吉武達がデジタルワールドに来てから29日目の昼…

吉武達は街道の休憩所にいた。ハーディックシティ付近の街道は敷石で舗装され、それにそっ
て休憩所が点在していた。休憩所には多くの旅人が足を休め、昼時には露店も賑わってい
た。

「郵便屋さんなんですか?」

「ああ。このスクリープ地方を中心に飛び回っている」

そう答えたのは巨大な鳥のようなデジモン。その体は黒い炎の様な物に包まれている。彼の足
元には、「手紙、荷物をお運びします」といった概要の文が書かれた立て看板がおいてある。

「あの、スクリープ地方じゃない地方にも手紙は届けられますか?」

吉武は漆黒の巨鳥、セーバードラモンに質問する。

「俺の管轄はスクリープ地方のみだが、ウインドウ大陸中に俺の仲間がいる。他の地方の担
当に俺を通して手紙を渡せばいいことだ」

それを聞いて吉武の表情が明るくなる。

「よかった!あ、でも手紙を書く時間が…」

「大丈夫。俺は午後の3時までこの休憩所にいる。今は12時だから余裕だろ?何なら便せん
とペンも買っていくかい?」

セーバードラモンは傍らに置いてあった鞄を開いて吉武に見せた。中には何種類もの便せんと
何色ものペンがつまっている。吉武はそこから数枚の便せんと黒のペンを一本買う事にした。


第17章 強さという物―familiar ememy―


吉武が便せんを購入していた頃、マメティラモンとフレイモンは昼食をとるのによさそうな露店
を探していた。

「あの店なんかいいんじゃないか?」

「あの店?」

フレイモンが指差したのはホットドッグの屋台。犬のぬいぐるみのようなデジモンがソーセージ
を焼いている。ホットドッグの屋台なら他にも幾つかあり、その店も他のホットドッグの屋台とは
大差無さそうに見える。マメティラモンは首を傾げる。

「あのドッグモンの店、前に別な休憩所でも見た事があるんだよ」

「それで?」

「半額以下に値切ってやった!」

そう言ってフレイモンはホットドッグの屋台に駆け寄る。フレイモンの姿を見た店主のドッグモン
が嫌そうな顔をしたのをマメティラモンは見逃さなかった。

「よっ!久しぶ…」

「どきな!」

屋台の前に立って声をかけようとしたフレイモンを大柄なデジモンが突き飛ばす。マシーン型デ
ジモンのようだった。

「ホットドッグ10コだ!」

「へい、まいどあり」

フレイモンを突き飛ばしたデジモンはホットドッグ10本ちょうどの代金をドッグモンにさしだす。
ドッグモンは何事もなかったかの用にホットドッグを大柄なデジモンに渡した。

「てめぇ!何しやがる!」

フレイモンはそのまま屋台を離れようとした大柄なマシーンデジモン、メカノリモンの指先を掴
む。

「ああん?何だこのガキ。文句あんのか?」

メカノリモンは振り返ってフレイモンを睨む。

「あるに決まってんだろ!割り込みなんかしやがって!お詫びにそのホットドッグ全部よこ
せ!」

「あんだとこのガキィ!生意気いってんじゃぁねぇぞ!成長期が成熟期に勝てるとでもおもって
んのかぁ!?」

メカノリモンはふんぞり返って威圧的に睨みつける。彼は自分より弱い物に対してはとことん強
気に出るタイプだった。

「じゃあ、成熟期が完全体に勝てるはずもないよなぁ」

マメティラモンが二匹の間に割って入った。途端にメカノリモンの顔に驚愕の色が浮かぶ。

「てめぇ!もうこんな所まで!」

メカノリモンの顔の装甲部分に無数の塩辛い水滴が浮かぶ。メカノリモンは20日ほどまえにモ
ノクロモンだった頃のマメティラモンと戦って以来、マメティラモンとは正面から戦ってはいない
が、目の前でモリシェルモン、ナノモン、ワルシードラモンを撃破する様を目にし、自分達の仲
間のモジャモン、暗殺者のフライモンを倒したと言う話も聞いていた。完全体と成熟期という差
以前の、圧倒的な差をメカノリモンは感じていた。

(クソッ!ほんの一ヶ月前までは俺に言いようになぶられていたのに!)

メカノリモンはジリジリと後ずさる。

「ふーん、お前が吉武の言っていたメカノリモンか。自分よりに弱い相手にしか強気にでれねぇ
みたいだな!」

「んだとてめぇ!?」

メカノリモンは激昂して叫ぶが、体勢はあとずさったままだ。

「ハン!偉そうなのは口だけかよ!」

フレイモンは調子にのって更にメカノリモンを馬鹿にする。

「マメティラモンの後ろに隠れてるフレイモンもどうかと思うけど…」

「ヨシタケ!」

いつ間にかマメティラモン達の後ろには吉武が立っていた。フレイモンは吉武に言われて、自
分が無意識のうちにマメティラモンの後ろに回っている事に気付く。

「マッタク、その通りデスネェ〜」

そう言って今度はいつのまにいたのか、メカノリモンの後ろからザッソーモンが出てきた。相変
わらずその顔にはニヤニヤとしたいやらしい笑を浮かべている。

「お仲間が一人増えたようデスガ…これなら、以前同行していたケンタルモンの様に警戒して
かかる必要は無さそうデスネェ〜♪」

「なんだとぉ!」

フレイモンは怒ってザッソーモンに飛び掛ろうとする。しかし、尻尾をマメティラモンにつかまれ
て転んでしまった。

「離せよ!成熟期の中でも弱い種族のザッソーモンなら俺でもたおせらぁ!」

ザッソーモンは自分が弱いと言われても相変わらず笑みをくずさない。

「そ、そういやザッソーモン!俺達には奴らを倒す為の秘策があったんだよな!?」

メカノリモンが思い出したように言う。「秘策」と聞いて吉武とマメティラモンは警戒を強める。

「エエ、我々には秘策がアリマスヨォ〜♪」

「ハハハッ!ざまぁみやがれ!形勢逆転だな!」

メカノリモンの言葉を聞いて、まだ戦いが始まってもいないのに形勢逆転も何もないだろう、と
逆上しているフレイモン以外のその場にいる全員が思った。

「シカシ…この場で始めるのはよしておきマショ〜」

「「「「!?」」」」

予想外のザッソーモンの台詞に、その場にいた全員は呆気に取られた顔をする。

「コノ場で戦っては多くの無関係なデジモンを巻き込んでしまいマス。それはあなた達の望む所
じゃナイデショ〜?」

確かに、吉武とマメティラモンは無関係な者を戦いに巻き込みたくない思っていたが、ザッソー
モンが同じ事を思っているとは夢にも思わなかった。むしろ二人はザッソーモンが無関係なデ
ジモンを人質にとったり、吉武を直接攻撃するのではないかと警戒していた。

「決着は昼食の後、この休憩所の外でツケマショ〜」

ザッソーモンはメカノリモンの持っている袋の中からホットドックを取り、近くのベンチに座って
食べ始めた。メカノリモンは相棒のあまりにも意外な行動に目を点にしている。

「ふざけんな!今すぐ戦え!」

マメティラモンはあばれるフレイモンを抑えると、吉武に困ったような視線を向けた。

「どうする?ヨシタケ」

「うーん…僕達だってあまり周りの人に迷惑をかけたくないしね…やっぱりここは…」

「ここは?」

「お昼にしよう。ホットドッグ5本ください!」

吉武は今まで呆然と事の成り行きを見守っていたドッグモンに声をかける。ドッグモンを含むそ
の場にいた全員が漫画のようにこけた。ただ一人、いやらしい笑みを絶やさないザッソーモン
を除いて。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

昼食の後、吉武達とザッソーモン達は休憩所から離れた所にある草原で対峙していた。辺りに
は川が流れているだけで、身を隠すような障害物はない。

「いくぜ!トゥインクルビームッ!」

メカノリモンが胸部のレンズから青白い光線を放つ。

「当たるかっ!」

マメティラモンはいとも簡単にかわし、メカノリモンに向かう。

「ザッソーモン!作戦があるってのは本当なんだろうな!?」

「エエ、本当です。ダカラ、貴方は安心して戦ってればいいんデスヨ〜♪」

それを聞いて安心したメカノリモンは自分に向かって来るマメティラモンに向かって腕を振り下
ろす。マメティラモンはそれを片手で受け止めた。

「うおりゃぁっ!」

マメティラモンがメカノリモンの腕を引っ張ると、メカノリモンの足が地面から離れた。

「うぉっ!?」

マメティラモンはそのままメカノリモンを空中に放り投げる。そして落下してきたメカノリモンをパ
ンチで打ち上げ、また落下してきたメカノリモンを再びパンチで打ち上げる。まるでお手玉をし
ているようだった。

「スゲェ…なんてパワーだ…」

マメティラモンが戦っている所を始めてみたフレイモンは感嘆の声をあげた。

「ハァッ!」

マメティラモンは今までと比べてかなり高くメカノリモンを上空に打ち上げた。

「ヒ、ヒィィィィィィ!?」

メカノリモンは眼前に迫る地面を見て悲鳴をあげる。しかし直前で落下が止まる。マメティラモ
ンが受け止めたのだ。

「へ?」

しかしメカノリモンが安心する間もなく、マメティラモンはメカノリモンを地面に叩き付ける。

「グェ!!」

叩き付けられると同時にメカノリモンの目が×マークになる。気絶してしまったようだ。

「これで後はお前一人だぜ!降参した方がいいんじゃないのか!?」

フレイモンが言う。しかしザッソーモンはいつもどおりの笑みを浮かべたままだった。

「イエイエ、作戦通りデスヨォ〜♪」

「作戦通り?メカノリモンはやられて、後は弱いお前一人だけになったこの
状況の何所が作戦通りなんだよ!」

フレイモンは強気になって前に進み出る。しかし吉武とマメティラモンは警戒心を強めていた。

「メカノリモンなんかがいなくても大丈夫デスヨォ〜♪コレ一つあればいいんですからネェ〜♪」

そう言ってザッソーモンが取り出したのは大きな緑色の袋だった。吉武はそれを園芸店などで
売っている肥料や土の袋によく似ていると感じた。

「コレはデスネェ〜、植物型デジモン用の健康食として親しまれている有機肥料を何千倍も協
力にした奴なんデスヨォ〜♪」

「「「肥料!?」」」

ザッソーモンは袋の口を開けて、中に入っている肥料…黒い粉を口の中に流し込み始めた。

「させるかよっ!」

フレイモンは右手に炎を纏い、ザッソーモンに突撃する。ザッソーモンはその間に肥料を全て
飲み込んでしまう。

「ベビーサラマンダーッ!」

フレイモンは火の玉をザッソーモンに投げつけるが、ザッソーモンは川の中に飛び込んでかわ
した。

「川の中…まさか!?」

吉武は学校で花を育てた時の手順を思い出していた。肥料を混ぜた土に種や球根を埋め、日
当たりのいい場所に置いて毎日欠かさず水をやる。今日は雲一つない快晴で、ザッソーモン
は肥料を飲み込んで川に潜った。考えられる結論は一つ。

「フレイモン!川岸から離れ…」

言うよりも早く水中から緑色の大蛇のような物が飛び出し、フレイモンに襲い掛かる。しかし激
突する寸前でマメティラモンがフレイモンを救出した。

「な、なんだよありゃぁ!?」

大蛇のように見えたのはくすんだ緑色をした、植物の蔓のようだった。

「ワタシの腕デスヨォ―――♪」

声ととも水面が盛り上り、二階建ての家を超えるほどの大きさにまで巨大化したザッソーモン
が姿を表した。

「でかっ!?」

叫んだフレイモンを始めとして、吉武とマメティラモンも驚愕に目を見開く。ザッソーモンはジャ
ンプし、巨体を利用して吉武達を押しつぶそうとする。

「危ないっ!」

吉武達は四散し、ザッソーモンのボディプレスをかわすが、衝撃が地面に走りその衝撃で体勢
を崩す。ザッソーモンはその隙を見逃さなかった。

「スクイ―――――ズ!バイン!」

ザッソーモンの巨木のように太い蔓のような腕が伸びてマメティラモンに巻きつく。

「ぐあっ!」

「マメティラモン!?」

蔓が太いせいであっというにマメティラモンの姿は見えなくなる。ザッソーモンはマメティラモン
を締め付けながら喋り始めた。

「アノ『超有機肥料G』はワタシが長年研究していた物デス。ごく最近まで完成の見込みがなか
ったんデスガネェ―――。実は…貴方のおかげで完成したんデスヨォ―――♪」

ザッソーモンは自らが締め付けているマメティラモンに向かって嬉しそうに言った。

「アナタ…モノクロモンだった頃にフライモンの毒を食らって角が砕けたデショ?その破片を私
が頂いて、それを材料にしてみたんデスヨォ――――」

「あの時の!?」

吉武はフライモンとの戦いの後、モノクロモンの角の破片を集めたが、足りない部分があった
ことを思い出した。

「結果は…ご覧のトオリィ――――♪」

ザッソーモンは笑いながらさらに腕に力を込める。

「マメティラモン!!」

吉武が叫ぶ。すると、ザッソーモンの腕の間からマメティラモンの顔がでてきた。

「この…程度か…?俺の細胞を使ってこの程度とは…!」

マメティラモンは強大なパワーで無理矢理ザッソーモンの締め付けをこじ開け、ザッソーモンの
首筋に体当たりする。

「お笑いだぜ!メットラリアット!」

体当たりを食らって揺れるザッソーモンの巨体に、マメティラモンは手に手にメットをはめてさら
に首筋にラリアットをぶつける。

「ゲボ!!」

ザッソーモンの巨体は音を立てて倒れる。再び起き上がったとき、ザッソーモンの息は荒く、両
腕は力なく垂れていた。

「急激な体の巨大化に体が耐えられないんだ…」

ザッソーモンの両腕の先端は枯葉のような色になっていた。巨大すぎて養分が末端部まで周ら
ないのだろう。

「おいおい、大丈夫か?」

マメティラモンは思わずそう言ってしまった。吉武も心配そうにザッソーモンを見ている。

「ハァハァ…私の種族が…何故ザッソーモンと呼ばれているか知ってイマスカ?ベジーモン種
は戦闘能力が低く、それを補う為に悪臭を放つ…しかし亜種であるザッソーモン種にはそれが
ない…かわりニ!」

ザッソーモンは両腕に草原の地面に突き立てる。

「デッドウィード!」

ザッソーモンの巨大な蔓のような腕が何かを吸い上げるように波うつと、辺りの草花が急速に
枯れていった!

「げげげっ!?」

「生命力が…非常に強いんデスヨォ――――!」

さっきまで肩で息をしていたのが嘘のようにザッソーモンは元気はつらつとした様子になり、両
腕の先端も元の色に戻っていた。

「さすがのアナタでも、決して倒れない相手に対していつまでも戦い続けられマスカァ―――
―!?」

ザッソーモンは両腕を目茶苦茶に振り回す。太い腕に打ち据えられた地面がへこみ、土が飛
びった。

「この野郎!火をつけられたらどうなるか分かってんのか!?」

「フレイモン!危ないよ!!」

吉武の静止も聞かずフレイモンはザッソーモンに突っ込む。

「ベビーサラマンダーッ!」

フレイモンは射程距離ギリギリから火の玉をザッソーモンに投げつける。火の玉はザッソーモ
ンの腹部に命中し、ザッソーモンの表皮に燃え広がる。

「よっしゃぁ!」

しかし炎は全身に燃え広がることなく消え、腹部に焦げ後を残しただけにとどまった。巨大化し
たザッソーモンの皮膚は、成長期デジモンの炎では焼き尽くせないほど分厚くなっていたの
だ。

「痛くも痒くもアリマセンヨォ――――!」

ザッソーモンの鞭のようにしなる腕にフレイモンは弾き飛ばされる。

「グアッ…」

「大丈夫!?」

吉武はフレイモンに駆け寄る。痣はできているが、骨折などの大怪我は
していないようだ。

「イヤデスネェ―――!弱い奴ワァ――――――!」

ザッソーモンはフレイモンは見下ろしながら言う。かつて自分がそうされたように。

ザッソーモン種は体が小さく、戦闘能力も低い。その為にザッソーモンは他のデジモン、特に強
い力を持つ名のしれたデジモン、暴力に任せて暴れるチンピラに強く嫉妬していた。彼は自分
に他者を超える強大な力を持たせる為の研究を始めた。デジモン生物学、薬学などのほか
に、伝説にでてくる「デジメンタル」や「スピリット」の研究の為に歴史学にも手を出していた。研
究の為の費用が不足すれば、彼は自分の嫌うチンピラ達に媚を売り、時には自分のつごうの
いいように利用して不足分を必死で補った。

ある日、彼はそれなりの研究者として名がしれたのか、ベーダモンからイグドラシルの解析メン
バーとして雇われた。しかし、様々な分野をつまみ食いするようにして研究してきた彼はベーダ
モンにもヴァンデモンにも研究者としては3流と言われ、イグドラシルの解析メンバーから外さ
れ、チンピラ達と一緒のマメティラモン捕獲メンバーに加えられた。力だけでなく、頭脳までも他
者に劣ると言われた彼の屈辱は相当な物だった。

今、彼の気持ちは非常に高ぶっていた。今まで自分に苦渋を味わわされてきた者を自らの手
で叩き潰し、自分をバカにしてきた者達に自分が他者よりも強い存在であると認めさせる事が
できるのだから。

「叩き潰して差し上げマショ――――!」

ザッソーモンは腕を振り上げ、吉武とフレイモンに振り下ろす。

「危ないっ!」

マメティラモンは寸前でその攻撃を受け止める。横からもう片方の腕が迫ってきたが、それも
難なく受け止める。

「ヨシタケ!フレイモン!下がってろ!」

吉武は頷き、フレイモンを連れて下がる。マメティラモンは腕を振りほどいてザッソーモンに体
当たりするが、辺りの地面や植物から養分を吸い取るザッソーモンに決定打にはならない。吉
武とフレイモンは少し離れた所で戦いを見ていたが、戦況はこう着状態のまま動かなかった。
しばらしくて、意を決したように吉武が立ち上がる。

「戦う気か!?」

フレイモンの言葉には、「勝てるはずが無いのに」という意味が含まれていた。

「大丈夫…とは言い切れないけど、いい考えがあるんだ」

吉武の視線の先には、地面にたたきつけられて気絶しているメカノリモンがいた。

@@@@@@@@@@@@@@@

「スクイ―――ズバイ――――ン!」

ザッソーモンの両腕が激しくうなり、地面を叩く。それらをマメティラモンは紙一重でかわす。

「息が荒くなってマスヨォ――――!?」

「くっ…」

マメモン系統のデジモンはその体の小ささに比例するかのように、完全体デジモンの中では持
久力が無い部類に入る。マメティラモンも例外ではなかった。ザッソーモンはこのまま戦い続け
れば自分の勝利は確実だろうと確信した。その時だった。

「トゥインクルビーム!」

青白い光線が飛来し、ザッソーモンの脇腹に命中した。それはザッソーモンの脇腹を少し焦が
しただけだったが、ザッソーモンの気を引くには十分だった。それはメカノリモンが放った光線
だったから。

ザッソーモンとマメティラモンは光線の飛んできた方を見ると、さっきまで気絶していたはずのメ
カノリモンが立っていた。しかし、目は相変わらず×マークのままだ。

「澤田吉武、いきま――――っす!!」

メカノリモンはバーニアを噴かしながらザッソーモンにむかって突進する。吉武の声で叫びなが
ら。

「ヨシタケ!?」

「…なるほど、そういう事デスカァ―――!」

メカノリモンと言う種族は、なぜか体内に小型デジモンなら入る事ができるほどの広さのスペー
スを持っている。しかもそこの空間はメカノリモンのコックピットとも言える空間で、メカノリモン
にとっては最大のウィークポイントでもあった。

そういったメカノリモン種の特徴を知っていた吉武は、気絶しているメカノリモンに乗り込んで操
縦しようと考えたのだ。頭頂部にあるハッチは電子ロックと何重もの鍵でロックされていたが、
本人が気絶している間は電子ロックは働いておらず、何重もの鍵は元盗賊のフレイモンがは
ずしてしまった。

「落ちろ――――っ!」

吉武は絶叫しながら操縦桿を倒し、メカノリモンの腕を振るう。しかし、腕は見当違いの方向を
薙いだだけだった。

「アナタにはメカノリモンの操縦は無理だったようデスネェ―――!」

瞬間、ザッソーモンの腕がメカノリモンを打ち据え、そのボディが横転し、吉武の悲鳴が漏れ
る。ザッソーモンはもう片方の腕でさらに攻撃を加えようとするが、マメティラモンがしがみつい
てそれを阻止しようとする。

「ヨシタケッ!逃げろ!」

しかしメカノリモンはしばらく手足をふってもがいた後、ふらふらと立ち上がった。それとほぼ同
時にザッソーモンは片腕からマメティラモンを振り払う。

「オヤ?あのフレイモンがイマセンネェ――――」

フレイモンの姿がいつの間にか消えていた事は気になったが、臆病風に吹かれて逃げ出した
のだろうと思い、ザッソーモンはすぐにフレイモンの事を忘れた。普段の狡賢い彼ならここで攻
撃の手を止めてどこかに潜んでいる可能性のあるフレイモンを警戒するだろう。しかし今の彼
は巨大化して力が強くなった事によって、多少の小細工は握りつぶせる自身があった。

その慢心が敗北に繋がるなど、露にも思わなかった。

「ハハハハ!いつまでたっていられマスカネェ――――!」

ザッソーモンは両腕を振り回し、メカノリモンを滅多打ちにする。そのメカノリモンはフラフラと酔
っ払ったような動きをし、時には自分から当たりに来ているのではないかと思うような動きさえ
していた。吉武は繊細な操作を必要するメカノリモンを、思うように動かせないでいた。

「ホラホラ!素人が手を出すからこんな痛い目に会うんデスヨォ♪命乞いでもしたらドウデスカ
ァ―――――♪」

しかし、吉武は衝撃で激しく上下左右に揺さぶられながらも、モニターに映し出されるザッソー
モンの攻撃からは目を離さなかった。そして、吉武はそれを見ているうちにあることに気付い
た。ザッソーモンの攻撃は、喧嘩した事すらないような素人の攻撃だと言う事に。ケンタルモ
ン、デルタモン、パイルドラモン、そして戦いの中で成長していったマメティラモンの戦いを側で
見続けていた吉武だからこそ分かった事だった。

「ザッソーモンは戦闘のプロじゃない…なら僕にだって!」

呟いた次の瞬間、ザッソーモンの腕による攻撃をメカノリモンはしゃがんでかわした。

「ナニィ!?」

ザッソーモンはよけられた事に驚いたが構わず攻撃し続ける。

「当たらなければ…どうと言う事は無い!!」

そう叫んで吉武は操縦桿を右に、左に倒し、ザッソーモンの攻撃を次々と避ける。

「バカな!?コレだけの短時間で操縦をマスターしたとイウノデスカァ―――――――ッ!?」

吉武は操縦をマスターした訳ではなく、その操縦は未だ前進と後退ができる程度の物だった。
吉武がザッソーモンの攻撃を避けることができたのは、慢心しただ力任せに暴れるだけの強さ
を、旅の中で培われた不利な状況でも諦めない心の強さが上回っているだけの事だった。

「フレイモン!今だ!」

「やっと外に出られるぜ!」

メカノリモンの頭頂部のハッチが開き、そこからフレイモンが飛び出す。
そしてフレイモンの右手の平に火の玉が生まれる。

「ベビーサラマンダーッ!」

フレイモンは火の玉をザッソーモンに向かって投げつける。火の玉は尾を引いてザッソーモン
の顔面に向かう。それと同時にフレイモンは左手に持っていた緑色の塊をメカノリモンの右手
の平に落とす。

「ギェェェェェ!?アツイィィィィ!!」

逃げた物と思っていたフレイモンがいきなり現れ、完全に虚を疲れたザッソーモンの額に火の
玉が命中し、ザッソーモンは悲鳴をあげる。その悲鳴を発している口に、メカノリモンは長い腕
を突っ込ませた。巨大化したザッソーモンの大口に手を突っ込ませるのは、吉武でもさほど難
しくは無かった。

「ゲボッ!?ゲ、ゲゲボッ!?」

口に手を突っ込まれたザッソーモンは手を引き抜いてからでも苦しそうにうめく。

「な、ナニを私に飲ませたんデスカァ〜?」

「こいつは人間の癖にデジタルワールドの事に博識でな…」

フレイモンはメカノリモンの中の吉武を指差しながら言う。

「お前に飲ませたのはこの辺に生えている草だよ。呑めば胃の中の物全部吐き出してしまうよ
うな激しい吐き気に襲われるらしいぜっ!」

ザッソーモンはフレイモンが離している間も口を抑えてうめいている。

「悪いが…これで終わりだ!メットラリアット!!」

マメティラモンはザッソーモンの首に強烈なラリアットを放ち、ザッソーモンを川に落とした。程
なくして川が嫌な色に染まり、元の大きさに戻ったザッソーモンが浮かびあがった。

「うわぁ…」

「自分でこんな作戦考えといていうのもなんだけど…僕、あまり近寄りたくないなぁ…」

「じゃあそのメカノリモンから聞くか?奴らの目的」

吉武はうなずいてメカノリモンから下りようとハッチから身を乗り出す。そのとき、吉武は足で操
縦桿をけってしまった。

「うわぁ!?」

メカノリモンが大きく踏み出し、吉武はメカノリモンから転落し、メカノリモンはバランスを崩して
転がって川に落ちた。

「…」 「…」 「…」

汚物にまみれた二人の刺客を見て、吉武、マメティラモン、フレイモンの3人は無言で頷き、そ
の場を後にする。

『いま聞かなくてもどうにかなるさ。だってあの二人はいままで何度も懲りずに襲ってきたんだし
…』

そう思いながら。

@@@@@@@@@@@@

「『街道の森付近でターゲットを見失う。ターゲットはハーディックシティに向かっているようなの
で、街道の休憩所で待ち伏せする』、ですか…」

ヴァンデモンは今しがた届いたばかりの手紙を読んでため息をついた。そして振り返る。銀の
鎧を着込んだ、騎士の名を持つデジモンに。

「あなたの出番のようですよ。ナイトモン」


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