吉武達がデジタルワールドに来てから25日目…


「遅いぞヨシタケ!」

マメティラモンが宿屋の二階の窓に向かって叫ぶ。それからしばらくして、吉武が宿屋から出て
きた。

「ごめんごめん!準備に手間取っちゃって…」

先日のワルシードラモン戦の後、既に日が沈みかけていたのでその日は宿屋で体を休め、翌
日の早朝に荒野の宿場町を後にする事にした。

「昨日も今日も朝起きるの遅かったな、ヨシタケ」

「マメティラモンもね」

この町にたどり着くまでの間、夜はいつも野宿で、今までに泊まった集落もベッドや布団のよう
な物は無かった。久しぶりにベッドの上で眠った彼等は普段は早朝に起きる癖がついていた
のだが、この日は寝坊してしまい、宿屋を出るのは9時ごろになってしまったのだった。

「あ…あいつ!?」

マメティラモンは道に並ぶ露店の一つをさす。見てみると、昨日腕相撲でマメティラモンに挑戦
されて負けたダークティラノモンが座っていた。相変わらず彼の前には『アームレスリング 買
ったら1000Bit』という看板が置いてある。

「まだやってたんだ…」

「あ…誰か挑戦するみたいだよ」

大柄な竜人型デジモンがダークティラノモンに近づく。竜人の体は昆虫の外骨格のような物を
まとっており、腰からは二本の筒のような物をぶら下げ、顔は赤いマスクに覆われている。

「一回挑戦させて貰おうか」

「見た事の無いデジモンだな…まぁいいや、いくぜ!」

ダークティラノモンと竜人が腕相撲を始める。力は五分五分のようで、組んだ手は微動だにし
ない。

「ダークティラノモンか…話は聞いているぜ」

「へ?俺ってそんなに有名?」

ダークティラノモンは思わず顔をほころばせる。

「ああ。完全体相手には理由をつけて戦わず、勝てそうな相手だけを選んで戦う小物だってな」

「な…!!」

怒ってダークティラノモンは右手に更に力をこめたが、びくともしなかった。そこで彼は始めて気
付いた。手が組み合ったまま開始時の位置から動かなかったのは、竜人が凄い力で押さえつ
けていたからだという事に。

「昨日お前は見た事も無い『マメティラモン』と言う完全体デジモンに負けた…完全体相手には
初の一敗ってわけだ。そしてぇ!」

「うぉぉぉぉぉぉ!?」

ダークティラノモンの足が地面から垂直に離れた。

「す、凄い力だ!!」

感染していた野次馬達や吉武達が竜人のあまりにも強いパワーに驚く。ダークティラノモンを
投げ飛ばした事はマメティラモンにもあるが、ダークティラノモンを腕相撲の体制のまま持ち上
げた竜人の方がその一つ上をいっている。

「これで二敗目だっ!」

「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

竜人はそのまま片手でダークティラノモンを投げ飛ばす。

「うわぁ!?」

ダークティラノモンは野次馬を飛び越えて吉武達の目の前に落下する。頭部は落下の衝撃で
地面に埋まっていた。

「俺の名はパイルドラモン。そいつは俺からの挑戦状代わりだ」


第14章 かわったもの―growing mind―


「挑戦状…!?まさか、メカノリモン達と同じように誰かに雇われてマメティラモンを狙ってきた
の!?」

吉武が叫ぶ。

「メカノリモン?そんな奴は知らねぇな。それに俺は誰かに命令されたり雇われたりするのが大
っ嫌いでね…」

「じゃあ…一体何の理由で…」

「理由か…強いて言えば、てめぇが強いらしいからだ」

パイルドラモンはマメティラモンを指差して言う。

「ダークティラノモンやワルシードラモンクラスのデジモンをぶん投げるとはたいしたパワーだ。
それに見た事もない種族のデジモンってのも気になる。ようは俺が貴様との戦いを楽しめそう
だからってのが最大の理由だ」

パイルドラモンの答えを聞いて、吉武は憤慨した。

「そんな…戦いが楽しい!?他人を傷つけたり苦しめたりするのが楽しいの!?そんなの間違
ってるよ!!」

「ハン、人間のガキの都合なんて関係ねぇよ。勝負に応じる応じないはてめぇが決めることだ」

パイルドラモンは吉武の発言を気にもかけずマメティラモンを指差していった。それを見て吉武
はパイルドラモンを強く睨む。

「俺達は早くハーディックシティに行かなきゃいけないんだ!お前の相手をしてる暇なんてねぇ
よ!」

マメティラモンは強い態度で即答する。それを見た吉武は嬉しそうな顔をして言った。

「そうだよマメティラモン!こんな無意味な争いをする必要はないんだ!」

吉武達はパイルドラモンに背を向けて走り出した。

「争いは嫌い、ねぇ…それはしかたねぇな…」

パイルドラモンは二人を引き止めるようなそぶりも追うようなそぶりもせずに棒立ちになる。

「だが、俺は人様の都合に合わせられるほどいい人じゃないんでね!」

パイルドラモンの右手の五本の鋭い爪が発射される。五本の爪は手と細い金属ワイヤーで繋
がっており、雑踏の隙間を縫って吉武に向かう。

「うわあぁ!?」

ワイヤーが吉武の体に巻きつき、そしてワイヤーが巻き取られあっと言う間に吉武の体はパイ
ルドラモンの手の平に納まる。

「ヨシタケッ!!」

「マメティラモンッ!!」

「ハーディックシティに行きたいんだろ?だったら俺が途中まで連れてってやるよ。」

パイルドラモンは吉武に話し掛けている途中、マメティラモンがパイルドラモンに飛びかかっ
た。

「街道をまっすぐ進んで40分…そこから南へ50分…大体その辺に大昔に無人になった町が
ある。そこで待っててやる」

パイルドラモンは背中の四枚の翼で空高く舞い上がった。マメティラモンの爪の一撃はパイル
ドラモンの足首にかすっただけだった。そしてそのままパイルドラモンは飛び立った。吉武も何
か叫んでいたが、離れすぎていて聞こえなかった。

「ヨシタケ――――――ッ!クソッ!!」

マメティラモンもパイルドラモンの後を追って走り出す。その光景を影から眺めている者がい
た。

「ヘヘヘ、頼んでもいないのにあいつを倒してくれる奴が現れるなんて願ったり叶ったりだぜ。」

そう言ってメカノリモンはこっそりとマメティラモンの後をつけていった。

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かつて、その町はこの荒野を開拓しようとするデジモン達が作った町だった。しかし町が大きく
なり始めた頃、作物が不足してきた。その上同じ時期に別な荒野の集落が発展し始め、人も
訪れなくなってきた為、住人達は町を捨てていった。そして幾つもの木造の建物だけが残っ
た。

その町の建物の一つに、パイルドラモンと吉武がいた。

「いてて…」

吉武の体には数箇所の切り傷が出来ていた。パイルドラモンのワイヤーに絡めとられたときに
できたものだ。

「手加減したつもりだったんだが…人間ってのは意外と脆くできてるもんだな」

吉武はパイルドラモンを睨み返す。吉武の心の中には人質にとられた事による恐怖は微塵も
なく、戦いを楽しむパイルドラモンへの強い怒りが生まれていた。

「随分と俺を嫌っているようだな…お前は戦いが嫌いなのか?」

「当たり前だよ!必ず誰かが傷つくんだ…戦いを避けられるんなら避けたいよ!」

それを聞いてパイルドラモンは思わず笑みを漏らした。

「何が可笑しいの!?」

「なーに、人間も力が無いだけで、結構デジモンと同じ考えをしてるのか、と思ったら、な」

「デジモンと同じ考え方!?」

そう言われてみるとデジモンの思考は人間と大差ない部分ばかりのようだと吉武は思った。善
悪の基準が人間と180度違うとは言いがたいし、集落や町を作っているという行動は人間そっ
くりだ。

「以前、腕が立つと評判のデジモンに戦いを挑んだらお前と同じような事を言われて勝負を断
られた事があってな…」

吉武が考え込んでいるのも知らずパイルドラモンは言葉を続ける。

「さっきも言ったが俺は人の都合に合わせられるほどいい人じゃないんでね…。問答無用で攻
撃してやったよ。そいつは中々骨のある奴だったぜぇ」

そう言ってパイルドラモンは笑う。吉武は今まで以上に強くパイルドラモンを睨みつけた。

「あなたは今まで僕が出会ったデジモンの中で最低のデジモンだ!戦う事が…他人を傷つける
事がそんなに楽しいの!?」

「楽しい!!戦う事がこれ異常ないくらい楽しいぜ!!」

パイルドラモンは吉武の叫びに間髪いれずに答えた。その目を見れば誰もがその言葉が一点
の偽りも無い事に気付くだろう。

「ヨシタケ――――ッ!いるか――――っ!?」

その時、外からマメティラモンの声が聞こえてきた。

「マメティラモン!?」

「思ったよりも早かったな」

そう言ってパイルドラモンは腰をあげる。その目にはプレゼントがまちきれなくてワクワクしてい
る子供と同じような光が宿っていた。

「まぁ…早いに越した事はねぇかッ!!」

パイルドラモンは建物の扉を突き破って外に出る。マメティラモンは建物の前からまっすぐに伸
びる道におり、パイルドラモンは扉を突き破った勢いを殺さずにそのままマメティラモンに殴り
かかった。

「!!」

しかしマメティラモンはパイルドラモンの右ストレートを両手で受け止める。地面には爪の跡が
深く付いていた。

「マメティラモンッ!」

「ヨシタケッ!」

マメティラモンはパイルドラモンが出てきた建物の中に吉武がいる事に気付く。

「なぁに…心配させなくてもちゃんと返してやるよ…勝負の後でな!」

パイルドラモンは左腕をマメティラモンに向かって振り下ろす。しかしマメティラモンはその攻撃
をすり抜け、外骨格に覆われていないパイルドラモンの腹部に体当たりした。

「グオッ…」

「まだまだだっ!!メットラリアット!」

マメティラモンはパイルドラモンの胸の高さまでジャンプし、頭部のメットで装甲の無い胸の正
面の部分を殴る。

「がああああ!?」

パイルドラモンは大きく吹っ飛んでダウンする。

「どーだ!吉武は返してもらうぞ!」

「いや…まだまだ返せねぇな…」

パイルドラモンは起き上がった。ダメージを与えてはいるものの、パイルドラモンの戦闘続行に
はまったく支障が無いようだ。

「なんで!?マメティラモンの渾身の一撃を装甲の無い場所に受けたのに…!?」

「あいにく俺の体はそんなにやわに出来ていないんでね…。だが今の一撃は結構聞いたぜ…
これだけのパワーを持つ奴は久しぶりだ」

パイルドラモンはとても嬉しそうに言う。

「楽しませて貰うぜ!エスグリーマッ!!」

パイルドラモンの右腕の外骨格から長大なスパイクがのびる。そしてパイルドラモンは鋭い突
きのラッシュをくりだす。

「くっ!」

マメティラモンは高くジャンプして避ける。パイルドラモンはすかさず左腕でマメティラモンにフッ
クを繰り出す。

「そんなパンチ…受け止めてやる!」

マメティラモンは両手でパイルドラモンのパンチを受け止めようとする。しかしマメティラモンを
パンチを食らってホームランボールのように吹っ飛び、近くの建物に派手に叩きつけられる。

「マメティラモンッ!?」

「グッ…何で…さっきは受け止められたのに…」

「体重差さ。お前は自分よりはるかに重い相手を振り回す筋力があるが、それも足場があって
の話だ。空中じゃパンチの衝撃を体が耐える事は出来ても、衝撃でその小さな体が吹っ飛ぶ
を耐えるのはどうあがこうが無理って事だ」

そう言いながらパイルドラモンは左腕のスパイクを伸ばし、今度は両腕でラッシュを放つ。

「クソォッ!」

再びマメティラモンはジャンプして避ける。

「マメティラモン!ジャンプして避けたら…」

「ゲ!?クソッ、攻撃される前にこっちから攻撃だ!」

マメティラモンはパイルドラモンの胸に体当たりする。衝撃でパイルドラモンがのけぞる。

「よし!」

「…それはどうかな!?」

パイルドラモンはのけぞった勢いを利用してオーバーヘッドキックでマメティラモンを蹴り上げ
る。

「そんな…!攻撃の衝撃を利用するなんて…!」

マメティラモンは弧を描いて地面に落ちようとしている。そこへパイルドラモンが両腰からぶら
下がっている筒の右の方をマメティラモンに向けた。筒の先端には穴が空いている。

「一度着地してから体制を整えられると厄介なんでね…」

吉武とマメティラモンはパイルドラモンの腰についている物の正体に気付いた。

「「じゅ…銃だ!」」

パイルドラモンの腰についている生体砲『デスペラードブラスター』から一発のエネルギー弾が
マメティラモンに向かって発射された。

「クッ!」

マメティラモンはエネルギー弾を両腕でガードする。ダメージはガードできたが、衝撃でマメティ
ラモンの体が一段高く上がる。

「そらそらぁっ!」

さらに二発、三発とエネルギー弾が放たれる。正確無比な狙撃はすべてマメティラモンに命中
し、命中するたびにマメティラモンは空中に打ち上げられる。

「やめてよ…もうやめてよっ!」

吉武が叫ぶ。マメティラモンは弾を全てガードしているがこのまま的になり続けていれば、ダメ
ージが次々と蓄積されていくだろう。

「これだけ撃ってもまだ耐えるとはな…だが、力尽きるのは時間の問題だっ!」

(クソ…負けてたまるかよ!)

マメティラモンの中に、吉武を助けると言う思いとは別の熱い感情が燃えていた。その感情は
今までにフライモン、シャッコウモン、ナノモンと言った強敵との戦いの時にも湧き出た感情だ
が、パイルドラモンを前にして今まで以上に強く燃えていた。そして、その感情は「勝つ為に」マ
メティラモンのメットを取らせた。

「あっ!?」 「何!?」

メットを取った次の瞬間、マメティラモンはメットでエネルギー弾をうけた。衝撃によってマメティ
ラモンを上空に押し上げる為に打たれたエネルギー弾は、メットに受け止められた事によって
衝撃の方向がずれ、マメティラモンは下にあった無人の家の中に突っ込んだ。

「なるほど…俺の攻撃を利用したって訳か…で、次はどうでる?」

パイルドラモンはマメティラモンが突っ込んだ建物を見ながらさも楽しそうに言う。

すると次の瞬間、マメティラモンが突っ込んだ家の隣の家から大きな音が響く。更にその隣の
家から大きなを音がし、音は次々と隣の家に移動していき、やがて止まった。

「そうやって別な家から飛び出して撹乱する気か…だが音でバレバレなんだよっ!デスペラー
ドブラスターッ!」

パイルドラモンは両腰の生体砲を構え、そこからエネルギー弾がマシンガンのような激しい勢
いで発射され、あっと言う間に家は崩壊した。

「マメティラモンっ!?」

吉武が叫ぶ。しかしその時、マメティラモンが最初に落下した家から飛び出してきた。崩壊した
家の中には、大きな耳をもった可愛らしいデジモンの銅像が穴だらけになった物があった。

「落ちた家に銅像があって助かったぜっ!」

一瞬の内にマメティラモンはパイルドラモンに近づき、足首を掴んで上空になげとばす。しかし
パイルドラモンは背中に生えた四枚の翼を使って空中にとどまる。

「甘いな。俺に投げ技はきかねぇよ」

「投げ技が聞かないかどうか…これから試してやるよっ!」

「何っ!?」

いつの間にかマメティラモンは上空にいるパイルドラモンの背中に回っていた。そして背中に飛
び乗り、四枚の羽の内の上二枚の付け根を掴む。

「しまっ…」

マメティラモンはそのままパイルドラモンを地面に投飛ばす。パイルドラモンは頭から落下し、
頭部のマスクを始め全身の外骨格にヒビが入っていた。

「これなら…たぶんもう…」

立ち上がれない、と吉武が続けようとしたときだった。パイルドラモンがいきおいよく立ち上がっ
たのは。

「ハハハハハッ!」

「笑っている…?あんなに傷ついているのに…」

パイルドラモンは自分の体が傷ついているのにも笑い続けている。それも心から嬉しそうに。

「ハハハハッ!まさか空を飛べる奴を投げ飛ばすとはな!最高だ…最高に楽しいぜ!」

パイルドラモンは笑い続ける。その笑いには鬼気迫るものがあったが、その笑いには嫌な物
は感じられなかった。

「行くぜ!」

パイルドラモンはマメティラモンに飛び掛る。

「おおおおお!」

パイルドラモンとマメティラモンはなおも戦いを続ける。二人の表情からは、憎しみや怒りと言っ
た負の感情は感じられず、それどころか喜びすら感じられた。

(なんでだろう…二人は本当に楽しそうに戦っている…)

その戦いを見て、吉武は嫌な気分はしなかった。

(前は、デジモンが戦っている所を見るだけで気が重くなったのに…)

吉武はこの戦いが今までの戦いとは少し違うのかと考え始めた。

(パイルドラモンは誰かを傷つける事が好きなんじゃない…強い相手と戦って、自分の力を試し
たいから…?)

そうしている間にもパイルドラモンとマメティラモンの戦いは続く。

「ムーンシューターッ!」

パイルドラモンの両腕のスパイクが発射される。マメティラモンはそれを叩き落し、パイルドラモ
ンに向かう。

「おっと…エクスレイザーッ!」

パイルドラモンの胸部外骨格の下の皮膚にあるXマークから、X字型の光線が放たれる。

「うわっと!!」

マメティラモンは至近距離からの攻撃にもかかわらず、ギリギリで回避する。

「まったく…お前はいくつ技もってんだ!?」

「鍛えた結果だぜ!」

パイルドラモンは『古代種』エクスブイモンとスティングモンの両方の特徴を色濃く備えた種族。
このパイルドラモンは自らの体を鍛え上げる事で自らの体に眠る二種のデジモンの特質を引
き出したのだ。

「スタミナは俺の方が上…そろそろ体力の限界じゃねぇのか?」

「ふん…そっちだって息あがってんじゃねぇか…」

パイルドラモンが大ダメージを受けたあとの攻防はほぼ互角だったが、どちらかと言えばパイ
ルドラモンの方がマメティラモンよりも一段上を行っていた。しかし、この状態からマメティラモン
が逆転する可能性は低くない。そしてマメティラモンが仕掛けようとした瞬間だった。

「お――――――っと!お前らそのまま動くなよ!」

マメティラモンとパイルドラモンが振り向くと、そこには吉武を捕まえたメカノリモンがいた。

「ヨシタケッ!」

「ハハハ!やっぱ人質作戦は効果てきめんだぜ!」

メカノリモンはマメティラモンのあわてっぷりを見て勝ち誇ったように言う。

「さぁパイルドラモン!動けねぇそいつをやっちまいな!」

「ハ?なにいってやがんだてめぇ…」

パイルドラモンはメカノリモンを睨みつける。

「へ?賞金が欲しくてマメティラモンを狙った奴じゃないの?」

メカノリモンはたじろぎながら言う。その時、メカノリモンの目に激痛が走った。

「あぎゃぎゃぎゃ!?」

激痛の原因は吉武がメカノリモンの目にかけたワサビにも似た調味料だった。吉武がパイルド
ラモンによってこの町に連れてこられた時、パイルドラモンの目にかけてやるつもりでポケット
の中に忍ばせていた物だ。吉武はその隙にするりとメカノリモンの手からにげだす。

「てめぇ…せっかくの楽しい勝負に水をさしやがって…」

メカノリモンが目を開くと、自分を強く睨むパイルドラモンが目に入って来た。

「ヒッ!」

「しかも俺様に命令しやがって…」

パイルドラモンは両腰の生体砲と両腕を前に向ける。

「エクスレイザー、ムーンシューター、デスペラードブラスター…
一斉掃射!フルバーストブラスターッ!」

「ヒィィィィィッ!!」

メカノリモンは慌てて近くの建物に逃げ込む。しかし降り注ぐエネルギー弾とスパイクの雨が一
瞬で建物を崩壊させた。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

「ヨシタケ、こいつどうする?」

メカノリモンは瓦礫の下から掘り出されると、ロープで縛られた。マメティラモンとパイルドラモン
の制裁を恐れているのがガクガクと震えている。

「うーん…」

吉武は顎に手を当て考え込む。吉武が始めて出会ったマメティラモン以外のデジモンがメカノ
リモンだ。メカノリモンはまだ成長期だったマメティラモンを狙い、二人を襲ってきた。その時に
吉武は耐えがたい恐怖を感じた。それだけではなく、時にはザッソーモンと組んで、時には別
なデジモンをけしかけて吉武の旅路を妨害してきた。普通に考えれば憎らしいはずだが、不思
議と吉武には怒りは湧いてこなかった。

「いいや、逃しても」

「へっ?」

「ま、ヨシタケならそう言うと思ったぜ」

マメティラモンがロープを解くと、メカノリモンは即座に逃げていった。

「奴らの目的とか聞かなくて良かったのか?」

「あっ…忘れちゃった…」

まあいいか、というリアクションをして、吉武は側に座っていたパイルドラモンの方に向き直る。

「なんだ?マメティラモンと戦うのは止めてくださいってか?心配しなくても今日の所はもう止め
だ。しらけちまったからな」

今日の所は、と言う事はまたいつかマメティラモンに戦いを挑むのだろう。しかしその言葉を吉
武は気にしていないようだ。

「いえ…最低のデジモンだなんて言って…ごめんなさい!」

吉武は頭を下げて謝る。パイルドラモンの戦いを見て、吉武はパイルドラモンに好感を持って
いた。ただまっすぐに、後ろを見ることもなく戦いを楽しむパイルドラモンに。だからこそ初対面
の時に言った言葉を謝っておきたかったのだ。

(メカノリモンの事もだけど、こんな風に感じられるなんて…僕、変わったな)

それは今までに出会ったデジモン達のおかげだろう、と吉武は思った。

「…頭をあげな。謝られるのには慣れてないんでね」

パイルドラモンは頭をかきながら言う。

「でも、関係の無い人を巻き込んだり、人質を取ってまで戦うのは止めてくださいね」

吉武は頭を上げて強い態度で言う。マメティラモンがクスリと笑った。

「まっ、考えといてやるよ。それとな…」

パイルドラモンは微笑みながら飛び上がる。

「マメティラモン、あのまま続けていたら俺が勝っていたぜ」

パイルドラモンは夕日を背に飛び立つ。その姿を
吉武とマメティラモンは手を振って見送った。


NEXT→第15章 堕天使の幻影



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