吉武達がデジタルワールドに来てから22日目…

密林の集落に遥か昔から伝わる伝承によれば、この密林の奥深くには異世界へとつながるゲ
ートのある遺跡があるらしい。80年前にこの集落を訪れた人間と一匹のデジモンはその遺跡
を探しに行ったきり帰ってこなかったそうだ。その話を聞いた時、ゲートの存在を吉武とモノク
ロモンは確信した。二人は元の世界に帰れると言う期待に胸を膨らませ、翌日の朝、集落から
南へと向かった。

「そういえば…ケンタルモンには何も言わずに帰っていいのか?」

密林を歩いている途中、モノクロモンが呟いた。デルタモンとの戦いでいったん別れたケンタル
モンとはハーディックシティで落ち合う約束だったのだ。

「うーん…ゲートを見つけたらいったん戻ってケンタルモンさんに挨拶をしてから帰ろうか…」

吉武の声は弾んでいる。確実に帰れる事前提で考えているのだ。

「それにケンタルモンさんだけじゃなくて、農場のハヌモンさん達や砂漠の集落のツチダルモン
さん達にも挨拶してから帰りたいな」

そう言って吉武はこの世界に来てから出会ったデジモン達を思い出す。そこで昨日戦った暗殺
者フライモンを思い出して吉武の歩みが止まった。

「ん?どうしたヨシタケ?」

フライモンは言った。この世界には多くの暗殺者がおり、それを必要とする物もたくさんいると。
吉武にはその言葉が信じられなかった。フライモンのような者はほんの一握りだけで、皆自分
が今までに出会ったような親切な者ばかりだと信じたかった。

「あの集落のデジモン達だって、悪い人はいそうに無かったじゃないか…」

自分にしか聞こえないように、自分に言い聞かせるように吉武は呟くと、再び歩き始めた。


第11章 信じる事疑う事―endless Dilenmma―


密林をいつまでも歩いていっても一向に遺跡らしき物は見えて来ず、他のデジモンにも出会う
ことは無かった。しかし、昼過ぎには変化が生じた。一匹の巨大なデジモンが吉武達に近づい
て来たからだ。その姿は巨大な土偶のようだったが、銀色のボディは金属で出来ているように
見え、背中には作り物くさい天使の羽がついていた。常に地面から僅かに浮いているようだっ
たが、羽が動いている様子は無い。

「なんだこいつ…?」

モノクロモンは怪訝そうな声を上げる。土偶は表情を変化させず、吉武達の少し手前で止まっ
て一切の動きを見せない。吉武はその様子から意思をもたない機械のような印象をうけた。

「思い出した!この種族はシャッコウモンじゃないのかな?」

吉武はケンタルモンから渡されたノートに書いてあった情報を思い出した。ケンタルモン自身も
シャッコウモンと言う種族を見たことが無いらしく、ノートには人づてに聞いた特徴が書き込ま
れていたに過ぎなかったが、目の前の土偶の姿はノートに書かれたシャッコウモンの特徴に合
致していた。

「へー、シャッコウモンって言うのかこい…ってわぁ!?」

突如、シャッコウモンは肘間接の無いと思われる腕を振り回して近くの木をへし折ってモノクロ
モンの方向に倒した。

「このっ!何しやがる!」

かろうじて攻撃を避けたモノクロモンはシャッコウモンに突撃し、角を大きく振りかぶる。先日の
フライモンとの戦闘で折れた角は、流木で添え木をして繋ぎ合わせておいたら翌日には後も残
さずに完全に繋がっていた。破片をなくした部分も再生した。

「トマホークスラッシュ!」

モノクロモンの巨大な角がシャッコウモンに向かって振り下ろされる。次の瞬間、辺りに耳を塞
ぎたくなるような大きな金属音が響いた。

「こ…こいつ硬てぇ…!」

シャッコウは腕を振り回し、モノクロモンを突き飛ばす。その一連の動作は相変わらず無感情
だった。

「モノクロモン!シャッコウモンは完全体だよ!」

「完全体!?」

完全体。デジモンなら誰でも知っている言葉の一つだ。その言葉の意味は「成長段階5」。
二段階の幼年期、成長期、成熟期の次の段階…。つまり、種族としてみれば完全体「シャッコ
ウモン」は成熟期「モノクロモン」よりも格上…モノクロモンが戦うには不利な相手だ。

「このぉ!完全体だからって…ヴォルケーノストライク!」

モノクロモンの口から大きな溶岩弾が放たれ、シャッコウモンに直撃する。しかし、シャッコウモ
ンには傷一つついていない。シャッコウモンは首を回して吉武達に向けると、目から光線を放
った。

「危なっ…!」

しかし狙いが甘かったのか、吉武の後ろにある木に命中し、木が炎上する。シャッコウモンは
体を吉武達の方向に向けると、シャッコウモンの腰の部分の模様が開いた。開いた穴の中か
ら無数の金色の円盤が飛びだす。それらの円盤には細かい刃が生えており、高速回転して吉
武達に向かってきた。

「げっ!」

「逃げよう!」

吉武とモノクロモンは踵を返して走り出す。シャッコウモンの移動速度は遅いらしく、シャッコウ
モンは直ぐに撒くことが出来たようだ。しかし金色の円盤は辺りの枝葉をカットしながらしつこく
追尾してくる。数は数十枚。いずれ追いつかれるだろう。

「モノクロモン!」

「何だ!?」

吉武に声をかけられモノクロモンは思わず止まろうとする。

「走りながら聞いて!」

「わかった!」

「二手に分かれよう!」

「何で!?」

「こう言うときはそうした方がいいような気がするから!」

「なるほど…俺もそう思う!」

そう言ってモノクロモンは吉武から離れ、別な方向へ走り出す。吉武もそれとは反対方向に走
り出す。金色の円盤は一瞬動きを止めたが、直ぐに二手に分かれてそれぞれを追った。

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「ハァ、ハァ…」

吉武の体力は限界に近づきつつあった。金色の円盤の追撃から逃れる為、あちらこちらを目
茶苦茶に走り回ったためかなり体力を消耗していた。しかも円盤の追撃はまだ続いているの
だ。

「もうあんなに近くに…」

吉武が後ろを振り返ると、円盤との距離だいぶ縮まっていた。吉武が再び前を向こうとすると、
急に視界が暗転した。金色の円盤は吉武の姿を見失った。しばらくの間その一帯をウロウロし
ていたが、やがてその場を離れた。

「いててて…」

吉武は縦穴に落ちたのだった。穴の周りに草が茂っていたので、穴の位置がわからなかった
のだ。

「とりあえず逃げられたみたいだけれど…」

そう言って吉武は上を見上げる。この穴は丸底フラスコのような形になっているらしく、天井が
遠い。壁がオーバーハングになっているので上るのも無理そうだ。吉武は他に地上へ続く道が
無いかと辺りを見回す。

「あれ…?」

その時、吉武は隅っこに何かがうずくまっている事に気付いた。薄暗くてよく分からないので、
吉武はその何かに近づいてみる。

「ヒッ!?」

それは人間の骨だった。吉武は思わず飛び退き目をそむける。そして再び恐る恐る目をむけ
る。やはり人間の骨だった。

「どうして…こんな所に…」

恐怖を紛らわせる為、吉武はこれが本当に人間の骨がどうか考える。以前ケンタルモンから
聞いた話では、人間に近い姿のデジモンもたくさんいると聞いた。そのデジモンの骨ではない
かと吉武は考えようとした。しかし、デジモンが死亡すると例外を除いてその肉体は消滅すると
いう事をすぐに思い出した。

「やっぱり…これは…」

『80年前にゲートを探しに来た人間の死体』と言う言葉を吉武は飲み込む。その時、吉武は骨
の近くに一冊のノートが落ちている事に気付いた。

「これは…」

吉武はノートを拾い上げてみる。何処にでもある大学ノートのようだった。ページをめくってみる
と、どうやら日記として使っていたらしい。

「人の日記を見るのはちょっと気分が悪いけど…」

そう言って吉武はページをめくる。最初の方はこのノートの持ち主がデジタルワールドに来る前
の日記だったようだ。途中からはデジタルワールドに来た後の日記になっており、彼も吉武と
同じように元の世界に帰る為の方法を探して一匹のデジモンと旅をしていたらしい。

ある程度ページが進むと急に字が汚くなり、書きなぐったような印象を受けるページが続いて
いる。読んでみると、それは彼が共に行動していたデジモンへの憎悪の言葉だった。それに続
いて、デジタルワールドや全てのデジモンへの憎悪の言葉が書きなぐられている。

「…」

吉武はそこで気分が悪くなってノートをすてる。何が起こったのかは吉武にも想像がついた。ゲ
ートの情報を聞いて遺跡を探していた彼は、あのシャッコウモンと出会ったのだろう。そしてシ
ャッコウモンから逃げ回っているうちにこの穴に落ち、やがて…。

「助けがこないで…餓死した?」

言葉に出した途端、それまで味わった事の無いほどの恐怖が襲ってきた。自分も餓死するか
も知れないと言う恐怖と、モノクロモンが助けに来てくれないかもしれないと言う恐怖が。ノート
の持ち主と共に行動していたデジモンも、日記を見る限りでは人間ととても中が良いように見え
た。しかし、彼は人間を助けに来なかったのだ。高い戦闘能力を持つシャッコウモンに襲われ
る危険を冒してまで人間を助ける道を選ばなかったのだ。

「みんな、自分の命が大事なんだ…」

そう考えると、吉武は今まで自分のであったデジモン達の優しさは嘘で、暗殺者フライモンの言
ったようなどす黒い部分が真実でないかと言う思いに取り付かれる。

「恐い…恐いよ…」

そう口にするとよけい恐くなるとわかっていても、思わず口にしてしまう。吉武の精神は急速に
疲弊していった。

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どのくらい時間が経ったのだろうか。あれから吉武はうずくまって目を閉じたまま恐怖に震えて
いた。そして動いてもいないのに体力が失われていくのを吉武は感じていた。

「寒い…」

穴の中は酷く蒸し暑く、事実全身汗まみれなのに吉武は寒気を感じていた。リュックの中には
コートが入っているのに、寒気を感じても吉武はそれを着なかった。目を開けると否応なしに現
実を突きつけられるからだ。ゆっくりと、しかし確実に苦しみながら死んでいく現実を。いや、助
かる可能性はあるのだが、今の吉武はそれを認めようとしなかった。モノクロモンが自分の場
所を探し出してくれると言う可能性を。

「嘘だ…嘘なんだ…」

時間が経つにつれてデジモンへの猜疑心はどんどん深まっていった。吉武は今までに出会っ
たデジモン達との出会いの思い出を心の奥底に追いやり、それらは全て嘘だと思い込み、邪
悪な部分こそ本当の姿だと思い込んでいた。それこそが体力を蝕み、寒気を感じさせる原因
だと吉武は気付いていない。

「ヒッ!?」

吉武は背中に冷たいものを感じ、おもわず目を開ける。穴の中の湿った土が僅かに崩れて、
その破片が吉武の背中に入ったのだ。その時、吉武の目に、ツギハギだらけの自分のリュッ
クが目に入った。このデジタルワールドに来て、初めに来た農場で作ってもらったリュックだ。
ツギハギは数日前に立ち寄った砂漠の集落で、ある事情からリュックを破かなければならかっ
た事があり、集落を発つ際に集落のデジモン達が直してくれた後だ。

それを見た時、心の奥底に追いやっていた今までに出会ったデジモン達の思い出が蘇ってき
た。自分とモノクロモンを仲間として扱ってくれた草原の農場のハヌモン達。地下の集落に住
み、自分の感情を押し殺して厳しい態度で集落を守っていたドリモゲモン(ドリルがとても素敵
だった)。リュックを直してくれた砂漠の集落のツチダルモン達。自分達が元の世界に帰る為の
手がかりをさがし、最後まで自分達の味方だと言ってくれたケンタルモン。そして、長い間家族
のように暮らしてきたモノクロモン。

彼らのやさしさや友情は本当は安っぽい物で、本性は自分させよければそれでいいと思ってい
るのかもしれないと吉武は頭では分かっていた。しかし、彼らの事を思い出して湧いてくるの
は、憎しみや怒り、嫌悪とは違う暖かくて熱い感情だけだった。

「ヨシタケー!何処にいるんだぁー!?」

その時、穴を覆っている草がガサガサと動き、ドスドスと言う足音が聞こえてきた。

「モノクロモン!?」

足音が止まる。

「ヨシタケ!?どこにいるんだ!?」

「たぶん足元…草をどければ…」

しばらくして、穴を覆っていた草が払われ、モノクロモンが穴を覗き込む。

「ヨシタケ!よかった…!今ロープになりそうな物を持ってくるからな!」

そう言ってモノクロモンはその場を離れる。モノクロモンの姿が見えなくなると、吉武は小さい声
で呟いた。

「…運が良かっただけさ」

その時、頭上からモノクロモンの悲鳴が聞こえてきた。

「モノクロモン!?」

「このっ…!撒いたと思ったのに!」

頭上からはモノクロモンが走り回る音と、何かの回転音が聞こえる。おそらくはシャッコウモン
の放った金色の円盤が追いかけてきたのだろう。吉武はずっと穴のそとを見つめていたが、突
如モノクロモンの悲鳴が響き渡る。さっきよりも悲鳴が大きい。おそらく、強烈な一撃を喰らっ
たのだろう。

「モノクロモン!僕の事は構わずに逃げてっ!」

吉武は思わず叫んだ。体が勝手にそう叫んだと吉武は感じた。

「ヨシタケをおいて…逃げられるかっ!」

モノクロモンが叫ぶ。足音からして逃げる気は全く無いのが分かった。吉武は自分自身がさけ
んだ言葉に戸惑っていた。彼自身がさっきまで薄っぺらいと思っていた、自己犠牲の言葉を叫
んだ事を。吉武が戸惑っているうちに足音が静かになり、やがて穴から長くて太いツルが垂れ
てきた。吉武がそれに掴まると、ツルは上に引っ張りあげられ、吉武は地上にでる。

「大丈夫か?ヨシタケ?」

そういったモノクロモンの体のあちこちには傷がついており、硬い外皮もヒビだらけだった。辺
りを見回せばそこらじゅうに金色の金属片が散らばっている。

「モノクロモン…ありがとう!」

吉武は泥だらけの体でモノクロモンの鼻先に抱きついた。

「なんだよ…なんかいつもと違うぞ?」

モノクロモンが近くを通ったのも、吉武が餓死する前に発見できたのも運が良かっただけだ。
シャッコウモンがもっと強かった場合、命の危険を冒してまでモノクロモンが吉武を助けるとい
う保障は無い。吉武はそう考えていた。しかし、あふれる涙と胸の奥に湧き上がる熱い思いは
抑えられなかった。

「ヨシタケッ!」

突然、モノクロモンが吉武を突き放した。次の瞬間、さっきまで吉武がいた場所を光線が薙ぎ
払った。シャッコウモンが現れたのだ。

「逃げよう…今の僕達に勝てる相手じゃない!」

「クソッ!悔しいがその通りだぜ…吉武!俺の背中に!」

吉武がモノクロモンの背中に乗ると、モノクロモンは全速力で走り出す。それをシャッコウモン
が追う。

「モノクロモン!集落へ戻る道は分かる!?」

「わかんねぇ!あっちこっち走り回ったからな!」

吉武はポケットからコンパスを取り出す。磁石は狂っていない。地図と併用すれば集落まで走
って逃げる事も可能だが、吉武はそれを良しとしなかった。

「道が分かっても村には戻らないぜ!あいつ、村まで追ってきそうなくらいしつこいからな!」

吉武は頷く。その時、近くに崩れた石柱のような物を見つけた。

「…遺跡が近いんだ!モノクロモン!このまま遺跡へ行こう!」

「ゲートで帰るんだな!それはいい考えだぜ!」

吉武は石柱の付近に砕けてボロボロになっている石畳を見つけ、モノクロモンはそれにそって
走り出す。しばらく走っていると石畳の両脇に石柱の残骸が増えていき、吉武は遺跡が近い事
を確信した。

「もう少しだ!もう少しで帰れるんだ!僕たちの家へ!」

吉武とモノクロモンは期待に胸を膨らませ、スピードを上げる。

「「ああ!?」」

しかし石畳の終わりでモノクロモンは走るのを止めた。石畳の終わりで待っていたのは、崩れ
た石柱や壁の後だけが残る更地だったのだ。

「なん…で?」

「たぶん…もうずっと昔に遺跡は壊滅していたんだよ…」

『80年どころじゃない、ずっと大昔に』と吉武は心の中で付け加えた。遺跡を見渡しても、瓦礫
はほとんどなくほとんど平らな土地だ。ゲートは無いだろう。

「「!!」」

その時、吉武とモノクロモンは背中に気配を感じて振り向く。そこには追いついたシャッコウモ
ンが佇んでいた。

「こいつ!」

モノクロモンは身構える。しかし、シャッコウモンはゆっくりと背を向けると、密林の中へ入って
いき、やがて姿が見えなくなった。その姿を呆然として見ていたモノクロモンが呟く。

「あいつ…なんだったんだよ…」

「シャッコウモンは確か数少ない『古代種』デジモンなんだっけ…」

ひょっとしたらシャッコウモンは遥か昔からこの遺跡を守っていたのかも知れない。長すぎる寿
命と引き換えにあのシャッコウモンは心を壊し、そうやって何百、何千年と。そのせいで遺跡が
滅びた事を知覚できず、今、やっと遺跡が滅びた事を知覚したのかもしれない。吉武はそんな
ことを考えた。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

「そうですか…私が80年前にであった人間はそんな事に…」

吉武は密林の集落に戻った後、密林の集落の長のジャングルモジャモンに密林で見つけた人
間の骨の事を話した。

「はい…あの人の骨は簡単な墓を作って埋めました。できる事なら元の世界に帰して上げたか
ったのですが…」

「絶望や憎悪の中で苦しみながら死んでいったとは…可愛そうに…」

そういった長の表情は悲痛な物だった。

「僕は…あの人が一緒に行動していたデジモンはあの人を見捨てて逃げたんじゃなく、探して
いるうちにシャッコウモンに殺されてしまったのだと信じたいです…」

吉武はうつむいたまま言う。しかし直ぐに顔を上げた。

「そして…この世界のデジモンも、悪い人ばかりじゃないって信じたい…いや、最後まで信じま
す!」

そういった吉武の表情には決意のような物が感じられた。それを見て長は微笑む。

「貴方が彼の悲劇を知りながらそう信じてくれる事が、私はデジモンとしてとても嬉しい。貴方と
共にいるモノクロモンや、貴方が今までに出会ったデジモン達に感謝しなければいけませんな」

「ヨシタケ!早くみんなと一緒にメシを食おうぜ!長さんもみんな待ってるぜ!」

家の外からモノクロモンの声が聞こえる。この集落では決まった時間に皆で夕食をとるのが習
慣なのだ。吉武と長はテーブルから立ち上がる。

「ハーディックシティや宿場町となっている荒野の集落には最近、傭兵じみた連中や裏の世界
に通じている者がたむろしていると聞いています…お気をつけて」

そう吉武に耳打ちすると長は途端に表情を明るくする。

「ま、それはおいといて今は楽しくやりましょうや」

@@@@@@@@@@@@@

「ホホー、確かにワシも知らないデジモンの細胞のようじゃのー」

ディスプレイに表示された解析結果を見て、小さなマシーン型デジモンは歓喜の声を上げる。

「エエ、その上奴には人間のオマケ突きですヨ〜♪」

ザッソーモンが揉み手をして言う。後ろにいるメカノリモンは不満そうな顔をしている。

「人間!おお、実に甘美な響き…涎がでそうじゃわい!」

マシーン型デジモンは身震いする。どう見ても半壊しているようにしか見えない彼の頭部から涎
の変わりに火花がスパークする。

「じゃ、捕獲したら報告お願いしますネ〜」

しかしマシーン型デジモンはザッソーモンなどまるでいないかのようなそぶりで機械から手の平
ほどの大きさの黒い破片を取り出すと、それを手にもって興味深そうに眺める。

「あの…聞いてます?」

「ああ、聞いとる聞いとる。ザッソーモンとメカノリモンなんかに興味は無いからもう帰っていい
ぞ」

@@@@@@@@@@@@@@@@@

「あのジジイ…何だよあの態度!」

マシーン型デジモン…ナノモンの研究所からでたメカノリモンは酷く憤慨していた。それをザッソ
ーモンがなだめるように言う。

「マァマァ…興味をもたれなくて正解デスヨ?何せあのナノモンは気に入った研究材料を見つけ
ると、知識欲を満たす為に解剖や人体実験を平気でするって噂ですからネ〜♪」

メカノリモンの装甲の温度が急激に下がった。

「フライモンでは勝てなくても、今度こそ終わりですヨ〜♪」


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