吉武達がデジタルワールドに来てから24日目…


ベッドから出て窓を空け、外を眺める。一連の行動を吉武はほぼ一月ぶりに行なっていた。外
には木造の建物がまばらに見え、道の両脇には幾つもの露店が建ち並んでいた。一見して人
間の町のように見えるが、建物に出入りするのも、露店の主人も客も、全て大小様々な姿の異
形。吉武は改めて自分がデジタルワールドにいる事を実感した。

「こんな大きなデジモンの集落…いや、町があったなんてなぁ」

荒野の集落の規模や形態は集落というよりも「宿場町」と形容した方が適切だった。町に点在
する木造の建物はそのほとんどがデジモン用の宿屋で、それ以外は酒場と言ったたぐいの物
だった。吉武達は地図の箸に「コスト対効率が良い」とメモしてあった名前の宿屋を探すと、そ
この「人型デジモン用」の部屋に泊まったのであった。

吉武はベッドの枕元に置いてあった地図を広げる。この大陸中の旅人や別な大陸の旅人など
多くのデジモンが集まるハーディックシティまでの道のりを確認する。この宿場町の辺りからは
街道が整備され、少しは楽になるだろう。

「よしっ!」

吉武は気合を入れて頬を叩く。ハーディックシティまであと少し。今日はこの町で必要な物資を
買い揃えようと決心すると、吉武は隣のベッドで高いびきをかいているマメティラモンをおこしに
いった。


第13章 かわらぬもの―operation・summermemory―


荒野の宿場町から大分離れた場所にその大きな建物はあった。西部劇にでてくる酒場のよう
な外見どおり、多くのならず者がその建物に集まっていた。この酒場はかなり昔からあり、店の
主人も何代も交代している。多くのならず者や賞金稼ぎ、時には暗殺者までが訪れる場所とし
て知られ、まっとうに生きたい者達は一切近寄らなくなっているが、現主人の料理は危険を覚
悟してまでかよう常連がいるほどの絶品だと知る人は知っている。

そんな背景を知ってか知らずか、一体のメカノリモンがその酒場の扉をくぐった。

「あいつ…コンナに金があるんだったら最初からこうしろってんだ…」

「あいつ」とはもちろんザッソーモンの事である。ナノモンの研究所が崩れるのを見たメカノリモ
ン達は吉武達に会わないように宿場町の宿屋に戻った。戻った途端、妙な実験を始めたザッ
ソーモンに対して早く次の手段を考えなくていいのかと文句を言うとザッソーモンは、『ウルサイ
ですネェ〜。コレでも使って適当な奴でも雇ってナサ〜イ』といって大きな袋を渡し、この酒場の
場所をメカノリモンに教えてまだ実験を始めた。

「まぁいいか。コレだけ金があれば大抵の奴は動くだろう」

メカノリモンは店内を見渡す。天井がとても高く、店内には大小様々なテーブルとイスがある。
多くの種類のデジモンに対応させる為だろう。早朝だが店内には客が多く、その半分が早めの
朝食をとっていた。

「なぁ、割のいい仕事があるんだがどうだ?」

メカノリモンは入り口近くのテーブルに座っていた長身のデジモンに話し掛けた。竜人型デジモ
ン、ストライクドラモンだ。ストライクドラモンは手に持った本に目を落としたまま顔を上げない。
仮面に包まれているので表情は読み取れないが、メカノリモンを相手にしていない事だけは確
かだ。

「チッ」

メカノリモンは舌打ちをすると店内の真ん中辺りのテーブルに座っている巨大なデジモンに話し
掛けた。

「いい話があるんですが…」

メカノリモンが話し掛けようとすると、巨大なデジモンは巨大な左腕をメカノリモンに突きつけ
た。盛り上った筋肉の鎧に包まれた灰色の腕には無数の機械やケーブル、金属の装甲が埋
め込まれている。メカノリモンはすぐさまに巨大なサイボーグ恐竜、メタルティラノモンから離れ
た。

「なぁ、俺様の儲け話にのらねぇか?」

メカノリモンは奥の方にある大きなテーブルを囲んだ四人組みに話しかけた。
紫のマントをはおり、紫の帽子を被ったウィザーモン。
水色のマントをはおり、水色の帽子を被ったソーサリモン。
真紅のローブをはおり、真紅の帽子を被ったウィッチモン。
そして緑色のローブをはおったワイズモン。

その時、店の女主人のレディーデビモンがメカノリモンとテーブルの間に割って入り、手際よく
大量の料理をテーブルに並べた。料理が並ぶとワイズモン達四人は一心不乱に料理を食べ
始める。

「さっきメカノリモンがなんか言ってたっぺ」
「儲け話がどうのこうのってやつかっぺ?」
「どーすっぺリーダー?」
「田舎モンのいう事なんてほっとくっぺ」

ワイズモン達は料理に夢中でメカノリモンを相手にしていない。メカノリモンが振り向くとカウン
ターにいるレディーデビモンが目に止まった。青白い肌のグラマーな肢体を漆黒のボンテージ
ファッションに身を包んだレディーデビモンの色香に目を奪われたメカノリモンは今度は彼女に
話し掛ける。

「なぁ女主人さんよ、とってもいい儲け話があるぜ。俺と組まないかい?」

レディーデビモンは真っ赤な唇に指を当てて答える。

「あら、今は藁にもすがりたくなるほどお金に困っているわけではないの」

レディーデビモンの肩から垂れ下がった布には目と短い手がついており、それが分厚い札束を
数えている。メカノリモンはワナワナと肩を震わせると、店内の客達を見回しながら叫んだ。

「誰か俺の依頼を引き受ける奴はいねぇのか――――――っ!!荒野の宿場町にいる見た
こともないデジモンを始末するだけで袋一杯の金が手に入るんだぞ―――――――っ!?」

しかし店内にいる客達は誰も反応しない。怒ってメカノリモンが帰ろうとすると、後ろから声をか
けられた。

「乗ったぜ、その儲け話」

メカノリモンが振り向くと、店内の奥には水をためた巨大なタライに巨大な竜のようなデジモン
が浸かっていた。長い体は赤い鱗に覆われており、頭部は黒い装甲に覆われ、雷型に湾曲し
た刃のような角が生えている。

「…」

メカノリモンはタライに入っているデジモンを見て沈黙した。そしてその隣のテーブルに座ってい
る牛頭のデジモン、ミノタルモンに声をかけた。

「あんたが俺の儲け話に乗ってくれるんだな!?」
「ちげぇよ」

再び沈黙。そして沈黙をやぶる声。

「俺だ。このワルシードラモン様だ」

メカノリモンは嫌そうな顔をして振り向く。

「なんだなんだその顔は。せっかくこの俺様が儲け話に乗ってやるって言うのに…」

しかしメカノリモンは「頼りになりそうもねぇな、こいつ」というオーラが全身からにじみ出ている
ような渋い表情をしている。

「まったく。俺様には取って置きの秘策があるのに…」

秘策、と聞いてメカノリモンは少しは役に立ちそうだと思いワルシードラモンを雇う事にした。

「よし、それじゃあ早速奴を始末して貰おう。ターゲットはティラノモン的なマメモンだ」

「OK。ただしこちらからも条件がある…」

「何だ?」

「荒野の宿場町まで押してってくれ」

メカノリモンは露骨に嫌そうな顔をする。無理も無い。ワルシードラモンが入っているいるタライ
は彼のサイズに合わせてある為かなり大きく、重量も水とワルシードラモンをあわせた分があ
るのでかなり重いだろう。しかしワルシードラモンは「大丈夫!何も心配は無い!」と言う表情
をする。

「大丈夫だ。このタライにはキャスターがついている」

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「それじゃあ、この傘を…」

「毎度あり―――っ!」

吉武は数枚のコインを小悪魔型デジモン、ピコデビモンに渡すとかわりに一本の傘を受け取
る。吉武には少し大きめのサイズのその傘は作りが少しだけ荒いだけで吉武が普段見慣れた
ものと大差なかった。

「買い物はこれで全部かな…それじゃあ宿屋に戻ろうか」

この日、吉武とマメティラモンはこの宿場町の露店で旅に必要な物資を買い揃えていた。時間
にして午後四時頃、ようやく買い物が終った。

「なぁヨシタケ、あそこでアイス買っていかないか?」

マメティラモンが笠屋の露店の向かいにあるアイスの屋台を指差した。雪だるまのような姿をし
たデジモンが様々な種類のアイスを売るその屋台は、たくさんのデジモンが集まって大いにに
ぎわっている。

「だめ!これはケンタルモンさんのお金なんだから!」

吉武がデジタルワールドの通貨を持っているはずも無い。買い物に使った「Bit」と呼ばれる通
貨のお金は数日前に別れたケンタルモンから貰ったお金だ。ケンタルモンとは後で合流する約
束なので、その時にお金を全部使ってしまいましたと言う訳にはいかないだろう。吉武は極力
節約してお金を残すつもりだった。

「なんだよ!ヨシタケのケチ!」

「我慢してよマメティラモン。僕だって我慢してるんだから」

「じゃあ自分で金作ってくるよ!」

そう言ってマメティラモンは駆け出す。

「お金作るって…どうやって!?」

吉武も慌ててそれを追う。少し走ると、マメティラモンは漆黒の恐竜型デジモンの前で止まっ
た。

「フン…このダークティラノモン様にそのチンケなナリで挑んで来るとはな…その度胸だけは誉
めてやるぜ…」

「力も見た目どおりチンケかどうか、確かめさせてやるぜ!」

そうってマメティラモンとダークティラノモンはそれぞれの右手を掴む。ダークティラモンの足元
には『アームレスリング 勝ったら2000Bit!!』と書いてある看板がある。

「あれ、あのデジモン…?」

吉武は今朝宿屋の窓からあのダークティラモンを見かけたのを思い出した。道端に例の看板
を置いて座っている所を。確か巨大な熊のぬいぐるみのようなデジモンが腕相撲を挑みに来た
が、その時彼は『一昨日はデスメラモンと腕相撲をした。その時相手が鎖と炎を使った残虐フ
ァイトをしかけてきたので右腕を痛めちまった。まぁ勝負には勝ったけどな。昨日はボルトモン
と腕相撲をして、あまりの強さに限界を超えた火事場のクソ力をだしてボルトモンをぶん投げて
地面に頭を突っ込ませてやった。その時に左腕を痛めてしまったので今日は腕相撲が出来な
い』と言って客には帰ってもらい、彼は看板を持ってそそくさと立ち去ったのを吉武は覚えてい
る。

「両腕、痛めていたんじゃないのかなぁ?」

マメティラモンとダークティラノモンの腕相撲はこう着状態…いや、明かにマメティラモンの方が
押していた。ゆっくりとだが確実にダークティラモンの手が押されている。

「グググ…俺様がこんなチビに…」

「どーだ!もうすぐ手が地面についちまうぞ!?」

「甘いな…俺様は完全体にも負けたことが…ない!」

そう言ってダークティラノモンは爪先で地面をけり、マメティラモンの顔に砂をかける。

「うわっ!?」

「どうだこの砂の目つぶしは!勝ったっ!死ねいッ!」

マメティラモンの力が緩んだ隙にダークティラノモンは一気に力をこめる。しかしマメティラモン
はそうやすやすと勝ちを譲らなかった。

「オラァッ!!」

マメティラモンも間髪いれずに一気に手に力を込める。ダークティラノモンの足が地面から離れ
た。

「バッバカな!?このダークティラノモンがっ!!このダークティ…おぶぅ!?」

セリフの途中でダークティラノモンは顔から地面に叩き付けられる。あまりの衝撃に高い土煙
が立ち、周りの露店の高く積み上げられた品物が崩れた。

「お前…見たこと無いデジモンだが…成熟期か?」

「違う!俺は完全体のマメティラモンだっ!」

「マメティラモン…俺の敗因はたった一つ…たった一つのシンプルな答えだ…『てめーは完全
体だった』…ガクッ」

最後にガクッと自分でいってダークティラノモンは気絶する。

「す、すみません!」

そうしてる間に吉武は近くの露店の崩れた品物を拾うのを手伝う。一通り拾って店の人たちに
謝り、マメティラモンの方を見るとダークティラモンのサイフをまさぐっていた。

「マメティラモン!?何してるの!?」

マメティラモンはちっとも悪びれる様子もなくこたえる

「何って…腕相撲に勝ったから2000Bit貰おうと…」

「駄目っ!」

吉武はマメティラモンの手からサイフを払い落とした。その顔は明かに怒っている。

「ヨシタケ…」

「ケンタルモンさんが言ってただろ!?強い力をむやみに振るって他者を傷つけちゃいけない
って!」

「俺は誰も傷つけちゃ…ダークティラノモンだって自業自得…」

「そんな言い訳聞かないよ!お店の人達にだって迷惑がかかったじゃないか!」

吉武の目尻には涙が溜まっていた。

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宿屋に戻る道のりを、吉武とマメティラモンは肩を落として歩いていた。

(やっぱり、デジモンは戦闘種族なのかなぁ…)

吉武は以前ケンタルモンに言われた言葉を思い出す。デジモンは戦闘種族。デジモンには本
能の奥底で自らの力を振るう事を望んでいると言う。マメティラモンがアグモンだった頃、つまり
人間の世界にいた頃は火を吐いたり、強い力で暴れる事を厳しく禁じていた。しかしデジタル
ワールドに来てから進化し、望まないのにもかかわらず戦いに明け暮れる事になった為に、デ
ジモンとしての本能が強くなってきたのだろうか?

吉武はモノクロモンがマメティラモンに進化してからずっと感じていた不安があった。それは、マ
メティラモンが他者を省みずに暴れ回るようなデジモンになってしまわないかと言う物だった。

「ちょっと、そこの坊っちゃん」

二人は突然後ろから声をかけられた。振り返ると巨大なタライにワルシードラモンが入ってい
た。タライの前には『ワルシードラモンすくい 一回500Bit』と書かれた看板があった。

「すくっていかないかね?」

「「…遠慮します」」

吉武とマメティラモン、二人の声が見事重なった。

「まあ、そういわずすくっていかないかね?」

「「…いえ、結構です」」

「まあまあそう言わず、『すくうは一時の恥じ、すくわぬは一生の恥』と
言うではないか」

「「…言わないと思います」」

「…作戦に引っかかれよこの野郎――――っ!」

ワルシードラモンは身を乗り出して鎌首をもたげ、頭部の鋭い角をふりおろす。

「やっぱり敵だったか!」

マメティラモンは吉武の手を引っ張って横っ飛びに避ける。

「ハハ、その程度のスピードか!?」

地面に刺さった角を引き抜きながらワルシードラモンが言う。

「なんだとぉ!?」

マメティラモンはワルシードラモンに頭から突っ込む。しかし勢いをつけ過ぎたのか、ワルシー
ドラモンとは検討違いの方向に飛び、そのままタライを飛び越えて着地した。

「ハハハ、その上狙いもノーコンときてやがる!」

大柄で鈍足のモノクロモンから小柄ですばしっこいマメティラモンへと進化した為、マメティラモ
ンはまだスピードに慣れていないのだ。

「そんなスピードで俺様の渦から逃げられるかな?ダークストローム!」

ワルシードラモンはタライの中で高速回転を始める。すぐにタライの中の水は渦を巻き始め、
大渦となる。

「ハ―――――ハハハハ!!どうだこの渦は!とても逃げられまい!
このまま海の藻屑となれぃぃぃぃぃ!」

しかし渦はタライの中だけで起こっているので誰も巻き込まれてはいない。タライからはみ出し
たワルシードラモンの尻尾も背の低いマメティラモンには当たらず、被害はせいぜい通行人が
水を被ったくらいだ。吉武は買ったばかりの傘でガードしていた。

「ハ―――――ハハハハハ…ハァァァァァァァァッ!?」

その時、水流に耐えられなくなってタライがくだけた。あたり一帯に大量の水がぶちまけられ、
吉武は傘でガードしきれず頭から水を被った。

「バカだこいつ…」

マメティラモンが力なくつぶやく。

「あっ!?ワルシードラモンが…!?」

ワルシードラモンは陸にあげられたからから、喉からヒューヒューという苦しそうな音を立てなが
ら体をピクピクと痙攣させ、目は白目を向いている。

「水がないから苦しいんだ!どうしよう!?」

マメティラモンと吉武の付き合いは長い。マメティラモンは吉武がこのような状況で望む事をす
ぐに理解し、ワルシードラモンに駆け寄る。彼を持ち上げて水のあるところまで運ぶ為に。しか
しそこで異変が起こった。

「馬鹿め!かかったなぁっ!」

ワルシードラモンは近づいたマメティラモンを太く長い体で巻き込み、マメティラモンの体を長い
体で全方向から圧迫した!

「マメティラモン!!」

「ハハハ!水揚げされて呼吸困難に陥る水生デジモンなどいない!しかし迫真の演技によって
誰にでもある幼いころ縁日で購入したデジマスを死なせてしまった思い出に付け込む!これが
第二作戦『operation・summermemory』!」

しかしマメティラモンはもちろん、現代っ子たる吉武にも縁日で買った金魚を死なせたという経
験は無い。引っかかったのはただ単に吉武達がワルシードラモンの演技を見抜けるほど
場数を踏んでいなかったからである。

「このまま頭蓋骨を砕いてくれ…あれ?マメモン系の手足が生えている部分って頭って言って
いいのか…?」

そう言いつつもワルシードラモンは更に力を込める。

「マメティラモン!!」

吉武が思わず駆け寄ろうとすると、ワルシードラモンの体の隙間から何かが飛び出した。

「ブゲッ!?」

マメティラモンのヘルメットだ。さらに締めが緩んだ体の隙間から赤い影が飛び出し、メットをつ
かんでワルシードラモンの顔面に叩き付ける!

「メットラリアットッ!」

「グエッ!」

赤い影はすぐさまメットを被り直す。マメティラモンだ。一連の脱出劇の最中、マメティラモンは
素早く行動したので誰にも素顔を見られることは無かった。

「良かった…マメティラモンが無事で!」

「俺がやられる訳無いだろう!」

その時、ワルシードラモンが鎌首をもたげた。頭部の装甲にひびが入っているが、戦闘続行に
は支障が無いだろう。

「まだ戦えるのかよっ!?」

「この程度のダメージで勝てると思うな――――っ!」

ワルシードラモンは頭部の角を振り上げて突撃する。

「ヨシタケッ!危ないっ!!」

マメティラモンはヨシタケを突き飛ばした。そして自らも突撃を回避しようとするが、マメティラモ
ンは自分達を囲むようにして野次馬が集まっている事に気付く。このまま避ければワルシード
ラモンは何の関係もない野次馬に突っ込んでしまうだろう。そしてそう考えているうちにも角が
マメティラモンに迫る。

「も―――――――らったぁ――――っ!!」

「くっ…マメバイト100!!」

金属同士がぶつかり合う音があたりに響く。激突の瞬間、思わず目を閉じた吉武がおそるお
そる目を開くと、なんとマメティラモンがワルシードラモンの鋭い刃のような角を加えて仁王立ち
していた。しかもマメティラモンの牙がワルシードラモンの角を貫いているのだ。

「ングググ…グ!」

マメティラモンが体を捻るとワルシールドラモンの角が折れた。

「ゲェ―――――ッ!?俺のクロンデジゾイド製の角が折れた―――――――――――――
――――ッ!?」

マメティラモンは驚愕するワルシードラモンに近づき、ワルシードラモンを抱えあげる。

「うおりゃぁぁぁ!!」

マメティラモンはワルシードラモンを空高く投げる。小さな体からは想像もつかないパワーだ。
そしてマメティラモンは近くの建物の天井に飛び移り、そこから落下してくるワルシードラモンに
飛び移る。

「コレで終わりだッ!!」

マメティラモンは首周りを両手でガッチリと抑える。

「ちょ、ちょっとま…」

マメティラモンはワルシードラモンの頭部をパイルドライバーのように地面に叩き付ける。水で
柔らかくなった地面にワルシードラモンの頭部が埋まっていた。

「俺を狙うのは勝手だけどよ、ヨシタケや関係ない人をまきこむんじゃねぇぞ!!」

野次馬達から賞賛を浴びせられるマメティラモンを見ながら吉武は思う。

(そうさ…今だってマメティラモンは野次馬さん達を守る為に正面からワルシードラモンの攻撃
を受けた…。マメティラモンに進化してもデジタルワールドに来る前から何もかわっていないん
だ!)

@@@@@@@@@@@@@@@@@@

「チッあのワルシードラモンのうすのろ野郎…これで奴とのコンビもご破算。次は俺自身がマメ
ティラモンを…倒せねぇな…」

例の酒場の前でメカノリモンが毒づく。しかしコンビといっても、メカノリモンはワルシードラモン
が戦っている最中は影で見ていただけだったのだが。

「まあいい。金は後払いだったから一文も減っていない。また強そうな奴を雇って…」

そう言ってメカノリモンは大金の入った袋を見る。そして固まった。なんと大金の袋の中に入っ
ていたのは、先日ナノモンの研究所を見張っている時に食べていたお菓子類やおつまみのゴ
ミだったのだ。

「ザ、ザッソーモンの野郎――――っ!!俺を騙しやがったな!」

メカノリモンは荒野の宿場町に向かって走り出す。酒場から離れるメカノリモンと入れ違いに、
一匹の竜人型デジモンが酒場に入っていった。竜人は店の奥のカウンターに腰掛けると、女
主人のレディーデビモンに声をかけた。

「よう」

「あら、久しぶりね。また何か面白そうな相手を見つけたの?」

レディーデビモンの対応からして、竜人はこの店の常連のようだ。竜人は退屈そうな顔をして
言う

「いや、その逆さ。最近は中々骨のある奴がいなくてな。ナイトモンという奴が強いってんでそい
つの居場所を探しているんだが、入れ違いになってばかりでな。ナイトモンの居場所をしらねぇ
か?それとコーヒーを一杯。」

「ナイトモンの噂なら知っているけど居場所までは…でも…」

コーヒーを入れつつも、言葉の最後でレディーデビモンは妖艶に微笑む。今まで幾多の男を惑
わせたその微笑みを前にしても竜人は、退屈そうな顔をしているだけだった。

「面白い話があるわ。荒野の宿場町に見たことも無いようなデジモンがいるそうよ。何でもティ
ラノモン的なマメモンらしくて、今日ワルシードラモンが戦いを挑んだんだけど、返り討ちにされ
たようね」

「ワルシードラモンを?ハッ、あんな奴を返り討ちにしたって自慢にもならねぇよ。だが…」

そこでレディーデビモンがコーヒーを差し出した。

「見たことも無いようなデジモンってのは気になる。久々に手ごたえのある相手かもしれねぇし
な!」

そう言って竜人は立ち上がる。その瞳には笑みの色がうかんでいた。

「立ち上がった衝撃でカップが割れたわ。弁償お願いね、パイルドラモン」


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