礼を言っても言い足りないくらいだった。農場のデジモン達から吉武達が受けた施しは、自分が一生ここで働いても、返しきれないのではないかと、吉武は思った。それはモノクロモンも同じだったようで、出発の時にもらった食料を、大喰らいの彼が半分返そうとしていた。農場のデジモン達が、「これでも足りないくらいだ」と言って、断ったときの笑顔は一生忘れる事は出来ないだろう。もちろん、今、一緒に草原を歩いている半人半馬のデジモンのことも。

 



第5章 森に潜む物―Unfamiliar World―

 



 吉武がデジタルワールドに来てから11日目…

 朝早く、吉武達はスクリープ地方を目指して出発した。吉武は農場のデジモン達からもらった大きなリュックを背負っている。その中には、携帯食料や薬などの他に、この世界に来た時、一緒に持ってきてしまった吉武の父のコートも入っていた。モノクロモンの体には、主に食料などが入った袋がくくりつけられている。

 まず、先日メカノリモンとケンタルモンが戦った丘を越え、そこからさらに向こうにある森を目指した。森の向こうには小高い山が見える。ケンタルモンは、今日は夜にならないうちに森を越え、山の中腹で休む事にするといった。吉武とモノクロモンは、旅なれたケンタルモンの言葉におとなしく従った。

 森の入り口付近についた頃には太陽が高く上っており、そこで昼食をとると、吉武達は木がうっそうと生い茂った、昼間でも薄暗い森の中へ足を踏み入れた。

「気を付けた方がいいぞ。この森には昆虫型を初めとした様々なデジモンが生息している」

 ケンタルモンの警告に、吉武は身を強張らせた。

「大丈夫だって!!吉武に襲い掛かってくる前に俺がぶっ飛ばしてやる!」

 モノクロモンが力強く言った。

「いや、襲い掛かってこないのなら近づかない方がいい。大抵のデジモンは縄張りに入ってきたり、攻撃しない限り襲ってきたりはしないからな。」

 ケンタルモンの言葉を聞いて、吉武は少し気が楽になった。その時、吉武達の真上を、巨大な物がうるさい羽音を立てて横切った。羽音を聞いて、吉武はさっきケンタルモンが言っていた昆虫型デジモンだろうと思い、音のする方向をみると、ダークブルーにテカテカと光るうねった外骨格に包まれた体を持つデジモンがいた。

「あれが…昆虫!?」

 そのデジモンは虫のような巨大な羽や、四本の腕と二本の脚を持ち、頭部全体を覆う金属の兜はカブトムシのような形状をしていたが、四方に牙を持つ凶悪な口から涎を垂らしたその姿は、吉武の基準では「昆虫」と言い切るには微妙な点があった。

 さっきカブト虫に似ているデジモンが来た方向から、羽音の他に「ギチギチ」としか形容できない音を立てて、別な昆虫型デジモンが飛んできた。

 今度は赤い殻に全身が覆われていたので、さっきのデジモンよりはだいぶ昆虫らしかった。しかし頭部についている巨大なハサミの間には、さっきのデジモンと同じような四方に牙の着いた口があった。

 先に来たダークブルーのデジモンは振り返ると口の端から涎をたらしながら普通の昆虫なら絶対だす筈のないうなり声を揚げ、後から来た赤いデジモンはハサミをせわしなく開閉させている。その姿に知性らしき物は一切感じられず、それを見ていた吉武は強い恐怖を感じていた。

 突如、ダークブルーのデジモンの角の先端に、バチバチと火花が散り始めた。まるで角自体が放電を始めたようだった。

「カブテリモンとクワガーモンの縄張り争いか…逃げるぞ!!」

 ケンタルモンの掛け声に吉武は我に帰り、ケンタルに続いて走り出した。しかしモノクロモンは対峙する二体の巨大なデジモンの方を睨んでいる。

「モノクロモン!?何やっているの!?」

 モノクロモンは吉武の言葉で我に帰り、二人に続いて走り出した。その時、吉武は後方から雷のような大きな音がするのを聞いたが、恐ろしくてふりむけず、そのまま走り出した。

 

 

 


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だいぶ走った頃、吉武は息が切れてきたので立ち止まってしまった。その時、もうダークブルー
のデジモン、多分ケンタルモンがカブテリモンと読んでいたデジモンのうなり声や、赤いデジモン、おそらくクワガーモンと言うであろうデジモンのハサミを開閉させるギチギチと言う音も聞こえなくなっている事に気が付いた。

 おそるおそる振り返ると、もう二体のデジモンの姿は見えない。姿が見えず、声が聞こえないほど離れたのか、それとも…

「なぁ、ケンタルモン」

 不意に、モノクロモンがケンタルモンに声をかけた。

「あんた、あの二体のデジモンに勝つ事は出来るのか?」

 唐突な問いに吉武は目を丸くしたが、ケンタルモンは落ち着いて答えた。

「…出来ない事もないかもしれない。だが、あそこで戦っていれば君達も巻き込む事になっていただろう」

 モノクロモンは何か言いたそうに口を開いたが、ケンタルモンは言葉を続けた。

「厳しい言い方だとは思うが、君はまだ戦闘経験が圧倒的に不足している。弱肉強食の世界を生き抜いてきたデジモンと戦うにはまだ力不足だ。吉武君もいることだしな」

「…ごめんなさい」

 モノクロモンは萎縮して誤った。

「何より…私がむやみに力を振るう所を君に見せるわけには行かない。君がその力をむやみに他人に振るうようなデジモンにはなって欲しくはないからだ」

「ケンタルモンさん…」

 戦闘種族としてのデジモンに恐怖を抱いていた吉武は、ケンタルモンがモノクロモンにこのような言葉をかけてくれたのがとても嬉しかった。

「でも、俺は強くなりたいんだ!せめて一人でも吉武を守れるくらい…!」

 モノクロモンは叫ぶ。

「…君が、その力をむやみに他人に振るったりしないと言うのなら、私は君に戦闘の基礎という物を教えてもいい…約束できるな?」

「ああ!約束する!」

 モノクロモンは間髪いれずに答えた。

「では今日、森を抜けて休む場所を見つけてからだな」

「やったぁ!」

「よかったねモノクロモン!!」

 

 

 

 


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近くの木の上から、3人の様子をうかがっている者がいた。彼は3人がその場を離れるのを見届けると、彼は長いツルのような両腕を隣の木の枝に巻きつけて、隣の木の枝の上に飛び移る。それを繰り返して、次々と木々の上を渡り歩いていく。彼の小柄な体とあいまって、この森に住む昆虫型デジモンが飛行するのに匹敵するスピードで進んでいく。

「マズイデスネェ〜。例のケンタルモンがターゲットと同行しているなんテェ〜」

 彼…モノクロモンを狙うザッソーモンは、別な場所で待機している仲間の元へ向かった。

 

 

 


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「それにしても…」

 森の中を進んでいる最中、吉武が呟いた。

「昆虫型のデジモンってあんな恐い姿をしているんだ…」

「まあ戦闘種族だからな。私の姿も戦闘に適した姿だが…」

 ケンタルモンの言葉を聞いて、吉武は慌てて首を振る。

「あ…すみません!そんな意味で言ったんじゃ…」

「いいんだ。気にしなくてもいい。」

 吉武はホッとした様子で、言葉を続けた。

「でもちょっと変わりすぎじゃないですか?ほら、成長期のクネモンは割とかわいいのに…」

 吉武は近くの木に張り付いて寝ていた、芋虫をデフォルメしたような姿の緑色のデジモンを指差していった。

 確かに、あのカブテリモンやクワガーモンに比べれば、色々な意味で「かわいい」だろうが、よく
見なくても巨大芋虫そのままのクネモンは、大抵の女子は、「かわいい」とは言わないだろう。そう思って、モノクロモンは笑いをこらえた。眠っているクネモンの頭をなでてやろうとして、吉武は手を伸ばす。


「さわるなっ!!」

 突如、ケンタルモンの声が森に響いた。その声に驚き、吉武は思わず手を引っ込めた。

「そのデジモンはドクネモン…毒を持つクネモンの亜種だ。」

「毒…」

 吉武は眠っているドクネモンから離れた。

「成長期といえども迂闊に触らない方がいい…普通のクネモンでさえ、電撃を帯びた糸を吐きかけるんだからな」

 ケンタルモンは強い口調で言う。

「なぁ、これ何だろう?」

 モノクロモンの声を聞いた吉武は、モノクロモンが覗き込んでいる草の茂みを覗き込んだ。そこ
には、サッカーボールより一回り小さいくらいの白くて丸い体に、短い四本の脚が生えたデジモンがいた。好奇心旺盛そうなつぶらな黒い瞳が、吉武とモノクロモンを交互にみていた。

「かわいい〜」

 吉武はデジモンの頭を撫でてあげようと、デジモンの頭の上に手を伸ばした。

 グパッ

 頭の上に手を伸ばした瞬間、デジモンの大きな口が開いた。口の中には鋭い犬歯が上下二列ずつ生えており、口の中だけなら、森の入り口で見かけたカブテリモンやクワガーモンにも負けないくらい凶暴そうだった。

 バクッ

 口が閉じる寸前、ケンタルモンが吉武の襟首を引っ張ったので、ギリギリ噛まれなくてすんだ。

「迂闊に触らない方がいいといっただろう」

 ケンタルモンの口調はさっきよりも強く、明らかに怒っていた。

「ご、ごめんなさい…あれ?」

 さっきのデジモンは既にいなくなっている。逃げてしまったのだろうか?

「あのデジモンはトコモン。幼年期だ。あの牙と幼年期の顎の力では、人間相手ならともかく、固い皮膚を持つ物もいるデジモン相手では大した武器にはならない。本来の用途は威嚇用だ」

 威嚇用。その程度の攻撃力しか持っていないのだろうか。吉武は急にトコモンの事が心配になった。

「ねぇ、あんな赤ちゃんでも、この世界を生きていけるの…?」

「大丈夫だ…この世界と言う物は意外とうまく出来ている。デジモンが他のデジモンを捕食するなどと言う行為は滅多になく、幼年期の腹を満たす程度の食料ならいくらでも転がっている」

 そこまで言ってケンタルモンは急に考え込んだ。

「それよりも問題なのは、君達はこのデジタルワールドに関する知識がほとんどないという事だ。これから歩きながらレクチャーしてあげよう。無知は時として最悪の状況を招きかねないからな」

 

 

 


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 ザッソーモンがメカノリモンの元へ戻ったとき、メカノリモンは何かを煮込んでいた。巨大な鍋はどこかに捨てられていたガラクタを拾ってきたのだろう。鍋の中身はなにやらドロッとした茶色い不透明な液体で、むせ返るような甘い匂いがあたりに漂っていた。

 ザッソーモンはすぐにメカノリモンが何をしようとしているか気づいた。

「アノ〜メカノリモンさん、それってマサカ…?」

 メカノリモンはザッソーモンに気づくと、誇らしげに言った。

「砂糖やらシロップやら樹液とか甘そうな物を片っぱしから混ぜて煮込んでいるんだよ!コレを奴等にかけてやれば奴等のところには森中の昆虫型デジモンが寄ってきて、そいつ等にボロボロにされた所を狙えば、労せずして作戦成功ってわけよ!!」

 親指を立て、ウインクしながら言うメカノリモンを見てザッソーモンは悪い予感が的中し顔色が悪くなった。もともとザッソーモンは全身がくすんだ緑色なのでそれにメカノリモンは気づいていない。

「な、何やってんですカァ!?いくら貴方が都会育ちだからって、無知とかそういうレベルの問題じゃぁないですヨォ!!」

 ザッソーモンは慌てて叫ぶ。

「ハ?何の事だ?」

 メカノリモンは状況を理解していない。

「ツマリ…」

 ザッソーモンの言葉は大きな羽音にかき消された。甘い香りに惹かれて、巨大なトンボのようなデジモン、ヤンマモンが飛来したのだ。

(ナニモ私がいる時に来なくてもイイノニ!!)

 ヤンマモンは、鍋に向かって急降下してきた。

「わわっ!?あぶねぇ!?」

 メカノリモンは慌てて鍋を持ち上げる。

「ア!?バカァ〜!!」

 鍋を放って置いて逃げればイイノニ!!そうザッソーモンが言おうとした瞬間、ヤンマモンがメカノリモンのすぐ横を駆け抜け、突風をまともにうけたメカノリモンはひっくり返り、鍋の中身の半分は二匹に頭から降りかかった。

 上空でターンし、再び突進してくるヤンマモンのターゲットは、鍋ではなく、メカノリモン。その上、無数の昆虫型デジモンが甘い匂いに引かれて集まってきた。

「に、逃げロ〜!!」

「お、おい待ってくれ!!」

 ザッソーモンとメカノリモンは慌ててその場から逃げ出し、その後をヤンマモンなどの昆虫型デ
ジモンが追いかけた。こんな状況になっても、メカノリモンはまだ例の大鍋を抱えていた。

 

 

 


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 「…つまり、樹液などを好んで食べる昆虫型デジモンは甘い匂いに群がる習性があるので、昆
虫型デジモンの生息地では甘い物は食べられんな。」

 森の中を歩きながら、ケンタルモンが旅で得た知識の数々を聞いている。モノクロモンは半分
聞き流しているようだが、吉武は熱心に聞いているようだ。

「とはいっても、相当強い匂いがするか、相当巨大なキャンディーやチョコでもない限り大型の
物が多い昆虫型デジモンはよって来ないがな。」

 ブニュ!!

 そこまで話した時、突如ケンタルモンの左前足が、地面に沈んだ。

「「!?」」

「…この感触は…ヌメモンか…?」

 ケンタルモンは恐る恐る脚を上げる。そこには、巣穴が空いていた。話しながら歩いていたせい
で気づかなかったのだ。そこに住んでいるデジモンは、ヌメモンと言うデジモンだった。ナメクジを連想させる柔らかい体の上からは、二本の目玉が伸びている。その目玉の間には、ケンタルモンの蹄の跡がくっきりと残っている。ヌメモンは巣穴から這い出し、明かに敵意や怒りのこもった目でこちらを見つめている。

「ヌメモンて…強いの…?」

「成熟期だが戦闘能力は低い。だが…」

 モノクロモンの問いに答えるケンタルモンは、途中で言葉を止める。吉武には、ケンタルモンが問いの答えを言うのをためらっているように見えた。その時、ヌメモンはピンク色の、吉武やモノクロモンが漫画でしか見た事のない。とぐろを巻いた物体を構えた。ヌメモンには腕らしき部分はないが、構えたとしか表現できなかった。

「「!?」」

「ヨシタケ、アレって…」

「イチゴ味のソフトクリームじゃないよねぇ…?」

「…アレはデジタルワールドのどの空間にも存在する「カス」を凝縮して生成された物だ。ヌメモ
ンはそれを生成する事ができ、彼等はそれを武器にする。」

 ケンタルモンは冷静に答えるが、兜の上から冷や汗が浮かんでいた。ヌメモンは、手にした物体を投げて来た。

「うわわわわわっ!?」
「うおっ!?」
「むっ!」

 三者三様の悲鳴をあげ、吉武達は避ける。ヌメモンが投げた物は吉武達の遥か後方の木に辺り、つぶれて悪臭を放った。ヌメモンは、吉武とモノクロモンの想像を遥かに越えていた。いや、今までに会ったデジモンも二人の想像を遥かに越えていたが、ヌメモンはその姿、能力ともに他のデジモンとは次元が違うインパクトを二人に与えていた。

さらに巣穴から大量のヌメモンたちが出てくる。全員、一様に彼等特有の「武器」を構えている。

「…逃げるぞっ!!」

 

 



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 メカノリモンとザッソーモンは、森を抜けた山の崖の上で、荒い息をついている。傍らには大きな鍋が置かれており、その中味は空になっている。彼等の体には甘い匂いのする液体が付いているが、周りに昆虫型デジモンがいない所を見ると、何とか振り切ったようだ。

「ゼェ、ゼェ…何とか振り切りましたネェ〜」

「俺が鍋を持っていったおかげだな…」

「ダマンナサイ!その中味をばら撒いて奴等を撒く方法を思いついたノハワタシ…ン?」

 ザッソーモンは、崖の下に誰かがいるのに気がついた。それは、大量のヌメモンに追いかけられている吉武達だった。

「クソォォォォォォォ!!こいつ等いつまでついて来るんだよ!」

「すまない、私がもっと注意深ければ…」

 ヌメモンの投げる「武器」はかなりコントロールが悪く、一発たりとも吉武達には当たっていなかった。しかしヌメモンは意外と執念深く、森を抜けて山のふもとまで追いかけて来たのだった。

「チャンスですよ!!奴等は追われていて上の方まで注意が向いていません!」

「おうよ!!そらぁっ!!」

 メカノリモンは空の大鍋を、吉武達の頭上に向かって投げつけた!吉武達は突然の頭上からの攻撃に驚き、一瞬脚を止める。

「奴等の…襲撃かっ!!」

 ケンタルモンは突然の攻撃にも素早く反応し、背中のパイプから白い煙をふかし、崖を蹴って大きくジャンプする。

「ハンティングキャノン!!」

 ケンタルモンの右腕がキャノン砲に変化し、発射されたエネルギー弾が大鍋を砕く。

「こっちが本命よぉっ!!」

 しかしメカノリモンは間髪いれず、崖の上にあった大岩を押し、それを吉武達の頭上に落下させる。

「何ぃっ!?」

 ケンタルモンは予想外の攻撃に驚く。ハンティングキャノンは連射が効かず、ケンタルモンは空
中にいるので体制が整えられない。

「ヨシタケっ!!俺の腹の下に隠れろっ!」

「えっ!?」

「いいから早く!!」

「う、うん!!」

 吉武はモノクロモンの腹の下に隠れた。それはちょうど、避難訓練で机の下に隠れるのによく似ていた。

 モノクロモンは首を上に上げ、歯を食いしばり、大岩を見つめる。岩がモノクロモンの眼前に迫ったとき、モノクロモンの口が開いた。

「ヴォルケーノストライクッ!!」

 モノクロモンの口から、熱い溶岩の塊が発射され、大岩を粉々に砕いた。岩の破片がモノクロモンに降り注ぐ。

「モノクロモン!吉武っ!」

 着地したケンタルモンが叫ぶと、モノクロモンが岩や土ぼこりを払い、その下から吉武が出てきた。モノクロモンの体に擦り傷や切り傷はあるが、大した事はなさそうだ。吉武は傷一つない。

「あ、あいつら…」

「マダデス!地の利はワタシ達にアリマ…」

 ザッソーモンの声は大きな羽音に遮られた。ヤンマモンがまた集まってきたのだ。

「ヒィィィィ!」

「に、逃げろ!!」

 再びメカノリモンとザッソーモンは逃げていった…。

「そういえばヌメモン達は?」

「大岩や君のヴォルケーノストライクに驚いて逃げていったようだ」

 ケンタルモンが言った。

「モノクロモン、君は力の使い方をわかっているようだな」

 急に言われて、モノクロモンはキョトンとする。

 

「ヌメモン達にヴォルケーノストライクを使わなかっただろう?彼は悪臭のする武器を使って外敵を追い払っているだけで、見方によってはトコモンと良く似ている。そういった相手を焼き殺すような事をしなかったいうことだ。」

「いや…俺は…」

 モノクロモンは顔を赤くしている。

「実は…振り向いた時にアレが当たったらやだなぁって…」

 その言葉を聞いて、吉武はついふきだしてしまった。つられて、ケンタルモンもふきだしてしまう。

「ああ!笑うなよぉ!!」

 言葉とは裏腹に、モノクロモンの顔は笑っている。日の傾き始めた山に、3人の笑声が響いていた。


 

 

 

 


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