吉武達がデジタルワールドに来てから23日目…


朝早いうちに吉武達は密林の集落を発った。早朝の気温が低いうちにこの密林を越えてしま
おうと言う考えだ。

「今日中にこの密林を抜ける事ができれば…明後日には荒野の集落に着くかな?」

吉武は地図を見ながら言う。

「もうハーディックシティまでの道のりの半分は超えた事になるのか?」

「まだもう少し先だね。今いる所は…10分の4ぐらいかな?」

「10分の4か…俺、そんだけの道のりを進んだのにあんまり強くなってねぇなぁ」

モノクロモンがため息をつく。

「気を落さないでよ。モノクロモンはアグモンだった頃に比べればもの凄く強くなってるよ。」

「でもさぁ、もっと強い敵が出てくるかもしれないし…」

「でも、大岩を砕くほどの力をモノクロモンは持っているし、この前に戦ったフライモンにだって
勝てたし…」

そこでモノクロモンは首を横にふった。

「でも昨日あったシャッコウモンには歯が立たなかった。フライモンだって吉武がいなかったら
危なかった…もっと強くならないと…」

そこで吉武は複雑な気持ちを感じた。吉武はモノクロモンが強くなりすぎるのが恐いのだ。強い
力が恐いと言うよりも、あまりにも強い力を手に入れると、モノクロモンがモノクロモンで無くなっ
てしまう様な気がして。

「うん…頑張ってね…」

吉武は曖昧な言葉でその場を濁した。モノクロモンはその曖昧な返答を訝しげに思ったが、ま
あいいやとすぐに気にしなくなった。

吉武はモノクロモンが強くなりたがる理由を知っていた。襲い掛かってくるデジモン達は全てモ
ノクロモンを狙ってくる。モノクロモンは自分が原因で吉武が危険にさらされるのが耐えられ
ず、一人で敵を撃退できるだけの力を求めているのだ。


第12章 赤き光―Xevolution―


吉竹達が密林を歩いていると、爆竹が弾ける様な音が聞こえた。

「何の音だ?」

「誰かいるのかな?」

吉武達は辺りを見回したが、辺りには誰もいない。

「うっ!」

突然、そう言ってモノクロモンが倒れた。

「モノクロッ…も…ん…」

吉武は自分の手足が痺れ、眼が霞むのを感じた。吉武は以前これとよく似た感覚を味わった
事がある。フライモンの毒鱗粉…ポイズンパウダーをあびた時だ。吉武は再びフライモンが
襲ってきたのかと思ったが、段々と意識が薄れてきた。

「ふむ…麻痺ウイルスは普通に効くようじゃな…」

意識を失う直前に吉武の耳に飛び込んで来たのはノイズ交じりの老人の声と、鉄の靴の足音
だった。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

「…う…ん」

次に目を覚ました時、目に飛び込んで来たのは金属で出来た天井だった。天井からは大小
様々な器具が吊り下げられている。

「ここは…!?」

その時、モノクロモンの欠伸が聞こえた。吉武がそちらを振り向くと、金属の台にうつ伏せにな
る形でモノクロモンが固定されていた。

「モノクロモン!」

吉武は驚いて体を起こそうとするが、体は持ち上がらなかった。周りを見て自分も金属の台に
固定されている事に気付く。

「ヨシタケ…ここはいったい何処だ?」

吉武とモノクロモンが辺りを見回すと、二人がいる部屋は金属でできているらしい事が分かっ
た。あちこちにツギハギがあり、まるでガラクタを組み合わせて作ったような印象を受けた。

「まったく…肝心な時にばかり故障しおって…」

吉武が拘束されている台の脇から声が聞こえた。気を失う寸前に聞いたノイズ混じりの老人の
声が。カチャカチャという音がしばらく続いたあと、再びその声が聞こえた。

「まったく…手間をかけさせおって…」

声が大の横から離れたとき、その姿を吉武達は確認した。縦長のカプセルのようなボディに手
足を生やした小さなロボット、とでも形容すればいいのだろうか?しかしカプセルの頭部に当た
る部分は割れていて中に詰まっているコンピュータが露出している。その他にも装甲が砕けて
中の機械が露出している部分があり、二つのギョロギョロとした目玉は真っ赤に充血している。
その姿は「ロボットのゾンビ」とでも形容した方が適切な感じがした。

「てめぇ!何もんだ!メカノリモン達の仲間か!?」

ロボットゾンビに向かってモノクロモンが怒鳴りつける。

「お?目をさましたようじゃな」

ロボットゾンビはモノクロモンの方に振り向く。

「今日は起源がいいからの。特別に答えてやろう。一つ目の質問じゃが…ワシの名はナノモ
ン。この荒野に研究所を構える完全体デジモンじゃよ」

荒野と言うのは密林を抜けた所にある荒野だろう。

「二つ目の質問じゃが…はて、ワシはここ数年メカノリモン種のデジモンになどあったかのう…
まぁそんな事はどうでもよい」

昨日あったばかりのメカノリモンの事はナノモンのメモリーには残っていなかった。彼は自分の
興味の対象外の事に関してはとても記憶力が悪い。

「早速調べ始めねばな」

ナノモンは壁に取り付けられている巨大なディスプレイへ駆け寄り、その下にあるキーボードを
叩いた。すると吉武達が固定されている台の上に釣り下がっていた器具の内の何本かが天井
から降りてきた。降りてきた器具は太いチューブの先にカメラらしき物がついている物で、それ
らは獲物を伺う蛇の様に動きカメラに吉武達の姿を移す。ディスプレイには「処理中」という意
味のデジ文字が表示されている。

「ふふ…いつもならこのコンピュータの処理時間がわずらわしく感じられる物じゃが…今日ばか
りはワクワクさせてくれるわい…」

ナノモンは楽しそうにディスプレイの前で足踏みしている。それとは裏腹に、吉武とモノクロモン
はじっとりしたカメラの視線のせいで嫌な気分になっていた。

「おお、データが集まったか!?」

ナノモンは喜々がしてキーボードをいじると、
モノクロモンのデータらしき物が表示された。

「ふむ…筋力はモノクロモン種の平均よりも上…これは単なる個体差か?それとも
種族による差か?」

ディスプレイを見つめるナノモンの目は、誰が見ても分かるほど喜びの色が浮かんでいた。

「角の異常発達…これは単なる突然変異か…しかしこれだけ大きいと…」

ナノモンはディスプレイを箸から箸まで眺めてため息をつく。

「思った通りじゃ。予測最大速度がモノクロモン種の平均よりも落ちておる。
あの角が原因じゃな」

「大きなお世話だ!」

ナノモンに自慢の角をバカにされたような言い方をされ、モノクロモンは怒る。しかしナノモンは
それを無視して別な情報を開く。画面に出てきたのはワイヤーフレームで構成された球体。内
部には七つの赤い光点が輝いている。

「おお!すばらしい!見た事もないデジコアだ!」

ナノモンは歓喜の声を上げる。

「デジコア…?」

吉武は以前ケンタルモンから「デジコア」と言う言葉を聞いた事があった。デジコアとは文字通
りデジモンの核の事で、デジモンの姿形の情報、記憶、感情、体を作りそれを動かす為のエネ
ルギーを内包しているらしい。モノクロモンはそれが他のデジモンと大きく異なると言うのだろう
か?

「この光点…これは抗体のような物か…?しかしデジコア自身が抗体を持つなどと…デジコア
そのものに対する強力なウイルスが存在しなければ成り立たない…」

ナノモンはしばらく考え込むと、我慢できなくなったかのようにキーボードを叩く。

「こ、この抗体も気になるが人間の体も気になる!とりあえずこっちは
後回しにして人間の体のデータを見るのじゃぁ!!」

ディスプレイに表示されたのは、3DCGの人体模型だった。吉武は自分の人体模型を見て一
気に気分が悪くなった。

「おおおおお!す・ば・ら・し・い!!」

対してナノモンはこれ異常ないという程の歓喜の声をあげた。体を痙攣させながら頭部を激しく
スパークさせている。

「すばらしい!素晴らしいぞ!今まで人間の体の構造は獣人型や魔人型の体のつくりを参考
に予測していくしかなかったが…」

ナノモンは目から涙すら流している。よほど感動したのだろう。

「おお!デジコアがないぞ!その他にも生殖器の存在やDNA配列の違いなど、興味深い情報
が盛りだくさんじゃぁぁぁぁぁ!!」

ナノモンの頭部からのスパークが更に激しくなる。吉武とモノクロモンは拉致されて拘束された
と言うのにナノモンが心配になって来た。

「魔人型、獣人型、哺乳類型などと体の作りの一部が似ている…さすがは我らが祖じゃぁぁぁぁ
ぁぁぁぁ!!」

「祖?それはどういう意味ですか?」

しかしナノモンには吉武の質問が聞こえてないようだった。

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「おい…俺達いつまでここにいりゃぁいいんだ?」

荒野の真ん中でメカノリモンが言う。外からは分からないが彼の目は現在望遠モードになって
おり、その目に写っているのは遠く離れた所にあるガラクタを繋ぎ合わせたような建物だった。

「ヤツラの死亡が確認されるまでデスヨ〜♪」

メカノリモンの傍らにいるザッソーモンがポップコーンのような食べ物を口に入れながら言う。

「奴等は建物の中だぜ?もうとっくに死んでいるかも…」

「ヤツラとの戦いでは何が起こるかわかりません。念には念を入れすぎるぐらいで十分なんデ
スヨ〜♪」

ザッソーモンは空になったポップコーンのカップを捨てると、近くにあった大きな袋に手を突っ
込んだ。

「ホント、荒野の宿場町には色々な物が売ってマスネ〜♪ン?」

大きな袋の中身は空だった。ザッソーモンは別な大きな袋に手を突っ込む。するとベチャリとし
た生ぬるい物が手の先にふれた。手を袋から抜くと白くてベタベタした物が手の先に突いてい
た。ザッソーモンは甘い匂いのするそれを食べた事があった。

「アナタ…「アイスクリーム」を買ってきたデショ…!」

ザッソーモンは荒野の集落で食料の買出しに行って来たメカノリモンを睨みつけた。

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「ふぅむ…人間達の学校とはその様になっておるのか…」

ナノモンはキーボードに吉武から聞いた人間世界の情報をうちこんだ。スキャンした人間、澤
田吉武のデータを一通り見てナノモンは落ち着いてくると、吉武に背を向けたまま人間世界の
事を聞いてきた。言われるがままに答えているうちに、吉武のナノモンに対する警戒はほぐれ
て来た。

(ナノモンは知的好奇心が強いだけで、話せば分かる結構いい人なのかもしれないな…)

吉武は以前デジタルワールドの知識を知りたくて、ケンタルモンからそれらを教えて貰うのが楽
しくてしょうがない時期があった。だから吉武は未知のデジモンであるモノクロモンや人間であ
る自分に対してナノモンが強い興味を示す気持ちが分かるような気がしたのだ。

「それでは次の質問じゃ。ワシらデジモンはデジタマから生まれてくる。そのデジタマは自然発
生してくるが…」

「デジタマは自然発生してくるの!?いったいどうやって…」

吉武は以前から気になっている事を聞いたが、ナノモンは吉武に背を向けたまま言葉を続け
る。

「では人間の場合はどうじゃ?人間もデジタマから生まれるわけではないのじゃろ?」

「え」

吉武は思わず顔を赤くする。モノクロモンはキョトンとした顔で吉武を見つめている。

「え、ええと…僕の体を調べたデータとかでは分からないの?」

「人間の事を調べていたデジモンなら過去に多く存在する。多くの研究者が長い月日をかけて
出した結論によれば人間は「有性生殖」という行為を行なって増えるそうじゃが…正確な所が
知りたいのじゃ。おぬしなら知っておろう?」

ナノモンは相変わらずキーボードを叩きながら変らぬ調子で答える。その声はどこか浮ついて
いて、心ここにあらずと言う感じだった。

「そ、そう…」

吉武はどう返答するか困っていた。吉武だって漠然としかそれを知らないし、なによりその様な
事を口にするのはためらわれた。

「え、と、そ、それは…ううん…」

吉武が口ごもっているとそれまでそわそわとしていたナノモンが突如大声をあげた。

「ええい!もう我慢できん!」

ナノモンは乱暴にキーボードを叩く。すると天井に下がっていた器具が一つ、吉武が固定され
ている台の上に降りていき、吉武の顔にガスを吹き付けた。まもなく吉武の手足が痺れて感覚
が無くなってきた頃、吉武は自分の台の上に別な器具が降りてくるのに気付いた。その器具の
先端には薄い円盤カッターが付いていた。

「ええ!?」

「ヨシタケ!てめぇ何しやがる!」

そこでナノモンが始めて吉武達の方を振り向いた。

「腕を切断するのじゃ!CGの画像では我慢できん…研究者たる者、何事も自分の手で触って
調べねばならんかのう…!」

ナノモンの言葉に吉武は自分の体から血の気が引くのを強く認識した。

「なぁに!おぬしは貴重品じゃからのう!すぐに止血してやるわ!」

その時、吉武とモノクロモンは初めてナノモンの目を真正面から見据えた。ナノモンの瞳の奥
にはまごうことなき狂気の色が浮かんでおり、それを見た吉武の心には恐怖が、モノクロモン
の心には怒りが生まれた。

「させるかよぉぉぉぉ!!」

モノクロモンが力を振り絞ると、モノクロモンの四肢を固定していた拘束具が弾け飛ぶ。モノク
ロモンは今までで一番強い力が湧いてくるのを感じた。

「ヴォルケーノ…ストライック!!」

モノクロモンは口から溶岩弾を放って円盤カッターなどの器具を吹き飛ばす。そして吉武が拘
束されている台を角で叩いて変形させ、吉武の拘束を解く。

「モノクロモン…」

吉武は立とうとするが手足に力が入らず、起き上がれない。それを見てモノクロモンは吉武を
かばう様にナノモンと吉武の間に立つ。

「ジジイ!もう許さねぇぞ…」

「ふむ…予想以上の力じゃな…ワシが今まで見てきた成熟期の中ではトップクラス…」

ナノモンは自分を睨みつけているモノクロモンなどまったく意に介さない様子でキーボードにさ
っきのモノクロモンの行動を打ち込む。

「無視してんじゃねぇ!トマホークスラッシュッ!」

モノクロモンは角を振り上げナノモンに突進する。しかしナノモンは避けるそぶりを見せずにモ
ノクロモンに向き直る。

「大事なデータを壊されては叶わんからのう…」

ナノモンは両手の指先をモノクロモンに向ける。

「防御力の測定と行くかのう…プラグボム!」

ナノモンの指先の金属が無数の小さなカプセルとなって離れ、モノクロモンに向かっていく。

「こんな物で…!」

モノクロモンは勢いを緩めずにカプセルの群れに突っ込む。次の瞬間、モノクロモンの周りで
無数の小規模な爆発が起こった。小規模といっても絶え間なく爆発が続き、爆発がおさまると
そこにはモノクロモンが倒れていた。硬い外皮はコナゴナに砕け、それ以上の硬度をほこる巨
大な角も砕け散っていた。

「ふむ…例の抗体はワシのプラグボムの防御力低下ウイルスを防げるような物ではなかった
ようじゃな。装甲も防御力低下を喰らってはフルパワーのプラグボムを防げない。他の成熟期
に比べて遥かに勝っていると言う訳でもない…所詮は成熟期、か」

ナノモンははき捨てるように言う。

「モノクロモン!」

吉武はモノクロモンに駆け寄る。すでに麻酔はきれていた。モノクロモンのダメージは想像以上
に酷く、全身からおびただしい量の血が流れ、右前足に至っては肉がえぐられて骨が露出して
いる部分があった。

「まだだ…まだ戦える…!」

モノクロモンは立ち上がろうとするが、右前足に力が入らず立ち上がれないでいる。吉武はそ
れを見て必至に泣きながら叫ぶ。

「そんな!逃げようよ!勝てないよぉ!」

「あまり無理はするな。おぬしらは貴重品じゃと言ったじゃろう」

吉武はナノモンを睨む。

「貴方って人は…命をなんだと思っているんだ!」

「はやく人間の体組織をこの手で調べたいのじゃ。大人しくしておれ」

そのようなかみ合わない会話をしている間もモノクロモンは立ち上がろうとし、右前足や体中か
らおびただしい血が流れる。

「もうやめてよ!なんでいつもモノクロモンは戦おうとするの!?恐くないの!?」

「俺は傷つく事は…恐くない…恐いのは…ヨシタケが傷つくことだぁぁぁ!」

モノクロモンはそう言って立ち上がる。そして、モノクロモンの体を赤い光が包み込んだ。

「これは…あの時の…モノクロモンに進化した時の…!?」

「これは進化の光…?じゃが…赤い!赤いぞ!!」

その光はあまりにも赤く、水晶のように透き通っているかと思えば深い海のように光の向こう側
が見えなかった。

「モノクロモン X進化ぁぁぁぁ―――――っ!!」

モノクロモンの周りを赤い光の帯が取り巻き、モノクロモンの体がワイヤーフレームとなる。ワ
イヤーフレームがワイヤーフレームの中心にある球体を取り巻くように変化し、球体方になる。
ワイヤー球体の表面が波打ちそこから手足が生え、ワイヤー球体に裂け目が入りそこが口と
なる。赤い光の帯がワイヤーフレームの中心にある球体に吸い込まれ、全身をテスクチャーが
包む。

「マメティラモン!!」

光が晴れ、現れたのは一匹の小さなデジモンだった。ナノモンと同じくらいの大きさで、丸い体
から短い手足と尻尾が生えていた。赤い皮膚の模様や質感、手足の爪は恐竜を連想させ、顔
(胴体?)には金属製の兜を被っていた。

「マメティラモン…もしかしてモノクロモンなの…?」

吉武は呆けている。ナノモンはその瞳を歓喜の色に輝かせていた。

「馬鹿な…成熟期になったのが二十日ほど前…こんな短期間に完全体に進化するわけがない
…。それよりもマメティラモンという種族…このワシですら聞いた事がない…四聖獣や十闘士
の伝説にもあのようなデジモンは出てこないぞ…!」

「ゴタゴタうるせぇぞっ!」

マメティラモンはナノモンに突っ込む。しかしナノモンは落ち着き払って両腕を上げる。

「プラグボムッ!」

「くっ!」

マメティラモンは横っ飛びに避けたが、ダメージを受けてしまった。プラグボムによってではな
く、勢いがつきすぎて壁に激突して。

「追え!」

カプセルの群れは方向を90度かえてマメティラモンに向かう。

「マメティラモン!床をはがして盾に…」

吉武が叫ぶ。

「その手があったか!」

マメティラモンは床の金属板を引っぺがし、
カプセルの群れに投げつける。金属板に阻まれカプセルは爆発する。

「ぬっ!?」

さらに煙の中を突っ切ってナノモンに近づいたマメティラモンがナノモンを左フックで殴り飛ば
す。ナノモンはディスプレイに叩きつけられ、そこで跳ね返って床に叩き付けられる。

「どーだ!俺達をこのまま逃すのなら許してやるぜ」

「ほ、ほほう…マメティラモン…その名の通りマメモン系統と恐竜系統の特質を兼ね備えたデジ
モンか…是非とも研究したくなったぞ!!」

ナノモンは起き上がり、床の隙間に向かって手を突っ込む。

「チッ!まだやる気かっ!?」

ナノモンが床の隙間から手を引き抜くと、その先には巨大なパイプの塊のような装置が付いて
いた。その装置から何本ものコードが床下に繋がっていた。

「この装置はワシのプラグボムの破壊力を増幅する装置…究極体を捕獲する為に作ったもの
じゃがの…究極体が見つからないから貴様で試運転じゃっ!」

装置の先から無数のカプセル…もはやその大きさも発射スピードも小型ミサイルといって差し
支えない物が発射された。

「でぇぇぇぇぇ!?」

狙いが甘く、スピードの為軌道変更も出来ないのでマメティラモンは簡単に避けられたが、無
数のカプセルは天井を貫いた。

「このぉっ!」

マメティラモンは発射後の隙を狙って突っ込む!

「ワシの技術力を甘く見るなっ!」

しかし即座にカプセルは装てんされる。

「いいいいいっ!?」

ギリギリで交わすが、次々とカプセルは発射される。

「ハハハハ!機動性と防御力の計測が同時に出来て便利じゃわい!!」

次々と壁や天井が破壊されていく様を、吉武は部屋の隅で見ていた。

「…あの装置のコードを切るか、あれを制御しているコンピューターを壊せばとまるかもしれな
いけど…」

吉武はさっきナノモンが叩きつけられたディスプレイを見やる。ディスプレイは砕けているが、
装置は問題なく作動している。吉武はその下に視線を移すと、壁から出っ張っている部分があ
ることに気付いた。キーボードが付いているので、おそらくはあれがコンピューター本体だろう。

「あれを壊せば…でも…」

爆発によってあちこちの壁が崩れ、天井から無数の金属片が落ちてきている。

「でも…マメティラモンも戦っているんだ…!」

吉武は近くに落ちていた円盤カッターを拾うと、キーボードのところまで走っていってカッターを
叩きつけた。

「ヒィィィッ!やめてくれぇっ!」

2、3度叩きつけると、それに気付いたナノモンが情けない声をあげた。吉武は思わず手を止
め、マメティラモンも立ち止まる。

「そ、それにはおぬしらのデータだけではなく、ワシが今までに調べてきた多くのデータが入っ
ているのじゃ!お願いだからそれだけは止めてくれぇっ!」

ナノモンは情けない表情で懇願する。それを見て吉武はちょっと考えるような表情をしたが、構
わずカッターを叩き付ける。

「ヒィッ!?」

衝撃で故障していた円盤カッターに電源が入り、吉武はそれを力任せに引きおろしてコンピュ
ーターを両断した。

「ヒィィィヤァァァァァァ!?」

マメティラモンは絶叫しているナノモンに突っ込む。

「この…よくもワシの研究をぉぉぉぉぉっ!!プラグボムッ!」

ナノモンは役立たずになった装置を投げ捨て、回避不可能な至近距離からカプセルを放つ。

「メットラリアットッ!!」

マメティラモンはメットを脱いで腕にはめ、カプセルごとナノモンをぶん殴る。クロンデジゾイド製
のメットによって爆風は遮られ、ナノモンは天井を突きぬける。そしてマメティラモンはメットをか
ぶる。一連の動作は流れるよう速く、スムーズに行なわれ、殴られたナノモンを含め、誰もマメ
ティラモンのメットの下を見た物はいなかった。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

「ナ〜ンカやばそうな雰囲気デスネ…」

ザッソーモン達が見張っている建物は数分前からあちこちが爆発していた。
なかで大規模な戦闘が行なわれているのは目に見えて明らかだ。

「ハン、ナノモンのジジイは完全体だぜ。どうにかなる決まって…オ!」

メカノリモンが身を乗り出す。彼の望遠眼に何か移ったのだ。

「なんか天井から飛び出して来たぞ…」

「ハヤク拡大するのデス!」

「あ」

少々の間をおいてメカノリモンが言う。

「アノ人間のガキの方でしたカ?それともモノクロモンの方でしたカ?」

ザッソーモンは喜々として言う。

「…ナノモンだ」

メカノリモンの一言でその場の空気が凍りついた。

「おっ、また出てきたぞ…」

メカノリモは視界に二つの影を捉えた。ザッソーモンも双眼鏡を使って今にも崩れそうな建物の
周りを見る。

「…進化シテマスネ」

「…そうだな」

「…アンナデジモン見た事ありマスカ?」

「…ない」

「…成熟期デモ手を焼いていたノニ、完全体相手に勝てると思いマスカ?」

「…思えない」

ザッソーモンとメカノリモンの心情を表すかのように、ナノモンの研究所は崩れていった。


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