない災厄」と言う言葉の意味を考えていた。しかし答えは一向に出ず、胸にモヤモヤとした気持ちが溜まるばかりだった。

 ふと、小屋の扉をノックする音が聞こえた。

「…入っていいですよ」

 扉がゆっくりと開き、ケンタルモンが入ってきた。

「…元の世界に帰るための手がかりが見つかった」

 モノクロモンと吉武は跳ね置き、期待に目を輝かせた。

「西にあるスクリープと呼ばれる地方…大抵の人間が出てくる伝承では、そこで人間達は元の世界に帰ったと伝えられている。そこへ行けば…」

「帰る方法が見つかるかも知れないんだね!?」

 吉武の言葉に、ケンタルモンは軽く頷いた。

「やったぁ!!」

「やったな吉武!!」

 喜びの表情を浮かべるモノクロモンと吉武に、ケンタルモンが言った。その声には重い物が含まれていた。

「…私も、そこへ行くのに同行させて貰えまいか?」

「「…え?」」

 声をハモらせて驚く二人に、さらにケンタルモンが告げる。

「私のような旅なれた者がいた方が心強いだろう?」

「そ、それは願ってもいない事だけど…いいんですか?ケンタルモンさんの旅に迷惑はかからないんですか?」

「大丈夫だ。私の目的地もちょうどスクリープ地方だからな。君達がよければ明日にでも出発する予定だが…どうかね?」

吉武とモノクロモンは、少し顔を見合わせたあと、声をそろえて言った。

「「全然OKです!!」」

少年とデジモンの旅が、始まろうとしていた。


 

 

 

 

 

 


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