荒野の中、二匹のデジモンが対峙していた。一匹は半人半馬のデジモン、ケンタルモンだ。も
う一匹は恐竜型のデジモンだが、両腕が機械と骨の頭部の形になっていた。二匹の間には緊
迫した空気が流れ、まさに一触即発といった状況だ。

「戦う前に一つ言っておく事がある…」

恐竜型デジモンはケンタルモンとは別の方向をうかがうと、すぐにケンタルモンの方向に向き
直った。彼が見た方向にはデジモン達の町があった。レンガ造りの家がいくつも立ち並ぶかな
り大きな町だ。

「あのモノクロモンを狙っていた連中は、もう飽きちまったようであいつを狙うのをあきらめたよ
うだぜ。メカノリモンとかザッソーモンはリストラしたようだぜ」

「な、なんだって!?」

「そしてそのモノクロモンと、一緒にいた人間のガキは偶然通りがかった遺跡で偶然見つけた
ゲートで元の世界に帰っていったぜ。あとはこの俺と決着をつけるだけでこの小説は終らせら
れるなククク…」

ケンタルモンは不敵な表情になり、右腕をキャノン砲に変化させる。

「フ…上等だ。私も一つ言っておく事がある。私が数々の異常気象などの原因はモノクロモンで
はないかと考え、その考えやモノクロモンが吉武といつか別れなければいけないのではないか
と思っていた事を彼等に話すか話すまいか悩んでいたのだが、もう帰ったんならとりあえずそ
れでよしという事にしておくぞ!」

「そうかい…」

「ハァァァ!いくぞぉぉぉぉ!!」

ケンタルモンはキャノン砲にエネルギーをチャージしながら突進する。

「来な!ケンタルモン!!」

恐竜型デジモンは両腕の口を大きく開いて迎え撃つ体制をとる。十数年にわたる確執に、今、
終止符が打たれようとしていた。

RED―HEART 完

ご愛読ありがとうございました。多分utは二度と小説を書かないと思うので、次回作には期待し
ないで下さい。



「む…」

画面が暗転し、視界が光に包まれる。目が慣れてくると、目の前に岩山がそびえ立っていた。

「夢、か」

ケンタルモンは起き上がり、傍らで眠っている吉武とモノクロモンを見る。結局、荒野を越える
のは丸二日かかり、昨日は岩山のふもとで野宿したのだった。

「とうとう夢にまで出てきたか…」

ケンタルモンは最近、思い悩んでいた。原因はモノクロモンの事であった。彼が「世界を滅ぼし
かねない災厄」であるらしいと言う事。そしてそれを裏付けるように起こる異常気象。それだけ
ではなく、人間の世界で生まれ、家族同然とも言える関係の人間を持った事。人間の世界の
事は良く知らないが戦闘種族であるデジモンが何の問題もなく人間の世界で平穏に一生を終
えられるとは思えない。そしてデジモンは本来デジタルワールドの生物だ。吉武が元の世界に
帰る方法を見つけたとしても、モノクロモンが共に人間の世界に行く事はできないのではない
かと言う予感がする。

そしてそれらの事実は、純真な彼等に残酷な別れを経験させるかも知れない。ケンタルモンが
彼等に付いてきたのは、気づかぬ内にそのような運命を歩みつつある彼等が心配だったから
だ。しかし、ケンタルモンは彼等にその事を伝えてはいなかった。ケンタルモンは、その言葉で
彼等が傷つくのを恐れていた。しかし、伝えなかった場合、いつかはくる残酷な運命に彼等は
立ち直れなくなるほどの傷を負ってしまうだろう。そんな葛藤が、ケンタルモンの中にあった。

「それにしても…あいつが夢に出てくるのは久しぶりだな…」

ケンタルモンは、昔を懐かしむように目を閉じる。

「私は、あいつとの決着を望んでいるという事か…」

再び、ケンタルモンの表情が険しい物に変わった。


第8章 悔いなき道を―KENTALMON vs Δ―MON―


「スクリープ」と呼ばれる地方の入り口とも言える岩山の頂上付近で3匹のデジモンが会話して
いた。

一体はくすんだ緑色の植物型デジモン、ザッソーモン。もう一体は銀色のマシーン型デジモン、
メカノリモン。最後の一体は、青い恐竜型のデジモンのように見えた。

しかしその両腕は他の恐竜型デジモンと比べて異様な形をしていた。右腕は巨大なサイボー
グ化した恐竜の頭の形…否、頭そのものであった。左腕は巨大な恐竜の頭骨の形をしてい
る。目をギョロギョロと動かしている右腕のメカヘッドとは対照的に、左腕のスカルヘッドは作り
物のように動かない。

「それじゃ〜、ここで待ち伏せすればいいんだね〜♪」

メカヘッドが明るい声で喋る。彼等は左右が切り立った崖になっているこの場所で吉武達を待
ち伏せする作戦を考えていたのだ。

「ところでさ〜♪」

メカヘッドが、急に世間話を始めた。ペラペラと早口でまくしたてるので、そのうるささにザッソ
ーモンとメカノリモン、そしてメカヘッドを右腕から生やしているデジモン…デルタモンは露骨に
顔をしかめた。

「うるせぇぞ!!」

デルタモンは自らの右腕、メカヘッドを岩壁に叩きつける。メカヘッドは静かになったが、デルタ
モンは右腕の痛みに顔をしかめた。

「作戦の確認デスガ、アナタにはその巨体を生かしてここで待ち伏せして貰いますヨ〜。奴等
の注意がアナタに向かっている間に、ワタシとメカノリモンがあの岩を落すと言う作戦デス」

ザッソーモンが話を本題に戻す。「あの岩」とは、例によって崖の上にある大きな岩の事だ。

「…ワレラヒトリデジュウブンナモノヲ」

突如、デルタモンの左腕のスカルヘッドが口を開いた。デルタモンにあってから初めて口を開く
所を見たザッソーモンは少し驚いた。

「イエイエ、アナタがいくらお強いと言っても、奴等を侮ってはイケマセン。念には念を入れるの
が勝負の鉄則ですヨ〜」

「勝負の鉄則…か」

デルタモンはふと空を見上げ思いをはせる。左腕のスカルヘッドはついさっき言葉を発したと
は思えないほど静かだった。再び、デルタモンの表情が厳しい物に変わる。

「フン、そんな物が必要ないって事を分からせてやるよ」

「そうそう、そういえばこの前…ムグ」

また何事か話そうとしたメカヘッドはデルタモンの脚で口を抑えられた。

「黙ってろって…」

「それでは、ワタシ達は崖の上で待機していますネェ〜」

ザッソーモンとメカノリモンはデルタモンの脇をすり抜けると、そのまま坂を登っていった。

「チッ…気にいらねぇ奴だ。自分一人で奴等を倒すつもりでいやがる…モリシェルモンといい、
あんな事いってる奴は大抵失敗するんだよ」

デルタモンの姿が見えなくなってからメカノリモンが呟いた。

「アナタもその一人デショ〜」

「何だとぉ!?」

ザッソーモンはメカノリモンの怒声にもひるまず言葉を続ける。

「マァ、あのデルタモンは我々雇われた成熟期の中では一番強いですからネェ〜。一対一で完
全体に勝ったと言う噂もアリマスシ。アナタよりはマシな働きをしてくれるのは確実デショ〜」

「んだとぉ!?」

メカノリモンはザッソーモンに向かって腕を振り下ろす。ザッソーモンはメカノリモンが自分に殴
りかかる事を予想していたのか、ヒョイ、と横に飛んでかわす。

「アイツと奴等が戦って、両方とも消耗した所で岩を落せば…手柄は独り占めデスヨォ〜?」

ザッソーモンは細い目をさらに細く歪め、面白そうに笑った。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

「『落石注意!頂上まであと少し。ガンバレ!』か…」

吉武は道の端においてある立て札を見て言った。立て札に書いてあるのは、デジタルワールド
で使われている文字、デジ文字だ。

「吉武!もうそんなにスムーズに読めるようになったのか?」

「うん。ケンタルモンさんの教え方が上手いから…」

旅をしている間、夕食の後はケンタルモンからデジ文字やこの世界に関する知識を教わる時
間となっていた。最初はケンタルモンが旅に必要だからと言って教え始めたのだが、やがて吉
武はこの世界の事に興味を持ち始め、自分からケンタルモンに講義を求めるようになった。そ
の結果、驚くほど短期間でデジ文字をマスターしたのであった。ちなみモノクロモンは最初の一
日でギブアップ。

「覚えられたのは私の教え方が上手いからではない。君の学習意欲のおかげだ。」

「でも、ケンタルモンが僕が知りたいと思っていた事を知っていたから短い間でたくさんの事を
覚えられたんだよ!」

ケンタルモンは自分が信頼されている事を再認識した。旅が始まってからそう感じることは何
度もあった。悪い気はしない。だが、それと同時に暗雲のような物が彼の胸にわいた。彼等は
もしも私がいなくなったりした場合、旅を続けていられるのだろうか。そして私は、彼等の信頼
を裏切らないでいられるのだろうか。

それと「災厄」に関する事がケンタルモンの胸にわいた暗雲の正体であった。吉武はケンタル
モンが教えた多くの知識を得、モノクロモンは驚異的な速度で戦闘技術を身に付けていってい
る。二人だけでも何とかなるかもしれない。しかし、この世界で彼等が最も信頼を置いているの
はケンタルモンだ。ケンタルモンを失った場合、二人はいつ敵に襲われるかも知れない状況
で、旅を続けられるのだろうか。

「ケンタルモンさん!道を誰かがふさいでいる!」

歩きながらそんな事を考えていたケンタルモンは吉武の言葉で我に帰り、前方に立ちはだかる
デジモンの姿に気づく。左右には断崖絶壁が立ちはだかる道の真ん中に、デルタモンが立って
いた。デルタモンの巨体は、両腕を使えば道を通る物を簡単に妨害できるだろう。吉武とモノク
ロモンはすぐにデルタモンが敵だという事に気づいた。

「サ〜テ、お手並み拝見といきましょうカァ〜」

崖の上にある大岩の後ろ側に、ザッソーモンとメカノリモンが待機していた。岩に隠れて、崖の
下にいる吉武達からは見えない。

「久しぶりだなぁ、ケンタルモン」

デルタモンが口を開くと、吉武とモノクロモンはケンタルモンを見た。

「知り合いなのか?あのガラの悪そうなのと…?」

「初対面のデジモンに向かって、ガラが悪そうってのは失礼だね〜♪」

モノクロモンの言葉に対して、ケンタルモンではなく右腕のメカヘッドが答えた。そのままメカヘ
ッドは言葉を続ける。

「知り合いも何も、そのケンタルモンとは幼年期の頃から一緒だったよ〜♪
そんでもってさぁ〜二人してチンピラまがいの事も結構したよねぇ〜♪」

「「ええ!?」」

吉武とモノクロモンは驚いてケンタルモンの方を見る。ケンタルモンは何の反応も見せず、そ
の目は感情を押し殺しているように見えた。

「そんな事をしていたら、ある日…」
「ワタシト オマエハ ヒトリノオンナヲ メグッテ ケットウマガイノコトヲシタ」

メカヘッドの話に割りこんで、左腕のスカルヘッドが感情のない声で話した。

「そして俺は決闘に負けた。敗因はな、前日に俺が飲んだ酒に入れてあった遅効性の痺れ薬
だよ」

デルタモンはそのセリフを冷たく言い放った。ケンタルモンを見つめて。吉武とモノクロモンは
何も言えずケンタルモンを見るが、ケンタルモンは何の反応も見せない。

「昔からお前は頭が良くってよ、お前に出し抜かれる事が何度もあったけどよ…」

「「「こればっかりは許さねぇ!!」」」

デルタモンの叫びが重なり、空気が震える。吉武とモノクロモンは、コレだけの怒りを露わにし
ている者を見るのは生まれて初めてだった。

「ト」「リ」「プ」

デルタモンは頭部と両腕を崖の上の大岩に向ける。

「「「レックスフォース!!!」」」

デルタモンの頭部、メカヘッド、スカルヘッドから放たれた青白い閃光が一斉に大岩に向かい、
大岩を粉々に粉砕する。

「エエエエ〜!?」「うぉぉぉぉ!?」

その衝撃でその後ろにいたザッソーモンとメカノリモンは吹き飛ばされる。

「邪魔者は消えたぜ…ケリをつけようじゃねぇか!!」

デルタモンは嬉しそうに叫ぶ。メカヘッドは目をギラギラと光らせながら笑みを浮かべ、無表情
なスカルヘッドですらどこか興奮しているように見える。次の瞬間、ケンタルモンは跳躍し、デル
タモンの懐に飛び込もうとした。

「速い!」

あまりの速さに、吉武とモノクロモンは一瞬で勝負が決まるだろうと思った。しかし、ケンタルモ
ンが懐に飛び込むよりも早く、デルタモンの右腕の先端…メカヘッドの鼻先がケンタルモンの
体を打ち据え、ケンタルモンの体は宙に舞った。

「!?」

二人は一瞬、何が起きたかわからなかった。体に対して不釣り合いなほど大きなデルタモンの
腕が、ケンタルモンのスピードに反応し、なおかつそれを捉えたからだ。

「スカルファングッ!!」

スカルヘッドが叫び、空中にいるケンタルモンに向かって左腕が跳ね上がった。と思った次の
瞬間には、左腕は既に元の位置にあった。スカルヘッドにはケンタルモンがくわえられていた。

「ケンタルモンさん!」

「その脚を生かして相手の懐に入り込み、一瞬でしとめる…あの時もそうやって俺を倒したよな
…」

デルタモンは面白くも無さそうに言う。

「だ〜がしか〜し!我々は!そう、決闘に負けて逃げるように町を後にした我々は!」

「黙っていろ!」

デルタモンは右腕を岩壁に叩きつけると、再び喋りだした。

「俺はてめぇのような小さくてすばしっこい奴等を相手に何年も戦ってきた。そしてこの重い上
にうるさい両腕でてめぇを迎撃できるまでになった。てめぇが何度も旅をして、そうして培ったス
ピードなんぞ…」

「「俺には通じねぇんだよ!てめぇへの恨みで培った俺の力にはよぉ!」」

デルタモンはそう叫んで左腕を岩壁に叩きつける。

「ぐぁぁぁぁぁ!」

岩壁にヒビが入るほどの衝撃だ。ケンタルモンの体には激痛が走った。さらにもう一度、デルタ
モンは左腕を岩壁に叩きつける。

「「やめろ――――っ!!」」

吉武とモノクロモンの叫びが重なり、モノクロモンの口から、溶岩弾が発射された。

「フン…」

そこでデルタモンはようやく吉武達の方を見た。そして右腕のメカヘッドで、ヴォルケーノストラ
イクを造作もなく打ち払った。

「きっかないよ〜♪」

驚く吉武とモノクロモンに向かって、メカヘッドはおどけた口調で言う。

「俺は完全体とタイマンで勝った事もあるんだ…てめぇらなんて最初から数に入ってねぇよ!」

「まだだ!」

デルタモンの言葉にも怯まず、モノクロモンは突進を仕掛ける。

「に、逃げろ…」

「叩き潰してやる!」

ケンタルモンの声はデルタモンの叫びにかき消された。デルタモンは右腕でモノクロモンを叩き
潰ぶそうとして、メカヘッドを振り上げる。

「トマホークスラッシュ!!」

モノクロモンは鼻先の巨大な角を振りかぶる。デルタモンが右腕を振り下ろそうとした時、メカ
ヘッドは悪寒を感じ、それはすぐに全身を駆け巡り、デルタモンの頭部とスカルヘッドにも伝わ
った。その悪寒を感じられたのは、デルタモンが幾つもの死闘を経験した、歴戦の戦士だから
であった。デルタモンの体は三つの頭部のどれもが下していない命令…本能で右腕を止め、
体をひねってモノクロモンの振り下ろされた角を回避した。モノクロモンは勢いあまってデルタ
モンの脇をすり抜けた。そして角は岩壁に叩きつけられ、岩が砕け雪崩のようにデルタモンに
向かって落ちてくる。

「「「何ぃぃぃ!?」」」

予想外のモノクロモンのパワーにデルタモンも驚愕を隠せず、スカルヘッドはケンタルモンを取
りこぼす。

「ケンタルモンさん!」

吉武は全身に傷を負ってぐったりしているケンタルモンに向かって走り出す。岩が降り注ぐのも
構わずに。

「大丈夫ですか!?」

吉武はケンタルモンの上半身を方を支えて起こす。しかしその時、二人の頭上に岩が落ちてき
た。

「ヨシタケ!危な…」

モノクロモンの言葉が終るよりも早く、岩が砕けた。ケンタルモンの右腕が変化したキャノン
砲、ハンティングキャノンが岩を砕いたのだ。ケンタルモンは素早く立ちあがって吉武を抱きか
かえると、手負いとは思えないほどのスピードで走り出し、落ちてくる岩の間をぬってデルタモ
ンを飛び越えた。

「モノクロモン!私についてこい!」

ケンタルモンの言葉を聞いて、モノクロモンも後を追って走り出す。デルタモンも追おうとする
が、頭上から降り注ぐ岩雪崩を迎撃するので手一杯だった。

@@@@@@@@@@@@

やがて吉武達は、岩山を下る道の分かれ道にたどり着いた。そこでケンタルモンは吉武を下
ろし、モノクロモンも立ち止まった。

「あのデジモンが言った事は本当なの…?」

吉武はおずおずと聞いた。

「本当だ。昔はあのメカノリモン達と大して変わらない事をやっていた。あのデルタモンと一緒に
な…失望したか?」

「え…」

「ええとそれは…」

吉武とモノクロモンは複雑な心境だった。ケンタルモンの過去はショックだったが、かと言って
ケンタルモンに嫌悪のような物はいだかなかった。その気持ちはケンタルモンにも伝わったよ
うで、ケンタルモンの目にどこかホッとしたような、微笑みのような色が生まれた。

「すまなかった。君達には謝っておかなければならない事がある」

ケンタルモンは自分がモノクロモンが異常気象の原因ではないかと思っている事を話した。モ
ノクロモンは驚いていたが、吉武は厳しい表情をしていた。

「吉武も同じ事を考えていたようだな…もう一つ、私はずっと君達がいつか別れなければいけ
ないのではと心のどこかでずっと思っていた。」

今度は二人とも厳しい表情をしていた。二人とも、口には出さなかったが心のどこかで同じ事
を思っていたらしい。

「私は恐くて君達にこの事を話せなかった…それを君達に謝罪しよう。そして、あつかましいか
もしれないが…」

ケンタルモンは自分の荷物の中から3冊のノートを取り出し吉武に渡した。ケンタルモンが旅で
見聞きした旅の知恵、多くのデジモンの生体データ、地図などをメモしたノートだ。

「信じてくれ。私は最後まで君達の味方だと」

今度は食料の一部や、一部の集落で使われている通貨の入った袋を渡した。

「右側の道を行け。そちらが山を降りる最短ルートだ。スクリープ地方にある、ハーディックシテ
ィに行け。私の知る限りでは一番大きな町で、あの町には多くの学者がいる。より多くの手が
かりが見つけられるだろう。私も必ず君達に追いつく」

吉武とモノクロモンは、ケンタルモンの言わんとする事がわかった。大人しく荷物をまとめる。

「私が言えた物ではないが…大切な者がいるなら、それを絶対に裏切るな!また会おう!」

吉武達が駆け出していくと、ケンタルモンが叫ぶように言った。二人も、振り返って叫んだ。

「絶対だよ!ずっと信じているからね!」

「次に会うときはアンタにまけないくらい強くなっているからな――っ!」

@@@@@@@@@@@@@@@@@@

岩山の中腹ほどで、デルタモンとケンタルモンは対峙していた。開けた場所で、ケンタルモンの
十数メートルほど後方は崖になっていた。

「ふん、こんな所で逃げ回るのをやめるとはな…また何か罠を仕掛けているのか?それとも
…」
「万策つきたのかな〜♪」

「そのどちらでもない、と言っておこう。信じてはくれないだろうがな」

ケンタルモンは答える。

「…ドチラニシロ、ワレラニ マケルヨウソ ハ ナイ」
「その通りっ♪」

デルタモンの右腕のメカヘッドの口が大きく開き、四方八方に拡散する青白い閃光が発射され
る。ケンタルモンが回避する間もない早撃ちだった。

「ぐっ!!」

しかし狙いはてんでバラバラで、多くの閃光はケンタルモンの体を掠めるだけに過ぎなかった。

(この攻撃の目的は目くらまし!第二派が本命の攻撃だな!!)

ケンタルモンは前方からの第二撃に備えて警戒する。だが次の瞬間、ケンタルモンの周りだけ
が暗くなった。

「!?」

見上げてみると頭上にはデルタモンの巨体があった。デルタモンの本命の攻撃は、大ジャンプ
してから放つ、頭上からの跳び蹴りだったのだ。

「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」

「くうっ!」

ケンタルモンはジャンプしてギリギリでかわすが、着地時に態勢を整えられず体は地面に叩き
付けられる。

「ツイゲキ ダ」「言われなくてもわかってるぜぇ!」

さらにデルタモンは重そうな両腕からは想像もつかない高速のジャブを放つ。一撃一撃が地面
に大穴を空ける凶悪なジャブを、ケンタルモンは地面を転がりながら回避する。そのまま立ち
上がり、ダッシュしてデルタモンの真横にまわり、右腕をキャノン砲に変化させる。

「ハンティング…」

次の瞬間、ケンタルモンの体が空中に跳ね飛ばされた。デルタモンの真横にまわった時点で、
デルタモンの二本の尾がまわりこんでいたのだ。

「スカルファングッ!」

瞬時にスカルヘッドがケンタルモンの体をくわえる。

「終った、な」

デルタモンの三つの頭部は自分の勝利を確信した。ケンタルモンの体は完全に押さえつけて
あり、ケンタルモンにスカルヘッドの口をこじ開けるような力はない。右腕のハンティングキャノ
ンの位置は常に気を配っている。この体制では攻撃される事はない。後はこのまま左腕に力
をこめればケンタルモンの体は砕け、粒子となって消える…そう思った矢先だった。ケンタルモ
ンの右腕が元に戻り、左腕がキャノン砲に変化したのは。

「キャノンッ!!」

左腕から光弾が放たれ、デルタモンの腹に命中する。デルタモンは身をひねって急所に直撃
するのは避けたが、激痛でケンタルモンを落とした。

「て、てめぇ…ケンタルモン種は右腕からしか必殺技を撃てないはず…」

ケンタルモンは無言で全身に力を込める。再び右腕がキャノン砲に変化する。ケンタルモンの
息は荒い。

「ダブルハンティングキャノン…何度も旅をして自らを鍛えた結果得た力がこれだ…後悔と自
分への怒りをぶつけるように鍛えた結果のな!!」

「随分と体力を使う見てぇじゃねぇか…そんなんでまだ戦う気か!」

しかしデルタモンも自分の体力の消耗を痛感していた。鍛えてあるとはいえ、あれだけ素早く動
くのは体に負担がかかるのだ。

「ダブルより〜も♪トリプルの方がつよ〜い♪…はず」
「ソンナ モノデ ワレラノ カラダハ キズツカナイ」

デルタモンはそう言って三つの口に力をためる。

「そう思うのなら試してみるのだな…自分の体で!」

ケンタルモンの両腕の砲にエネルギーをためる。おそらく、この光景を見ていた物は、二人の
闘気に岩山が震えているように錯覚しただろう。

「ダブル…!」

「ト」「リ」「プ」

デルタモンの三つの口と、ケンタルモンの二つの砲口が輝きを増す。

「「「レックスフォース!!!」」」

先に撃ったのはデルタモンだった。フルパワーで撃たれた三本の閃光がケンタルモンに着弾
し、ケンタルモンは空高く待った。

「「「ヒャハハハッ!!!勝ったぞ!!!」」」

デルタモンの笑い声が三重になって響いた。しかし、その笑い声は長くは続かなかった。ケンタ
ルモンがボロボロになって吹き飛ばされながらも、その目を闘志を失わず、ケンタルモンの両
腕はデルタモンを狙っていたからだ。

「ダブルハンティングキャノンッ!!」

二つのエネルギー弾はまっすぐにデルタモンに向かって行き、デルタモンの首に命中した。

「「「ガハァッ!!!」」」

デルタモンは三つの首から血を吐き、もんどりうって倒れる。ケンタルモンの体が地面に叩き
付けられるのとは同時だった。

そして、ケンタルモンは再び立ち上がる。

「なぜ…立てるんだよ…」

デルタモンが息も絶え絶えに喋る。両腕の頭部は痛みで気絶したようだ。

「負けられない理由が三つある…一つはあの子供達の事…。最後まで彼等の味方でいると約
束した…。二つ目は…彼女の事だ…愛する者をかけた決闘に・・・負けるわけにはいかないの
はお前もよくわかっているだろう・・・?」

「ケッ」

「三つ目は…負けたくないからだ。昔から力では叶わなかった友と、敗北を恐れて大切な友を
裏切った昔の自分にな」

三つの理由をいう時、ケンタルモンはどこか芝居がかった、チンピラがやるような「かっこつけ
た」ポーズをしていた。

「ヘッ、昔から変わってねぇよ…お前俺に先に攻撃させて隙を作る為に、『ダブル…』って言っ
ただろ…撃たないつもりなのにさ…」

そう言ってデルタモンは目を閉じる。彼の三つの頭部は、いずれも嬉しそうな表情をしていた。

「それに引っかかるという事は、お前も変わっていない…な…」

ケンタルモンもその場に倒れこんだ。数十年かかった決闘は、こうして決着を迎えた。


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