「ここがあいつらの拠点…?」

ロードナイトモンに地面に下ろしてもらったマメティラモンは呟く。森を抜けてついた所は切り立
った崖の前だった。崖の前には浅い小川が流れている。

「…どこにも建物みたいなのはないみたいですけど…?」

吉武がロードナイトモンに聞いた。

「いや…」

「うわっ!?」

ロードナイトモンが口を開こうとすると、突如マメティラモンの足元の地面が隆起した。いや、足
元から何か巨大な物体が出てきたのだ。巨大な物体はまるで水面から魚が飛び出すかのよう
にするりと地面から空中へ飛び出る。その際にマメティラモンはバランスを崩して物体の上から
転がり落ちる。

巨大な物体は八角系の多面体の形をした巨大な金属の塊のように見えた。空中で多面体の
五つの面から蛇腹ホースのような手足と、円柱に穴を空けて目と口を付けただけの頭部が飛
び出す。

「デジモン!?」

巨大なデジモンは手足を広げ、そのまま吉武達の上に落下してくる。

「ばーるーぶも――――ん!!」


第20章 神の神殿―God neme is…―


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

吉武とマメティラモンは慌ててその場から離れる。バルブモンは地響きを立てて着地した。

「てめぇ…ナイトモンの仲間か!?」

マメティラモンが叫ぶ。

「ないともん?ないともんはきのうおくってあーげーたー」

バルブモンは数秒の間を置いてから答えた。

「送った!?どこに!?」

「こーこーにー」

バルブモンは首を百八十度回転させ、先端に鉄柱が付いた蛇腹ホースのような腕を崖に向け
た。

「ふざけてないできちんと答えろ!」

「ふーざーけーるー?なーにーそーれー?」

「おい、いいかげんにしろ!」

マメティラモンはバルブモンを怒鳴りつける。バルブモンはかなり間を置いてから答えた。

「おーもーいーだしたー!」

「何をだ!」

「べーだもんにー!ちっちゃくてあかいでじもん、つぶせっていわれたー!」

そう言ってバルブモンは片腕を振り上げる。

「ヨシタケッ!下がってろっ!」

マメティラモンは吉武を突き飛ばすと、バルブモンの振り上げた腕に突進した。

「どーん!」

バルブモンは腕を振り下ろし、鉄柱状の腕の先端が地面に叩きつけられた。重量のある腕の
先端に潰されたらひとたまりもないだろう。

「あーれー?どこだー?」

バルブモンは腕を持ち上げてみるが、そこにマメティラモンがいた形跡は無かった。そのとき
既に、マメティラモンはバルブモンの腕を伝ってバルブモンの背中に渡っていた。

「どこだどこだー?」

バルブモンは頭部を回転させながらマメティラモンを探すが、マメティラモンはすでにバルブモ
ンの死角に入っていた。

「ばーか、ここだよ!」

マメティラモンはバルブモンの顔が自分と反対の方向を向くと同時に背中から飛び出し、バル
ブモンの後頭部に体当たりを仕掛ける。しかし次の瞬間、胴体にバルブモンの首が引っこん
だ。

「うおっ!?」

バランスを崩してマメティラモンはさっきまで頭部があった面に着地する。そして次の瞬間、背
中の面から頭部が飛び出した。

「みつけたー!」

今度は右腕が引っ込み、マメティラモンのいる面から腕が飛び出す。そのまま腕がマメティラモ
ンを崖に叩きつけた。

「マメティラモン!!」

吉武が叫ぶ。並みのデジモンなら今の攻撃で潰されてもおかしくない。

「うおおおっ!!」

しかしマメティラモンは自分を押さえつけているバルブモンの腕を弾き飛ばし、岩壁から体を引
き抜いてバルブモンに向かって飛ぶ。狙いはバルブモンの胴体だ。

「手足や頭部は駄目でも、体ならどうだ!」

「ひぇ〜!!」

バルブモンは情けない声を上げると全ての手足と頭部を胴体に引っ込めた。支えを失った胴
体が地面に落ちた瞬間、バルブモンの体がまるで潜水艦のように地面に沈んだ。

「「何!?」」

「あれがバルブモンという種族の特性だ。地面を『掘る』のではなく、『潜る』という特性がな」

ロードナイトモンの声がした方を吉武が振り向くと、ロードナイトモンはどこから取り出したの
か、簡素だが高級そうなテーブルとイスに座っていた。テーブルの上にはこれまた高級そうな
ティーポットがあり、ロードナイトモンはティーカップの中の紅茶の香りを楽しんでいる最中だっ
た。

「何をやっているんですか!?」

「ティータイムだ。君もローズティーをどうかね?」

「結構です!あなたは僕達を助けに来たんじゃないんですか!?」

ロードナイトモンはテーブルの上にティーカップを置いて答える。相変わらず彼は緊張感のかけ
らもない、優雅な雰囲気をかもし出していた。

「これは私が我が主君から課せられた使命とは関係ないのだが…」

そう言ってロードナイトモンはマメティラモンの方に顔を向けた。マメティラモンは再び地上に姿
を表したバルブモンの連続攻撃を必死で回避している。

「私は彼の力に興味が沸いてしまってね。ちょうどいい機会なのでこうして彼の力を拝見させて
貰っている」

そう言って再びロードナイトモンはティーカップを手に取った。

「まっどぽんぷーっ!」

「!!」

さっきまでロードナイトモンに気を取られていた吉武が振り向くと、バルブモンの手の先端から
太い水流が発射されていた。もう片方の手は近くを流れている小川に突っ込まれている。おそ
らくあそこから水を供給しているのだろう。

「うわああっ!」

水流がマメティラモンに直撃する。デジモンとしてはかなり小柄な部類に入るマメティラモンは
水圧でなす術もなく派手に吹っ飛ばされた。

「マメティラモン!」

弧を描いて自分達の所に飛んできたマメティラモンを両手で受け止める。

「くらえー」

バルブモンはジャンプして空中に飛び上がり、手足と頭部をいったん収納し、体の上下から4
本ずつ、計八本の腕を伸ばす。

「おくたごんあた――――っく!!」

バルブモンは八本の腕を出鱈目に振り回しながら吉武達に向かって落下してくる。この状況下
でもロードナイトモンは緊張をかけらも見せず、二杯目の紅茶をティーカップに注いでいた。

「しゃらくせぇっ!」

マメティラモンは近くの木を駆け上り、その最上段からバルブモンに向かって跳ぶ。小柄な体を
生かして振り回されるバルブモンの腕をくぐりぬけ、マメティラモンの体当たりがバルブモンの
体に直撃し、バルブモンの体は川に落ちる。あたり一帯に細かい水滴が降り注いだ。

「いたい〜」

バルブモンは頭部を出して情けない声をあげる。表情はまったく変っていなかったが、ダメージ
は受けてるようだ。

「ああっ!また…」

再びバルブモンの体が川底に潜り始めた。しかし、そのスピードはさっきと比べてかなり遅い。

「マメティラモン!バルブモンは手足と頭部をしまわないと地面に潜れないんだ!」

「なら今がチャンスって事だな!」

マメティラモンはバルブモンの腕の一本を掴む。

「うおおおおおおおっ!」

その光景はにわかには信じがたかっただろう。巨大なバルブモンの体が、その千分の一にも
満たない大きさのマメティラモンによって少しずつ川底から引き上げられているのだから。

しかし、次に起こった光景はそれ以上のものだった。

「どおりゃああああああああああああああ!!!!」

マメティラモンはバルブモンは川底から引っこ抜き、空高く投げた。

「うわわわわわわわ〜!?」

バルブモンは何本もの木を押しつぶしながら轟音を上げて地面に落ちた。落下点にはクレータ
ーができていた。

「ぐるぐるぐるぐる〜」

バルブモンは目を回している。ぐるぐる回っているのは首で、表情は相変わらず変っていない
が目を回している事にしよう。

「ぴたっ!」

「お目覚めかな?」

バルブモンの首の回転が止まったとき、彼の目の前にはロードナイトモンがいた。バルブモン
の額に左手に装備した盾を突きつけていた。

「ぎょぎょぎょ――――っ!?」

「おそらくは頭の足りない貴様を奴らがいいように使っていたのだろうが…ベーダモンやナイト
モン、それとヴァンデモンの居場所…いや…」

ロードナイトモンはバルブモンに駆け寄ってきた吉武とマメティラモンを一瞥すると、誰にも聞こ
えないような声で言った。

「我が主君の『神殿』に案内して貰おうか…」

@@@@@@@@@@@@@@@

フレイモンはうずくまって、目を強く閉じて耐えていた。ハーディックシティの住民達の蹴りと罵
声に。これが自分が今まで盗みをしてきたから招いた結果だという分かっていた。自業自得だ
とは分かっていても、これだけの数のデジモンに罵声を浴びせられながら蹴られ続けるのは、
心身ともに相当な痛みをともなった。周りにいる者は全て自分に強い敵意を持つ者で、味方が
一人もいない状態で一方的になぶられ続けるという状況は心細さが心を痛めつけ、体を痛め
つける蹴りの痛みが何倍にも感じられた。

それでもフレイモンは逃げようとしなかった。ここで自分が囮になっていれば僅かでも吉武達が
逃げ切れる可能性は高くなる。なによりこの場に自分の味方はいないが、自分は一人じゃな
い、吉武とマメティラモンという仲間がいる。そう思うとフレイモンは自分の心と体の痛みが和ら
ぐような気がした。

「何をやっている!?」

不意に蹴りが止まった。自分を取り囲んでいるデジモン達が止めに入った一匹のデジモンと口
論しているようだ。フレイモンは一瞬期待したが、止めに入ったデジモンもすぐにリンチに加わ
るだろうと思い、顔を上げようとしなかった。

「このデジモンが盗みを働いたのは確かなようだが…それをよってたかって袋叩きにする事が
ハーディックシティの住民のする事か!?この町にルールがあるのは暴力から弱者を守る為
だろう!?あなた達のやっている事はそこらへんのチンピラと変わりないぞ!!」

しかし止めに入ったデジモンはあくまでも強い口調で異議を申し立てる。さっきの言葉が聞いた
のか、住民達は黙り込んでしまった。

「おーい♪かっこいいこと言うのはいいんだけどさぁ♪」

「パイルドラモン ガ サキ ニ イッテシマッタゾ」

不意に別なデジモンの声がした。どうやら止めに入ったデジモンの仲間らしい。二人いるよう
だ。

「ああ、ちょっとまってくれ…大丈夫か?」

手をさしのべられたのでフレイモンはその好意に甘えてその手を掴んで立ち上がった。目を開
いてみると、そのデジモンは半人半馬のデジモンだった。二人いるかと思えば仲間は両腕が機
械と骨の頭部になっている恐竜型デジモンが一匹だけだった。

「おい、早く行こうぜ」

恐竜型デジモンが喋る。さっき聞こえた二つの声とも声の質が違っていた。

「悪いなデルタモン。早く吉武達を見つけなければいけないのは分かっていたんだが…どうも
ほおって置けなくてな」

半人半馬のデジモン…ケンタルモンはそう言った。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

「つ、つきましたー」

バルブモンの震えた声が幾何学模様の壁に囲まれた広い空間に響く。そして壁の一部に切れ
目が入ったかと思うと、そこが開いて出入り口になる。そこから吉武達は外に出る。バルブモン
の体内から外に。

「なんだこりゃ!?」

マメティラモンは外に下りてから言った第一声がそれだった。バルブモンに運んで貰った先は、
碁盤目状の線で構成された空間だった。真っ暗闇の空間に、ワイヤーフレームで構成された
大きな島が浮いている。吉竹達が立っているのがそこで、彼らの目の前には島と同じくワイヤ
ーフレームで構成された巨大な四角い建物が建っていた。

「…なんだかあちこち壊れているみたいだけど?」

吉武が呟く。確かに建物や浮島の地面にはあちこちに穴が空いている。ロードナイトモンは穴
の空いた建物を見て、拳に力をこめる。

「奴らはどこにいる…?」

ロードナイトモンはバルブモンに向かっていった。

「し、しらない。ばるぶもん、このしかくいののなかに、はいったこと、ない」

「でもこの建物の中に入ったのは確かみたいだな」

そう言ってマメティラモンは建物の門と思われる部分に近づく。その時、マメティラモンと吉武の
周りの地面が盛り上り、壁となって二人を取り囲んだ。

「うおっ!?」

盛り上った壁は建物内の通路とつながり、地面がベルトコンベアのように動き出し、建物の中
へ二人を運ぶ。

「マメティラモン…」

「ああ、わかってる…この先にはナイトモン達がいる。そして…」

俺の秘密がわかる。と続けるつもりだったが、マメティラモンはその言葉を飲み込んだ。やがて
通路は行き止まりに到達し、行き止まりの壁がスライドして開き、その中へ二人は足を踏み入
れた。そこはやはりワイヤーフレームで構成された広間だった。中央には巨大な地球儀のよう
な物に何重ものリングをつけたような巨大な物体があった。そしてその前に3人のデジモンが
立っていた。

一体はナイトモン。もう一体はさっき町でマメティラモンを狙っていたベーダモンだった。そして
最後の一体は青いスーツを着、マントをはおり、目元を赤いマスクで隠した人間に近い姿のデ
ジモンだった。しかしその肌は死人のように青白い。

「ナイトモン!あの噂はあんたが流したものだったのか!?」

マメティラモンは叫ぶ。しかしナイトモンは直立不動のまま動かない。その瞳は感情を押し殺し
ているように見えた。

「ようこそ、マメティラモン君。そして人間、澤田吉武君。私はヴァンデモンという者です。以後お
見知りおきを」

ヴァンデモンはパーティーの主催者のような丁寧な態度で喋る。しかし吉武とマメティラモンは
ヴァンデモンの態度が酷く不快なものに感じられた。

「遠路はるばる、人間の世界からようこそ。いかがでしたか?私達の世界…デジタルワールド
は。人間のあなたから見て、どのような世界でしたか?」

ヴァンデモンはそこで一呼吸整えると、一気に早口でまくしたてた。

「わけもわからず襲われて辛かったですか?いつ襲われるかもしれず恐怖で夜も眠れません
でしたか?いつ他人に裏切られるかも知らず気が気でありませんでしたか?ついたばかりの
町で身に覚えのない噂でリンチにされかけて絶望を味わいましたか?」

「てめぇ!あの噂を流したのはお前だな!?」

マメティラモンが叫ぶ。ヴェンデモンは慇懃無礼な態度を崩さずに言う。

「おっと、これは失礼。前置きが長すぎましたかな?まことに申し訳ございませんが、本題に移
る前にもう一つ前置きを…」

「ふざけるなっ!」

今にもヴァンデモンに食って掛かりそうなマメティラモンを吉武が制した。

「何故、この世界がデジタルワールドと呼ばれるのか。それをお話しましょう。澤田吉武君、あ
なたの世界にはパーソナルコンピューターといった物を始めとした、デジタル機器があります
ね?」

吉武は答えもせず、首もふらなかった。構わずにヴァンデモンは楽しそうに言葉を続ける。

「簡単にいえば、この世界はそのデジタル機器の中の世界なのです」

「「ええっ!?」」

吉武とマメティラモンの声が重なる。

「この世界はデジタル機器のネットワークによって生まれた世界。とはいってもそう簡単に相手
の世界に干渉はできませんがね」

「これくらいの事はアタシくらいの研究者の間では結構有名よぉ?普通のデジモン達はほとん
どそのことを知らないけどね」

「そしてこの世界を形作る物は『情報』!全てのデジモンも例外ではありません。その全てがあ
なたの世界の動物、機械、伝説、そして人間を参考に形作られていると言っても過言ではない
でしょう!」

吉武は以前出会ったマッドサイエンティスト・ナノモンが人間の事を、「我らの祖」と言っていた
事を思い出した。ナノモンもそれなりにレベルの高い研究者であったと言う事か。

「それでは…本題に入りましょうか。貴方に隠された真実を教えて差し上げましょう」

ヴァンデモンはマメティラモンを指さす。そして少し間を置いた後、指を自分の後ろの巨大な物
体に向ける。

「全ては…この『イグドラシル』が立てたある計画が全ての原因でした。その計画の中心のなっ
たのはひとつのプログラム。そのプログラムの名こそ『X』!その計画の第一段階、それは…」



「Xプログラムによる…全てのデジモンの消去」


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