吉武達がデジタルワールドに来てから31日目…


太陽は高く昇っていた。スクリープ地方は内陸側はジャングルや砂漠が密集しているが、海岸
側の地方は比較的気候が穏やかだ。ハーディックシティは海岸側に近い所にある。雲ひとつ無
い快晴の下を何時間も歩き続けていたが、内陸側の砂漠やジャングル、それに一ヶ月もデジ
タルワールドを旅して来た吉武にとってそれくらいの苦難は気にならなかった。

「おい…ちょっと休まねぇか?」

フレイモンが吉武とマメティラモンに声をかける。フレイモンはすっかり息が上がっていた。

「そうだね、少し休もうか」

吉武はそう言うと荷物を降ろし、近くにあった適当な岩に腰を下ろす。吉武は汗をかいてはい
るが、フレイモンほど息はあがっていない。マメティラモンに至っては呼吸が乱れるどころか汗
一つかいていない。


第18章 鋼鉄の騎士―VS KNIGHTMON―


「まったく…人間は俺達デジモンよりずっとひ弱だって聞いていたのに」

フレイモンはそこで言葉を切ると、水筒の水を一口飲み込む。

「吉武、お前は俺より体力あるんじゃねぇのか?」

「そんな事はないと思うよ?」

「そうそう。フレイモンがバテてんのはペース配分を考えずにとばしてたからだろ?」

マメティラモンが茶化すと、フレイモンはムッとした顔をして水筒の水を全て飲み干した。

「あっ!?おい、水筒の水は大事にしろって言っただろ!?」

「あっ…!わりぃわりぃ、まぁこの近くには小川が流れているみたいだし、そこで水を汲めばい
いだろ?」

フレイモンの言葉を聞いて吉武は苦笑する。体力なら吉武よりも遥かに優れるフレイモンが何
故吉武よりも先にバテたか、それは旅慣れているか否かにあった。フレイモンは森の中で生ま
れ育ち、盗賊時代も森の中を拠点とし、遠出する事は滅多に無かった。吉武は経験豊富な旅
人ケンタルモンともに旅をして、ケンタルモンと分かれてからも自らの手で創意工夫し、ペース
配分を体で覚えていた。その違いだった。先の発言も、長旅をしたことがないゆえの言葉だっ
た。

「そろそろ行こう。このペースなら今日の夜までにはハーディックシティにつけるよ」

@@@@@@@@@@@@@@

吉武達が歩いているのはハーディックシティ付近の小高い山の中に作られた旧街道だった。
東の方からハーディックシティに向かう場合、途中で大きな川に阻まれ、この山の中を通っ迂
回するしかルートは無かった。しかし十数年前に川に大きな橋がかけられ、それにあわせて新
しい街道が作られるにしたがってこの山中の街道を通る者はいなくなった。

吉武達がこの旧街道を通ったのは、またメカノリモン達に襲撃された際に無関係な者が巻き込
まれないようにする為だった。吉武の予測どおり、彼らがこの街道に入ってから他の旅人の姿
は見当たらなかった。

「それにしてもホントにひとっこひとりいないな。敷石はグチャグチャだし吊り橋はボロボロだ。
こんな所でカモを探しても…」

フレイモンは言葉を詰まらせた。マメティラモンが彼を睨みつけたからだ。吉武は笑って聞き流
している。

「あれ…誰かいるよ?」

吉武達は立ち止まった。目の前の崖には大きな石造りの橋がかかっている。幅が広く、昔は
多くの旅人がそこを通っていったのだろう。しかしもう手入れする者がいないのか、手すりの部
分には蔦が絡まっている。

そしてその橋の中ほどに、背の高い大柄なデジモンが立っていた。日光を浴びて輝く銀色の鎧
を着た騎士のようなデジモンは、黙して動かない巨大な岩山のような印象を吉武達は受けた。

そしてそのデジモン…ナイトモンの分厚い鉄板すら貫きそうな視線を見て吉武とマメティラモン
は既に気付いていた。彼がマメティラモンを倒しに来た敵だと言う事に。それも「強」がつく敵だ
と。

「お前…メカノリモンやザッソーモンの仲間だな…!」

マメティラモンが進み出た。

「仲間?そんな上等な関係ではない」

ナイトモンは直立不動のまま答える。マメティラモンは一歩も動かず、武器を構えて戦闘態勢を
とるわけでもないナイトモンに対して、自分から攻撃を仕掛けられずにいた。ナイトモンから感
じられる圧倒的な実力者のみが持ちえる「闘気」とも言える物に気おされているのだ。

吉武とフレイモンは緊張した面持ちで見守っている。雲ひとつない青空に浮かぶ太陽に照らさ
れているのは皆同じなのに、僅かな間に滴るほどの汗をかいている吉武達に対し、ナイトモン
は汗をかいている様子がまったくない。

「消えて貰うぞ…『災厄』よっ!!」

その言葉と共にナイトモンは一足飛びでマメティラモンとの間合いを詰め、蹴りを繰り出す。

「!?」

マメティラモンは重装備にもかかわず一瞬で間合いを詰めたナイトモンの脚力と、剣を背負っ
ているにもかかわらず、それを使うそぶりをまったく見せないナイトモンに一瞬驚いてしまい、
気がついた時には目の前にナイトモンの爪先が迫っていた。マメティラモンは両腕でガードする
が、想像以上の衝撃が彼を襲う。

「ぐぅっ!」

マメティラモンは両足の爪を石橋に食い込ませて踏ん張る。石畳に深々と爪跡が残る。しかし
すかさずナイトモンは右手でアッパーを繰り出す。

「!!」

アッパーで打ち上げられたマメティラモンをナイトモンの左フックが捉え、マメティラモンは吉武
とフレイモンのいる方向に向かって吹っ飛ぶ。

「うわっ!?」

吉武とフレイモンはしゃがんで自分達の方に飛んできたマメティラモンを避ける。そしてマメティ
ラモンは二人の後ろにあった木に叩き付けられる…かと思いきや、マメティラモンは衝突寸前
に木を蹴って、ナイトモンに向かって一直線に飛んだ。

「!?」

ナイトモンの瞳に驚愕の色が浮かんだが、ナイトモンは二本の長剣を取り出し構える。ナイトモ
ンは一直線に自分に向かってきたマメティラモンに向かって剣を振るう。次の瞬間、金属音が
辺りに響き渡った。マメティラモンが空中で二本の長剣の片方を両手で白刃取りし、もう片方を
口に加えて止めていたからだ。

「何…!?」

ナイトモンは声を上げて驚く。その衝撃はさっき以上の物だろう。

「ふぁめふぁいと…ふぃゃく!」

マメティラモンは両手と顎にさらに力をこめて、二本の長剣をへし折る。そのままナイトモンの
顔面に頭から体当たりした。巨大な釣鐘を金属の塊で叩いたようなかん高い金属音が辺りに
響く。

「やったな!マメティラモンの頭突きを顔面にくらっちゃ、どんな色男も再起不能だ!」

耳を塞ぎながらフレイモンが言う。しかし、吉武はナイトモンが現れてからというもの、得体の知
れぬ不安を感じていた。それは今も消えてはいなかった。

「なるほど…これが『X抗体』の力という訳か…」

「「「!?」」」

「もとよりザッソーモン達では無理だと思っていたが…これほどまでとはな!」

ナイトモンはマメティラモンを引き剥がし、石畳に叩きつける。ナイトモンの顔には傷一つついて
いなかった。そしてナイトモンは背中に背負った巨大な大剣を片手で抜く。ナイトモンが本気を
出したと言う事は、吉武達全員にもわかった。ナイトモンが両手で大剣を振りかぶったとき、吉
武は叫んだ。

「逃げて!マメティラモン!」

「ベルセルクソード!!」

ナイトモンがベルセルクソードを振り下ろしたとき、離れた場所にいる吉武達の所にまで強風
が吹きつけた。マメティラモンは吉武が叫ぶよりも早く石橋の手すりの上に逃げていたので傷
は無かった。ナイトモンが振り下ろしたベルセルクソードは、石の橋に深々と食い込み、切っ先
が橋の裏側から顔を出していた。

「…」

ナイトモンは無言で愛剣を引き抜く。石の橋にできた亀裂の周りには、ヒビ一つ入っていなかっ
た。

「ハァァァァっ!」

「やべぇ!?」

ナイトモンは今度は横向きにベルセルクソードを振るう。石橋の手すりが根元から綺麗に切断
されていた。

「な、なんて奴だ…」

マメティラモンはジャンプして反対側の手すりに飛び移っていた。ナイトモンは素早くその手すり
の方向に向きなおる。

「このっ!!」

マメティラモンは石でできた手すりを叩き壊し、その破片をナイトモンに向かって蹴飛ばす。

(あいつの剣の振りはもの凄く早いが、大ぶりでもある。奴がこの破片を切り払った直後を狙っ
て…!)

マメティラモンの予想通り、ナイトモンは横向きに剣を振るって手すりの破片をさらに細かく破
壊する。

「今だっ!」

ナイトモンが剣を振り切った瞬間を狙って体当たりを仕掛けようとマメティラモンが一足飛びに
跳ねる。しかし次の瞬間、マメティラモンの体が地面に叩きつけられた。

「なっ!?」

「マメティラモン!」

マメティラモンは自分が自分がナイトモンの右手によって地面に押さえつけられているのだと気
付いた。

「嘘だろ…?片手で剣を持つならともかく、片手であのバカでかい剣を振り回すなんて!」

フレイモンの叫んだ言葉と同じ事をマメティラモンと吉武は思っていた。

「終わりだっ!」

ナイトモンはベルセルクソードを逆手に持って振り上げる。

「終って…たまるかよっ!」

マメティラモンは両手両足の爪を石畳に突き立てて体を起こす。そして自らを上方からすさまじ
い力で押さえつけているナイトモンの左腕をそれ以上の力で振り払い、それを両腕で掴んだ。

「!?」

「うおりゃああああああああ!!」

マメティラモンはナイトモンの体を垂直に持ち上げ、そのままジャンプする。

「これで…しずめぇぇぇぇぇ!!」

そしてマメティラモンはナイトモンの体の前面を石畳に叩きつける。爆発にも似た大きな音があ
たりに響き渡り、石畳に放射状のヒビが入った。

「終った、のか…?」

フレイモンが呟く。マメティラモンのパワーで受身を取る暇もなく体の前面から石畳に叩きつけ
られたのだ。並みのデジモンなら絶命してしまってもおかしくないだろう。

マメティラモン、吉武、フレイモンは息を飲んで見守っている。

「まさか…」

「「「!」」」

声が聞こえた。ナイトモンの呟く声が。

「これほどまでとはな…」

ナイトモンは投げられている間も離さなかったベルセルクソードを支えにして起き上がる。鎧や
兜はあちこちがへこんでいるが、防具としては問題なく使えそうだった。

「『災厄』…お前の実力は見切ったつもりだったんだがな…」

ナイトモンが立ち上がると兜の隙間から血が滴り落ちた。しかしナイトモンの様子からして大怪
我と言うほどの物ではなさそうだ。

「くっ!このおおおおっ!」

焦燥にかられてマメティラモンはナイトモンに突進する。

「駄目だ!マメティラモン!」

吉武が叫ぶよりも早く、ナイトモンがベルセルクソードをマメティラモンに振り下ろす。マメティラ
モンは寸前で真横に回避するが、直後にベルセルクソードの横っ腹がマメティラモンに叩き付
けられ、マメティラモンが橋の向こう側、吉武達とは反対方向にふっとばされる。

「「マメティラモン!」」

吉武とフレイモンの叫びが重なった。

「剣を横にする暇がなかった…さっきよりも速くなっている…。これが『X抗体』の力か?」

ナイトモンは誰にいうでもなく呟く。そして倒れているマメティラモンに止めをさすべく吉武達に背
を向け、ゆっくりと歩き出す。

「マメティラモン!」

吉武が走り出す。それを見てフレイモンも走り出し、すぐに吉武を追い抜いてナイトモンに追い
つく。

「ベビーサラマンダー!」

超近距離から炎の塊をナイトモンの後頭部にぶつける。ナイトモンの頭部が炎に包まれる。し
かしナイトモンは何事も無かったかのように一歩一歩歩き続ける。やがて炎が消えた。

「…!ベビーサラマンダーっ!」

フレイモンは悔しそうに顔を歪めると今度はナイトモンの背中にさっきよりも小さな炎の塊を放
つ。しかしナイトモンが歩みを止める事も、フレイモンの方を振り向く事も無かった。フレイモン
は何度も炎の塊を放ったが、撃つたびに小さくなっていき、やがて出なくなった。

「畜生…!恐いのを我慢して戦っているんだ…!振り向いてくれたっていいだろう…!なぁ!
ふりむけよぉ…!やめろよ…!とまれよぉ…!」

フレイモンは喚きながらだだっこのようにナイトモンの背中を叩く。それでもナイトモンは何も言
わず、ただゆっくりと歩いていくだけだった。やがて倒れているマメティラモンの前にたどりつ
き、ベルセルクソードを振りかざした。

「やめっ…!!」

フレイモンはマメティラモンの前に立ちはだかろうとする。

「フレイモンッ!離れてっ!」

しかし吉武の叫びを聞いて反射的にナイトモンから離れると、吉武が橋の手すりに絡まってい
た蔓をナイトモンに投げつけた。フレイモンがナイトモンを攻撃している間に手すりから引き剥
がしていたのだ。吉武の投げた蔓がナイトモンの体に絡まる。完全に動きを封じるとまではい
かなくても、動きを鈍らせる事はできるだろう。吉武はそう考えた。

「マメティラモンッ!いまだっ!!」

「おう…よっ!!」

マメティラモンは起き上がる。その瞬間だった。

「非力な人間に私を止める事などできない」

その呟きは、吉武の耳にだけ聞こえた。そしてナイトモンは皆に聞こえるような大声で叫んだ。

「ベルセルクソードッ!!」

ナイトモンはその巨大な大剣を振り下ろす。体に絡みついた蔦は一瞬で弾けとび、その勢いを
殺す事は無かった。

「――――――!!」

吉武の叫びは声にならなかった。この瞬間、その場にいた者はマメティラモンがベルセルクソ
ードに両断されると信じて疑わなかっただろう。信じたい、信じたくないにかかわらず。

「死んでたまるか…」

ただ一人を除いて。

「帰るんだ…ヨシタケと一緒に!」

その瞬間、再びその場にかん高い金属音が鳴り響いた。

「な…!」

「え…?」

「ハハハ…こりゃ傑作だ…文字通りの『白歯取り』だよ!ハハハハハッ!!」

そう、マメティラモンは自身の体の中で最も強靭な筋力を持つ部分、『顎の筋肉』の力を全開に
して、口でベルセルクソードを受け止めたのだ。

「く…この!」

ナイトモンはベルセルクソードを振り上げたが、マメティラモンはそこにかぶりついたままだ。

「ええい!そこから離れろっ!」

ナイトモンは剣を振り回すが、マメティラモンは一向に離れる気配がない。業を煮やしたナイト
モンは剣を振り上げて、マメティラモンを石橋の手すりに叩きつけようとする。

「あぶないっ!!」

しかしマメティラモンは手足を手すりにめり込ませて耐える。口の端からは血が流れていた。

「く…」

ナイトモンは再び叩きつけようと、剣を持ち上げようとする。

「マメティラモン!いまだ!口を開いて!」

「何っ!?」

ナイトモンが剣を持ち上げると同時に、マメティラモンは剣から口を離し、手すりを蹴ってナイト
モンに体当たりする。しかしナイトモンは微動だにせず、マメティラモンを鷲づかみにして手すり
に叩きつけた。石でできた手すりにマメティラモンの体がめり込んで固定される。

「今度こそ…終わ…!?」

ナイトモンが剣を振り下ろそうとするとマメティラモンの前に吉武が立ちはだかった。さらに剣を
振り上げた腕にフレイモンが飛びつく。その時、ナイトモンは吉武の目に宿る光に初めて気付
いた。熱く燃える、決して折れない刀身のような光に。

「…」

「わっ!?」

ナイトモンはフレイモンを腕から引き剥がし、地面に投げ捨てると、振り上げた剣を下ろす。

「お前は…お前の後ろにいるデジモンなんなのか分かっているのか?」

吉武はしばらくしてナイトモンが自分に聞いているのだと気付く。そして間髪入れずに答えた。

「マメティラモンは僕の大切な家族だ!」

「それがこの世界を滅ぼしかねない災厄だとしてもか…?」

「マメティラモンは僕の家で生まれて、ずっと僕と一緒だった!災厄だとしても、その前に僕の
家族なんだ!だから…」

「守る、か」

そうナイトモンが言ったときだった。マメティラモンが手すりから体を抜いて、吉武とナイトモンの
間に入ったのは。両手を広げて仁王立ちしてナイトモンを睨むマメティラモンを見て、ナイトモン
はマメティラモンにも吉武と同じ光が宿っている事に気付く。

「一つ聞こう。何故お前達はハーディックシティを目指している?」

「元の世界に帰る為の手がかりを探す為だ!吉武と一緒に帰る為のな!」

マメティラモンのその言葉を聞いた瞬間、ナイトモンは軽いショックのような物を覚えた。そし
て、ベルセルクソードを背中に背負い、吉武達に背を向けて、歩き出した。

「私達の拠点もハーディックシティにある…全てを知りたいのなら…来い」

呆気に取られる吉武達を尻目に、ナイトモンは言う。

「デジモンが…それも『NDW』のデジモンが人間の世界の事を『元の世界』と言う、か…」

そして、誰にも聞こえないような声でナイトモンは呟いた。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

その日、吉武達は山を下りたところで野宿した。ハーディックシティの灯りがよく見える場所で
の野宿だったが、誰もハーディックシティまで行こうとは言わなかった。その日の夕食はいつも
よりも豪華だった。吉武が食料を使い切るように料理したからだ。そして、食事の最中に吉武
が言った。

「…フレイモン、多分、ハーディックシティではまたナイトモンさんやその仲間の強いデジモン達
との戦いになると思うんだ」

フレイモンは黙々と食べ続ける。

「だから、フレイモンはここで分かれて欲しい。フレイモンを巻き込みたくないんだ。」

フレイモンは黙々と食べ続ける。

「元々これは僕とマメティラモンの問題なんだ。だから…」

「じゃあ、お前もここでマメティラモンと別れな」

突然、フレイモンが食事の手を休めていった。

「…」

「マメティラモンが『災厄』だから奴等は狙ってくるんだろ?だからこれは吉武とマメティラモンの
問題じゃない、マメティラモン一人だけの問題だ」

「そんな…!」

「マメティラモン、お前はどうなんだ?」

フレイモンがさっきまで無言だったマメティラモンに話題を振る。

「俺は…」

マメティラモンは少し迷ってから言葉を続ける。

「…ヨシタケにはついて来て欲しくないと思っている」

「そんな!僕はマメティラモンを一人で行かせられなんかしないよ!」

「『家族』だからか?」

フレイモンの言葉に二人は言葉を詰まらせる。

「一年一緒にいりゃ家族か…俺はお前らと一緒になってから一週間も経っていない」

フレイモンは立ち上がる。

「だけど…『家族』とはいかなくても…『仲間』のつもりでいさせてもらうぜ」

そう言ってフレイモンは近くの高い木の枝の上に飛び乗って寝転がる。彼は野宿の時はいつも
こうやって木の上で寝ていた。

「…マメティラモン」

「ヨシタケ、正直いって俺は自分が何者か知るのが恐い。だけど、ケンタルモンや砂漠の集落
のみんなみたいな巻き込んでしまった人達の為にも…それに、吉武と一緒にいる為には決着
をつけなきゃいけないと思うんだ」

吉武は心の中でマメティラモンと同じ事を思っていた。

「行こう、マメティラモン、フレイモン。明日、ハーディックシティに」

マメティラモンが頷き、フレイモンが寝返りをうった。

「そうそう、まだデザートが残っているんだけど…フレイモンの分も食べちゃおうかな?」

吉武がわざとらしい声でいった。すると木の上からフレイモンが降りてきた。3人は談笑しなが
らフルーツや野菜、保存食や水に至るまでのあらゆる食料を食べ尽くしていく。この楽しかった
時を、まだ見ぬ困難に打ち勝つ力に変える為に。


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