吉武達がデジタルワールドに来てから18日目・・・・

スクリープ地方は熱い地方だ。そうケンタルモンは言った。内陸側は砂漠と熱帯雨林が大半を
占め、海岸側に近づくほど気候は落ち着いてくる。デルタモンと遭遇した岩山を超えると、そこ
には砂漠が広がっていた。ケンタルモンからわたされた地図を見ると、ありがたい事にハーデ
ィックシティまでのルートがペンで記されていた。ペンで書かれた線が所々かすれており、かな
り昔に書き込まれたようだ。おそらくケンタルモンは何度もハーディックシティに行った事がある
のだろう。地図に書き込まれた線は砂漠、ジャングル、荒野にある集落を経由してハーディック
シティまでつながっていた。吉武はまず砂漠の集落を目指す事にした。


第9章 嵐の前―Unions Power―


「よかった、この集落のデジモン達は旅人に親切で・・・」

吉武は藁の山の上に両腕を投げ出して言った。

「全くだぜ」

吉武とモノクロモンは、木で出来た小屋の中にいた。以前会った地下に住むデジモンの集落の
ように、よそ者に対して排他的な集落ではないかと二人は危惧していたが、意外にもこの砂漠
の集落はその正反対だった。ハーディックシティはかなり大きな町で、旅をしているデジモン達
がたくさん集まってくる。そのためにスクリープ地方の集落は旅をしている者に対して好意的な
ようだ。

「しかし久しぶりに生肉を食べられたなぁ・・・」

モノクロモンが少し前に食べた夕食の骨つき肉を思い出す。農場から旅立って以来、肉といえ
ば乾燥肉で、それ以外は保存食や食べられる野草が中心で、デジマスを釣って食べられれば
上等、といった風だった。

「乾燥肉とかの保存食も分けてもらったものね。この集落の人には悪いけど、明日の朝も思い
っきり食べちゃおうか?」

吉武はすまなそうに、しかし笑いながら言った。岩山で頼りにしていたケンタルモンと別れ、精
神的にも肉体的にも疲労していた吉武とモノクロモンはここぞとばかりに何度もおかわりしたの
だ。農場にいた頃は食事などを世話して貰う代わりに農場の仕事を手伝っていた二人はさす
がに申し訳ないと思っていたが、二人とも我慢できるほど大人ではなかった。

「いいねぇいいねぇ!そうしよう!」

「うん・・・それじゃぁおやすみ」

そう言って吉武は天井から下がっているランプの灯を消すと、藁の上に横になった。ほどなく暗
闇から二人分の寝息が聞こえてきた。

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「う、ううん・・・」

朝、吉武は顔に冷たい物を感じて目を覚ました。吉武はモノクロモンを起こすと、ふと、様子が
おかしい事に気づいた。

朝だというのに妙に薄暗い。その上、さっきからひっきりなしに水の入ったバケツをひっくり返し
たような音がしているし、地鳴りにも似た轟音がしている。

「うわっ!冷てっ!」

吉武がモノクロモンの方を振り向くと、モノクロモンの額に水滴がついている。天井を見ると、
所々から水滴が滴り落ちていた。

「まさか・・・!」

二人が窓から外をのぞくと、集落の様子は豪雨に遮られてよくわからなかった。しかし、集落の
中心を通っていた川が氾濫し、激流となって集落の建物をいくつか押し流しているのははっき
りとわかった。

二人があっけにとられていると、扉が開き、数匹のデジモンが入ってきた。体が土で出来てい
るデジモン、ツチダルモンが二匹と、成長期のデジモンが3匹だ。成長期のデジモン達の体は
いずれもずぶ濡れでぐったりとしている。ツチダルモンの一匹が成長期デジモン達の体をタオ
ルでふき始め、もう一匹がいった。

「客人殿、すまないがこの小屋を避難所に使わせて貰いたい」

「・・・何があったんですか?」

吉武が恐る恐る聞くと、ツチダルモンは愛嬌のある顔を厳しい表情にしていった。

「明け方頃、なんの前触れもなく空を黒雲が覆い、かつてないほどの豪雨が降り注いだ。あっと
言う間に川が氾濫し、低い場所にいた者は小屋ごと流されてしまった」

その言葉を聞いた吉武とモノクロモンは顔を見合わせる。彼等にはこの異常気象に心当たり
があるからだ。その時、また二匹のツチダルモンが小屋の中に入ってきた。一匹がもう一匹を
支えており、支えられている方は体の表面がドロドロになっている。

「だ、大丈夫か!?」

さっきまで吉武と話していたツチダルモンが駆け寄る。

「足を滑らせて川に落ちたんだ。危険だから俺達では救助を続けられん」

ツチダルモンの体が土で出来ているといっても、水をかけられたり水に浸かったくらいで崩れる
ほど脆い物ではない。しかし、この豪雨の中を長時間走り回った上、激しい激流の中に落ちて
しまってはさすがに体の表面が溶け出してしまったようだ。このまま豪雨の中を動き回っていれ
ば命にかかわるだろう。

「クソッ!このまま何もしないで大人しくしていろというのか・・・」

さっきまで成長期デジモンの体をふいていたツチダルモンが拳を床に叩きつけた。

「ヨシタケ!!」

「うん!」

彼等は既に気づいていた。この異常気象の原因がメカノリモンから「災厄」と呼ばれたモノクロ
モンにあるかもしれないと。この豪雨の原因は自分達にあるかもしれないと考えた二人は、流
されたこの集落の住人を救助すべく外に向かった。しかし、モノクロモンは外に出られたが、吉
武が外に出ようとしたら手を何者かに引かれた。振り向いてみると、体の表面が解けかかった
ツチダルモンだった。

「まて・・・いくな・・・あぶない・・・」

ツチダルモンの声はか細く、やっとの事で声を絞り出しているという様子だった。ドロドロになっ
ている顔からは表情がわからないが、吉武は彼が悔しそうな顔をしていると感じた。集落の仲
間の危機に何もできない自分に対して悔しそうな顔をしていると。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

その空間はワイヤーフレームで出来た部屋、とでも言うべき場所だった。しかしその空間は部
屋と言うにはあまりにも広かった。そしてその空間の大半を占めているのが、巨大な地球儀に
土星のようにリングをつけた物体だった。その物体は赤、青、緑、黄、紫などあらゆる色に点
滅している。点滅のリズムはかなり早いがバラバラで、狂った機械のような印象を見る者に与
えた。

物体の下には二匹のデジモンがいた。一匹は細長い体に剥き出しの巨大な脳、触手上の何
本もの足と言う姿の、チープなデザインの宇宙人のようだった。彼の足元に置いてある「いか
にも」なデザインのビームガンはきっと彼の物だろう。彼は物体にコードでつながっているノート
パソコンのような機械のキーボードをしきりに叩いている。その表情は焦りに満ちていた。

もう一匹はブルーの高級そうな服を着、黒いマントを羽織ったスマートな人間型のデジモンだっ
た。ただしその顔は死人のような青白い色で、目元を紅いマスクで覆い、血のような色の唇の
端から牙が除いていた。彼もノートパソコンのような機械のキーボードをしきりに叩いている。
表情こそ落ち着き払っているが、額には玉のような汗が浮かんでいる。彼も表に表してこそい
ないが、内心焦っているのだろう。

空間の壁が扉のように開き、一匹のデジモンが入ってきた。

「雇った連中からの定時報告だ。といっても一通しか来てないがな」

入ってきたのは銀色の重そうな鎧に身を包んだ騎士のようなデジモンだった。背中と腰に一本
ずつ鞘に収まった剣を持ち、大きな盾を背中に背負っている。しかし何よりも目を引くのは、二
メートルを超える身長に匹敵する大きさの巨大な剣、「ベルセルクソード」だろう。刀身は幅広
く、そして厚い。相当な重量があるであろうそれを剥き出しのまま背中に背負っているが、剣の
持ち主、ナイトモンは平然と歩いている。

「報告が届いたのは一緒に行動しているザッソーモンとメカノリモン達からだけだ。他の連中か
らは何の連絡もなしだ。ザーソーモンの報告を見る限り、モリシェルモン、モジャモン、デルタモ
ンは大方ターゲットに返り討ちにあったんだろう。」

ナイトモンは手にした手紙を見ながら言う。しかしキーボードを叩いている青い服のデジモンは
ナイトモンの言葉にも意に介さない様子で、宇宙人型デジモン、ベーダモンが叫んだ。

「うるさいわね!いま大変なのよ!」

その言葉を聞いてナイトモンは初めて手紙から顔をあげる。狂った機械のように点滅する物体
を見ると、ナイトモンは怒りを露わにした。

「貴様ら!!また「イグドラシル」のシステムをいじろうとしたな!?」

すると今度は青い服を着たデジモン、ヴァンデモンが口を開いた。

「コレを自由に使いこなす事が出来れば、「デジタルハザード」の回避につながります。システ
ムを解析するのは当然でしょう」

ヴァンデモンはさらりと言ってのけたが、相変わらず手はキーボードをせわしなく叩き、顔には
玉のような汗が浮かんでいた。

「ふざけるな!もう何度もシステムを解析しようとする度に「イグドラシル」が暴走し、各地で海
の水が逆流したり、豪雨や吹雪などの異常気象が発生していることを知っているだろう!」

ヴァンデモンの態度が気にいらなかったのか、ナイトモンは怒鳴り散らしながらに二匹に近づ
く。

「うるさいわね!戦闘専門のくせに口出ししないでよ!」

ベーダモンの言葉にナイトモンは言葉を詰まらせ、壁際のほうまで歩いていって腰をおろす。

確かにベーダモンの言葉は間違ってないとナイトモンは思った。元々ハーディックシティで十闘
士の伝説やデジタルワールドの起源を研究していたヴァンデモンやベーダモンならともかく、自
己を鍛える為に旅をしていて、たまたまハーディックシティを通った時に戦闘要員を必要として
いたヴァンデモン達に雇われた自分では、「イグドラシル」の暴走を止める事はできないと。

「まったく、こんな物がこの世界の「神」だとはな・・・」

ナイトモンはイグドラシルを見て憎憎しげに言う。ナイトモンはこのデジタルワールドの「神」に
嫌悪感とも言える感情をいだいていた。増えすぎた住人を全て排除し、自らの管理をより完璧
にした新たな世界を作ろうとした「神」に。

「気に入らない・・・・!」

ナイトモンのその言葉は「イグドラシル」に対しての物だが、自分でいってからその言葉はイグ
ドラシルの周りにいるベーダモンとヴァンデモンにも当てはまる事に気づいた。ベーダモンが
「デジタルハザード」を止めようとする理由、それは自分が英雄になって多くのデジモンから賞
賛をあびたいだけだろう。ナイトモンはそこが気に入らなかった。そしてこの「イグドラシル」を
制御し、「デジタルハザード」を止める計画を考えたヴァンデモンは、何を考えているのか読み
取れない。そして暴走し、異常気象が起こって不特定多数のデジモンに被害が出る事を無視し
てイグドラシルの解析を強行するヴァンデモンの事がナイトモンは気に入らなかった。

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「よーし!引っ張れ!」
「しっかり掴まっていろよ!」

数匹のデジモンが太いロープを引っ張る。ロープの先に繋がれているのはモノクロモンだっ
た。モノクロモンの体はほとんど水に浸かっており、角の先端には小鳥のような成長期デジモ
ン、ピヨモンが掴まっている。

灰色のトンボのようなデジモン、サンドヤンマモンや赤い羽根を持った大きな鳥型デジモン、ア
カトリモンがロープを引っ張る。彼らの体重では激流に流されてしまうが、モノクロモンの体重な
ら激流に流されず、長い角を使って流された者を救助することが出来た。

デジモン達がロープを引っ張ると、モノクロモンの体が少しずつ岸に引っ張られていく。モノクロ
モンはかなり体重が重いが、力も強いので岸に向かって少しずつ、しかし一歩一歩確実に歩い
ていく事が出来た。

「よーし!最後の一人だ!気合入れて引っ張れ!」

デジモン達はこれで終わりとばかりに、残った力を振り絞ってロープを引っ張る。こうしてモノク
ロモンの強力によって、集落のデジモン達の予想以上に早く流された物たちを全員救出できた
のだった。モノクロモンの鼻先が岸に触れると、ピヨモンは角から降りた。

「ありがとー」

ピヨモンが頭を下げてお辞儀をする。

「おーい!この子を火に当ててやってくれー!」

モノクロモンが他のデジモン達に向かって叫ぶと、
寒さで青ざめていたピヨモンの顔がさらに青くなった。

「ハハハ、焼き鳥にするって意味じゃな・・・」

その時、モノクロモンの足元が陥没した。

「いいいいっ!?」

一瞬にしてモノクロモンの体が水面下に消え、モノクロモンの体はアリジゴクに飲まれるかのよ
うに砂の中に飲み込まれる。激流の流れと、モノクロモンが何度も往復した事によって地盤が
緩んでいたのだった。

「う、うわああああっ!?」

ロープを引っ張っていたデジモン達も一気に川岸に向かって引っ張られる。

「も、もう駄目・・・うわっぷ!!」

先頭にいたアカトリモンが水面に顔を突っ込んだとき、急に動きが止まった。アカトリモンが水
面から顔をあげて後ろを見ると、ロープを持つデジモン達が倍以上に増えていた。

増加分は一度流されてから救出されたデジモン達だった。ほとんどはまだまだ非力な成長期
で、全員例外なく体力を消耗しているのに、集落の仲間、そしてそれらや自分達を助けた客人
を助けようと集まってきたのだ。その中にはツチダルモンや、モノクロモンと一緒にいた人間の
子供・・・吉武の姿もあった。ツチダルモンの一体、激流に飲まれて体の表面が解けかかった
者の体には、何か布のような物がかかっていた。アカトリモンはそれが吉武のコートと荷物を
入れていたリュックを切り開いた物だとは気づかなかったが、雨水を弾いているので安心し
た。

「一気にいくぞ!そ―――――れっ!!」

「「「「「そ――――――――――――れっ!!!!!」」」」」

体に布のような物をかけたツチダルモンの号令の下、
多数のデジモン、それと一人の人間の声が豪雨の中響いた。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

「やっと止まったか・・・・」

ナイトモンはようやく腰を上げた。すでに一時間以上経っていた。「イグドラシル」は電源を切っ
たネオンのように輝きを失い沈黙している。ベーダモンは全身汗だくになって倒れており、ヴァ
ンデモンはタオルで顔の汗をぬぐっていた。

「もうそいつの解析はあと回しにしろ。今はターゲットの体内の「X−プログラム」が世に出るの
を防ぐのが先決だ」

「確かに・・・「X−プログラム」が万が一発動したら、この世界のデジモン達はほぼ全て死滅す
るでしょう」

「私が出よう。最初から私がでればこうもてこずる事も無かったのだからな」

「いえいえ、あなたは我々の中でもっと強い。だからこそ不足の事態に備えてここに残って貰わ
ねば。ターゲットの例もありますし、また「反撃」が来る可能性も0ではありません。」

ヴァンデモンは妙に芝居がかった態度で言う。その必要以上にへりくだった仕草がナイトモン
の鼻についた。そしてヴァンデモンは顎に手を当て、しばらく思案する。やがて、いいアイディア
が思いついたと言わんばかりに手を叩いた。

「こうも捕獲が困難だとは予想外でした。「X−プログラム」の解析は
諦め、ターゲットを始末してしまいましょう」

ヴァンデモンはそう言って真っ赤な唇の端を歪めた。

「そうと決まれば、フライモンを差し向けましょうか。彼は暗殺者です。確実に始末してくれるで
しょう」

ヴァンデモンがこのイグドラシルを占拠する際に、防衛システム等を突破する為に雇ったデジ
モンの内の一匹の名前を出すと、ナイトモンが怒りを露わにした。

「フライモンだと・・・あの卑しい暗殺者風情に二度もこの崇高な計画を手伝わせるのか!?」

「ええ、フライモンに任せます。メカノリモンやザッソーモンの手におえる相手では無さそうです
し、頭の足りないバルブモンでは町を離れた途端目的を忘れる可能性があります。それにター
ゲットの捜索にフライモンを加えなかったのは私が解雇したわけではなく、彼が断ったからです
よ」

ナイトモンはヴァンデモンに背を向けた。

「もういい!貴様らがなんと言おうが私が出る!」

「そう言うと思って、昨日の内にフライモンに暗殺を依頼しておきました」

ヴァンデモンの言葉にナイトモンは身を震わせ、壁際まで歩いていって乱暴に腰を下ろした。

「しかし・・・ターゲットと一緒に行動しているという人間が少し気になりますね・・」

ヴァンデモンの呟きに、ナイトモンが答えた。

「捨て置け。人間ごときにこの世界は変えられん」

そう言ってナイトモンは目を閉じた。ヴァンデモンは「やれやれ」という風に首を振り、ノートパソ
コンのような機械に記録されたイグドラシルのデータの一部を調べ始めた。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

「本当にもういっちまうのかい?」

ツチダルモンがいった。数時間前まではドロドロだった彼の体の表面も、砂漠の日差しによっ
て完全に固まっている。モノクロモンを全員で引き上げてから約一時間後、一瞬にして豪雨は
止み、空は晴れ、増水していた川も引き、後には砕けた家屋の残骸が残った。

「ええ、先を急ぎますので・・・」

そういった吉武の声は小さく、後ろにいるモノクロモンもどこか居心地が悪そうだった。吉武の
両腕には大量の荷物が抱えられており、今にも落しそうであった。リュックを裂いてツチダルモ
ンの体を豪雨から保護する為に使ったからである。

「朝食も昼食もあんまり食べてなかったじゃないか。君達のような子はたくさん食べた方がいい
ぞ?」

「い、今ダイエット中な物で・・・・・」

吉武とモノクロモンの態度は早くこの村を出たがっているような印象を与えた。事実、間違って
はいなかった。吉武達は自分達がこの集落に来たせいで、この集落が未曾有の豪雨にさらさ
れたと思い込んでいる。倒壊した家屋を見て心を痛めた二人は、一刻も早くこの村を出ようとし
ていた。

「それでは、僕達はこれで・・・・」

「まってくれ。君達に返したい物があるんだ」

吉武とモノクロモンがツチダルモン達に背を向けようとすると、ツチダルモンが後ろにいた別の
ツチダルモンから何かを受け取り、それを二人に見せた。

「これは・・・!!」

吉武は思わず手にもっていた荷物を落とした。ツチダルモンが持っていたのは、繋ぎ合わせて
直したリュックだったからだ。

「何分不器用なものでね・・みっともない物になってしまって申し訳ない」

デジタルワールドに来て、初めて出会ったデジモン達の住む農場。そこを旅立つ際に作っても
らったリュックは元々綺麗に出来ているとは言い難い物だったが、それにはさらにツギハギが
増えていた。

「ありがとう・・・ございます」

吉武はうつむいたまま受け取り、慌てて荷物をリュックに詰めると、集落のデジモン達に背を向
けて歩き出した。モノクロモンも続いた。

「また来いよ―――っ!待ってるからな――――っ!」

後ろからそんな声が聞こえた。吉武とモノクロモンは走り出した。振り返る事も立ち止まる事も
できなかった。涙を見せたくなかったから。二人の胸には感謝と申し訳ない気持ちで一杯だっ
たから。そして、二人は知らない。この集落で起こった嵐は、ハーディックシティで二人を待つ
「嵐」の前座にしか過ぎないと。


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