「デハ、最後に一つ聞いてオキマス。確かに今の奴の力は無限ではないのデスネ?」

「ああ。奴がイグドラシルの中枢部で姿を表したとき、確かに奴の体がイグドラシルとコードで
繋がっているのを見た。我々を追うときはそれを切り離していた事からおそらく奴は…」

「完全にイグドラシルと同化したわけじゃ無さそうね。それなら自己再生にも限りがあるわ」

ナイトモンのセリフを横からしゃしゃり出たベーダモンが奪う。ナイトモンは露骨に顔をしかめ
た。

「デハ、作戦は今し方説明したトオリデス。各々方、配置に着いてクダサイ!」


第24章 本当の強さ―you are strong?―


「む?」

ハーディックシティに向かって森の中を歩くバルバモンは、数メートル先にベーダモンが突っ立
っている事に気づいた。

「ほう…貴様は真っ先に逃げると思っていたのだがな…」

バルバモンは心底意外そうに言う。

「みくびらないで欲しいわね…アブダクション光線!」

ベーダモンは「いかにも」いった感じの、古典的なSF物にも出てきそうにない形状のビームガ
ンの引き金を引いた。やはり古典的な効果音と共に、古典的なジグザグ状の光線がバルバモ
ンに向かって伸びる。バルバモンはそれを手で払った。

「そんな攻撃で倒せると思っているのか?」

必殺技を軽くいなされたにもかかわらず、ベーダモンは余裕の表情を浮かべていた。

「甘いわね…あたしにはとっておきのもう一つの必殺技があるのよ!」

「面白い…ならば見せてもらおうではないか」

大見得を切るベーダモンを見て、バルバモンはさも面白そうに笑う。どんな奥の手も軽く叩き潰
せる自身があるからだろう。

「必殺…」

ベーダモンは野球の投手のように身体を大きく捻る。

「悪魔の投げキッスッ」

そのまま唇に手を当てて、ナヨナヨとした動きとポーズでバルバモンに投げキッスした。当然、
悩殺できるとは言いがたい気味の悪い投げキッスだった。バルバモンの顔から笑みが消え、
辺りを重い沈黙が支配した。

「面白くないぞ…」

数秒間の沈黙の後、バルバモンが重い口を開いた。その声は怒りに震えていた。

「今のは…私が知っている中で一番面白くない冗談だったぞ――――っ!」

前進から憤怒のオーラを立ち上らせながらバルバモンは叫ぶ。それを見てベーダモンは情け
ない悲鳴を上げながら一目散に逃げ出した。

「待てぃ!」

「ヒィィィィィィィ!!」

気持ち悪い物を見せられたからか、ベーダモンの奥の手があまりにもお粗末だったからか、あ
るいはその両方かそれ以外か。理由はなんにせよバルバモンは激怒している。それがベーダ
モンの、いやザッソーモンの思惑通りに動いているとも知れずに。

「逃すと…思うかぁ!」

「イヤァァァァァァァァァァ!」

バルバモンは小型の暗黒弾を連続で放つ。ベーダモンは演技で悲鳴をあげているのではな
い。本気で恐がっているのだ。結果的にはそのおかげで罠だと気づかれずに、うまくバルバモ
ンを計画通りのポイントに誘導できたのだが。

「ムッ!?」

突然、付近の茂みから木で出来た杭がバルバモンに向かって発射された。バルバモンはそれ
を手で払いのけたが、四方八方からさらに無数の杭が飛んできた。それらは全てバルバモン
の周りに出現した魔法陣によって防がれ、地に落ちる。

「小細工を…」

ベーダモンの姿はいつのまにかバルバモンの視界から消えていた。バルバモンはベーダモン
が自分を罠に誘い込むために自分の前に現れたのだと気づく。

「愚かな。このような物では我に傷一つつけられぬ」

「じゃ、これはどうかなっ♪」

バルバモンが嘲笑したその時、背後から彼の頭上に巨大な物が振り下ろされた。デルタモン
の右腕、メタルヘッドだ。しかし相当な勢いで振り下ろされたそれも、バルバモンの頭上に出現
した魔法陣で受け止められていた。

「ならば…」

次の瞬間、近くの茂みの中からケンタルモンがバルバモンの目の前に飛び出してきた。キャノ
ン砲に変化した右腕がバルバモンの眼前に突きつけられる。さらにデルタモンも右腕をバルバ
モンに振り下ろした体制のまま、左腕、スカルヘッドを大きく開く。

「これならどうだっ!!」

ケンタルモンの右腕とデルタモンの左腕から閃光が放たれる。並みのデジモンならひとたまり
も無いだろう。しかし防御障壁となる魔法陣によってまたもやバルバモンは無傷だった。その
結果を見越していたのか、二人はあまり驚いた様子を見せなかった。

「フン」

バルバモンは右腕をケンタルモンに、左手をデルタモンに向け、暗黒弾を放つ。ケンタルモン
は身軽さを生かして瞬時にバルバモンから離れてかわし、デルタモンも巨体をよじって避け、
後ろに跳んでバルバモンから離れる。

「…ハッ!」

バルバモンは自分の周りに無数の暗黒弾を浮かべる。しかしそれをすぐには放たず、浮かべ
たままデルタモンに向き直る。そして嫌らしい笑みを浮かべて口を開いた。

「貴様とあやつは今はこうして協力しているが…和解したようにみえるが…本当に和解している
のかね?本当は…貴様でも気づかないほどの心の奥底で…憎んでいるのではないのかね?
お前との友情を、信頼を裏切ったあのデジモンを!」

バルバモンはケンタルモンを杖で指す。ケンタルモンは臨戦態勢のまま押し黙っていた。

「もっと自分に正直になったらどうかね?奴が憎くて憎くて仕方が無いのだろう?それはごく自
然な摂理。むしろ良心なんて物の方が不自然だ。私の力を見ただろう?私の力を借りれば、
奴を殺す事など…」

「ウルサイ ムイミ ニ ギョウスウ ヲ カセグ ナ!」

バルバモンの演説が最高潮に差し掛かったその時、スカルヘッドの叫びがそれを遮った。

「グダグダくだらねぇこといってんじゃねぇよ。神きどりのクソインテリ野郎が」

「クソインテリ野郎♪いいねぇ〜こいつにはピッタリだ♪」

デルタモンとメタルヘッドの言葉を聞いてバルバモンは憤怒に顔を歪める。

「「「てめぇの長台詞よりも、てめぇの無駄にでかい力よりも…俺にはこいつの『裏切らない』の
一言の方が!よっぽど信じられるんだよ!」」」

デルタモンが叫んだ瞬間、宙に浮んでいた無数の暗黒弾が二人に降り注いだ。バルバモンの
顔は強い憤怒に醜く歪んでいた。

「そんなに友情というまやかしが好きならば一生信じていろ愚か者どもが!貴様らの力では私
に傷一つ負わせられんがな!」

降り注ぐ暗黒弾に耐えながらも、デルタモンとケンタルモンは両腕をバルバモンに向ける。

「ト」「リ」「プ」「「「レックスフォース!!!」」」
「ダブルハンティングキャノン!!」

二匹の放った閃光がバルバモンに命中し、辺りは爆煙に包まれる。

「タイミングをずらして撃ったか…小癪な!」

煙の中でバルバモンは舌打ちする。彼の右肩には焼け焦げた跡があった。あの時、前後から
同時に必殺技が来ると思ったバルバモンは、二人が叫んだ瞬間に魔法陣を出して防いだ。し
かし必殺技発射のタイミングは全くの同時ではなく、ケンタルモンはハンティングキャノンの片
方を少しタイミングを遅らせて撃ったのだ。結果、魔法陣が消えた瞬間にエネルギー弾が直撃
してしまった。

「おのれ…神である私に傷を負わせるなど…」

だが、究極体クラスの攻撃力がなければ傷はすぐに再生してしまうし、痛みすら感じない。この
攻撃は全く意味の無いものなのだ。それにケンタルモンとデルタモンもあの数の暗黒弾を食ら
えば、跡形もあるまい。そう考えてバルバモンは自らを落ち着かせようとした。

「どうした?私達はまだ生きているぞ!」

その時、ケンタルモンの叫び声がバルバモンの耳に届いた。それも先ほどまで彼がいた方向
とはまったく別の方向から。驚愕し、バルバモンは煙の中をそちらの方向に向かって走る。煙
を抜けた瞬間、目の前に太い丸太の断面が迫っていた。二本の木の間に丸太を吊るした典型
的なトラップだ。

「ぬぅうあぁ!?」

バルバモンは思わず怯むが、自動的に魔法陣が発生して丸太を受け止める。

「ええい、小細工しか能が無いのか!奴等は!」

バルバモンは苛立たしげに杖で丸太を叩き壊す。

「じゃ、あんたは力任せと知ったかぶりしか脳が無いのかい?」

「何…」

そこにはパイルドラモンが立っていた。両腕を組んで、余裕すら感じさせる態度だった。

「おっと失礼。『神』サマの前でこのセリフはないよな〜、俺はいわゆる『挑戦者』なんだしよ…」

「戯言に付き合っている暇はない!」

バルバモンは暗黒弾を放つ。それを素早くかわし、パイルドラモンは両腕のスパイクを伸ばし
て突撃する。だがそれも魔法陣によって阻まれる。

「先ほどは私に一撃入れたからといってどうにかなると思うな…アレはわざとうけてやったの
だ。再生能力を見せつけ貴様等をより深い絶望に陥れる為にな」

「へぇ…」

パイルドラモンは意外そうな声をもらす。先ほどから余裕そうな彼の様子が気に入らなかった
バルバモンの神経を、その声がさらに逆なでした。

「デスルアー!」

バルバモンの杖の先端から漆黒の鞭が伸び、パイルドラモンの左手のスパイクを絡め取る。
そしてそのまますさまじい力でパイルドラモンを振り上げ、地面に叩きつけようとした。

「甘い!」

パイルドラモンは四肢と尻尾、四枚の翼をフルに使い、地面に叩きつけられようとすれば木に
掴まってそれを阻止し、木に叩き付けられようとすれば全身で受身を取り、暗黒弾で狙い撃ち
にされようとすれば鞭に捉えられているにもかかわらず、紙一重で避けて見せた。

「ムーンシューター!」

さらパイルドラモンは鞭に絡め取られている左手のスパイクを発射する。動きが大きく制限され
ている状態にもかかわらず、スパイクは正確にバルバモンに向かって跳んでいった。

「何っ!?」

バルバモンは慌てて鞭に力を込め、スパイクを砕く。その時既に、パイルドラモンは後ろに回っ
ていた。

「フルバーストブラスター!」

パイルドラモンの胸部のXマークから光線が放たれ、両腕のスパイク、両腰の生体砲が一斉発
射され、発射と同時にパイルドラモンはそこから緊急離脱する。爆煙が晴れた時、やはりバル
バモンは無傷だった。

「無駄だ無駄だ!貴様は私に傷一つつける事ができんのだ!ひたすら戦い続けるだけの愚か
なデジモンよ!」

パイルドラモンはバルバモンから少し離れた所に着地し、そして静かに言う。

「俺が求めているのは強い奴との戦いだけだ。愚かだとか高尚だとか、価値があるとかないと
かは関係ない」

「愚かだな…世界には貴様が永久に追いつけんような強者…神であるこの私が…」

バルバモンがパイルドラモンの言葉を笑い飛ばそうとしたとき、パイルドラモンが口を挟んだ。

「お前は最初に一撃入れられたとき…ついさっきも…見切れていたか?俺の動きを?」

バルバモンの表情が凍りついた。パイルドラモンはさらに淡々と続ける。

「てめぇは俺が求めていたような『強者』じゃねぇ。あの人間のガキやフレイモン、ザッソーモン
やメカノリモンと戦った方がまだ楽しめそうだ」

一刻の間の後、バルバモンが放った大型の暗黒弾がバルバモンの激しい憤怒の叫びとともに
森を振るわせる。

「消えろ愚か者がぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「…小細工に付き合ってやったぜ。とっととこの茶番を終らして、早いとこてめぇと戦わせて貰う
ぜ、ガイオウモン」

パイルドラモンは眼前に迫る暗黒弾を前に、小さく呟いた。そして両腕をクロスさせて暗黒弾を
受け止める。大型の暗黒弾の勢いは止まらず、パイルドラモンに受け止められたまま
数十メートル移動して大爆発を起こした。

「…」

バルバモンは暗黒弾が爆発した地点へ向かってゆっくりと歩く。先のケンタルモンの事例もあ
ってパイルドラモンがしとめきれているかどうか不安だったのだ。

(不安だと…不安を抱かせただと…?神であるこの私に!)

バルバモンのパイルドラモン、いや、ガイオウモンとその仲間達に対する怒りは増していくばか
りだった。苛立ちながらも暗黒弾の爆発地点にたどり着くと、やはりパイルドラモンの姿は無か
った。

「暗黒弾を食らって消し飛んだか…それとも…」

バルバモンは暫し思案したあと、杖から漆黒の鞭を出し、辺りの茂みを薙ぎ払った。鞭には木
の杭やロープといった罠の破片、そしてザッソーモンが引っかかっていた。

「ザッソーモン!」

茂みからフレイモン、吉武とメカノリモンが飛び出す。

「なるほど…これで合点がいった…実に貴様らしい小細工だ、ザッソーモン。ケンタルモン達を
囮にし、貴様らが仕掛けたトラップで私を怒らせ冷静な判断力を奪いながらある地点まで誘導
する…」

皆の表情が青ざめるのを見て、バルバモンは自分の予測が合っている事を確信する。

「愚かな…無い知恵を振り絞って考えたのだろうが、その程度の作戦ごときで神である私を倒
せると思ったのか…?」

バルバモンはザッソーモンを、そして吉武達を嘲笑う。しかし皆が悔しげな表情を浮かべる中、
ザッソーモンだけがいつもどおりの人を小馬鹿にした様な笑みを浮かべていた。バルバモがそ
れを見て怪訝そうな顔をすると、ザッソーモンが口を開いた。

「アナタ、自分がまだ神だと思っているんデスカ?笑えますネェ〜♪自分の力に溺れて、ドンド
ン罠にはまっているのに気づかないような頭の悪い神様なんてイマセンヨォ〜♪よくその程度
の頭でイグドラシルのデータが解析できましたネェ〜♪アッ、ひょっとして大部分、いや全部ベ
ーダモンに手伝って貰ったんじゃナインデスカァ〜♪」

相変わらず、いつもどおりのおどけた、人を馬鹿にしたような口調だった。バルバモンは本日
何度目かも分からない憤怒の表情を浮かべ、鞭に力を込めてザッソーモンを握りつぶそうとす
る。だが次の瞬間、漆黒の鞭は切り落とされ崩れ落ちる。

「なっ!?」

「ナイトモンさん!」

漆黒の鞭を切り裂いたのはナイトモンのベルセルクソードだった。ナイトモンは落ちてきたザッ
ソーモンを片手でキャッチする。

「よくやった、ザッソーモン。お前達は一旦ここから離れろ!この場は私が預かる!」

ザッソーモン達は皆頷き、いつの間にかナイトモンの背後の地面に空いていた四角い穴に飛
び込む。

「そうか…!バルブモンの体の一面だけを地面スレスレに露出させ、その状態で出入りすれば
…!」

「煙や茂みにまぎれる事によって神出鬼没の行動が可能になる、と言う事だ」

話している間にバルブモンの体の一面は地面に引っ込む。ナイトモンはそれを確認すると、ベ
ルセルクソードを両腕で構え、バルバモンに振り下ろす。バルバモンは魔法陣を出現させ、そ
れを受け止める。

「鋼鉄の騎士ナイトモン…武を磨く為に各地を旅し、その正義感と剣技の冴えからこの大陸付
近では名の知れたデジモンだ…初めて会った時から気に入らなかった!」

バルバモンは魔法陣から漆黒の波動を放ち、ナイトモンを吹き飛ばそうとする。

「奇遇だな…私も初めて会った時から貴様が気に食わなかったぞ!」

ナイトモンは吹き飛ばされないよう踏ん張り、魔法陣を切り裂こうと剣に力を込める。

「弱きを助け、強気をくじく。目に止まる虐げられたデジモン達をほおって置けないその性格!
気に入らん!正義、友情、愛、信頼!そんな物はすべて自分を正当化するための詭弁に過ぎ
ぬ!」

「私はそうは思わん!むしろガイオウモンとあの人間の子供を見て、より深くそれらを信じたく
なった!」

「ほう…そのX抗体デジモンと人間を始末しに貴様が行った時、奴等を見逃したな。もしも奴等
がその後、ロードナイトモンに掴まってロードナイトモンの手によってXプログラムが作られたら
どうする?」

「!!」

「結果的にロードナイトモンは奴等と接触してもすぐにプログラムを作りはしなかったが…その
可能性が無いとは言えまい!?」

押し黙るナイトモンを見て、バルバモンは嫌らしい笑みを浮かべ、さらに言葉を続ける。

「所詮貴様の安っぽい騎士道など、単なる自己満足に過ぎん!」

「自己満足か…そうかもしれんな…だが!」

ナイトモンはさらに剣に力を込める。ベルセルソードの切っ先が魔法陣に突き刺さった。

「!?」

「今はその答えを用意できてはいない。今の私が出来る事は…」

ベルセルソードの切っ先がゆっくりと、しかし確実に魔法陣を貫いて行く。

「貴様の言う安っぽい騎士道で…貴様の幼稚な生悪論を叩き潰す事だけだ!」

「調子に乗るなぁ!」

ベルセルクソードの切っ先がバルバモンに届こうとした瞬間、魔法陣が爆発をおこし、ナイトモ
ンが爆煙に包まれる。

「バルブモンに逃げ込む暇も無かったはず…これなら…」

しかし煙が晴れた時、そこには満身創痍ながらも二本の足で大地を踏みしめて立っているナイ
トモンの姿があった。バルバモンは驚愕に目を見開く。

「私も…ケンタルモン、デルタモン、パイルドラモンも…皆も!貴様の前に倒れてやるつもりは
無い!」

「調子に乗るな!大方私を疲弊させながらガイオウモンの元へ誘導する作戦なんだろうが、そ
の作戦は既に失敗している!貴様は満身創痍!いくら吼えようが、貴様等は私の前に全滅す
るのが運命だ!」

「作戦が失敗している…?本気でそう思っているのか?」

「!?」

バルバモンはそう言われた時、先ほどザッソーモンが言っていた言葉が頭をよぎった。

"ドンドン罠にはまっているのに気づかないような"

「ザッソーモンが決めた私の役割は『囮として相手を誘導する』のではない。『囮として相手を一
つの場所に釘付けにする』と言う事だ。彼が必殺技を最大級の力で放つ為の時間を稼ぐ為に
な」

ナイトモンはバルバモンの前から退く。まるで誰かに道を譲るように。そしてそれによってバル
バモンの視界に入ったもの、それは遥か遠くで弓を引き絞っているガイオウモンだった。
弓は『菊鱗』を柄の部分で繋ぎ合わせたもの。矢は白熱化した超高熱の光の矢。あまりにも膨
大なエネルギーに、森全体が震えていた。そして今、ガイオウモンの手が矢から離れた。

「ガイアリアクタ―――ッ!!」

光の矢は余波で森を二つに割りながらバルバモンに向かう。バルバモンは直撃を受ければ再
生する暇もなく自分の体が蒸発する事を一瞬で悟り、全身全霊をかけて自らの前に何重もの
巨大な魔法陣を張る。

「ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」

光の矢は一瞬で全ての魔法陣を貫く。最後の一枚を残して。魔法陣を貫いた時の余波で辺り
の木々は一瞬で蒸発し、最後の一枚と矢が激突した時の余波は何本もの雷の舌となって
それよりも遠くの木々を焼く。そして魔法陣と光の矢は爆発し、巨大な雷の柱となって虚空へ消
える。その柱は一瞬だけの事と言えど、大陸中に、いやデジタルワールド中から見えたかもし
れない。全てが終ったとき、爆煙の中で無傷のバルバモンが一人笑った。

「フハハハハハハハハハハッ!惜しかったな!愚かなデジモン達よ!だがこれが現実だ!貴
様等の結束など神の前には…」

否。まだ終っていなかった。バルバモンの前にバルブモンが地面から飛び出してきた。バルブ
モンの胸部のシャッターは開いており、ベーダモン、ケンタルモン、デルタモン、パイルドラモ
ン、フレイモン、メカノリモンの遠距離攻撃系の必殺技を持った6人が立っていた。さらにバル
ブモンも両腕をバルバモンに向けている。

「アブダクション光線!」

「ダブルハンティングキャノン!!」

「ト」「リ」「プ」「「「レックスフォース!!!」」」

「フルバーストブラスター!!」

「ベビーサラマンダー!!」

「トゥインクルビーム!!」

「マッドポンプ!!」

何色もの閃光と炎と水流は一つに絡み合い、一本の極太の閃光となった。バルバモンはよう
やく気づいた。ザッソーモンが考えたのは二重の囮作戦。ガイオウモン以外のデジモンを囮に
ガイオウモンの一撃に全てをかける作戦ではなく、ガイオウモンの一撃を囮にしてこの合体攻
撃に全てをかける作戦だと言う事に。そしてザッソーモンの考えた作戦に見事自分が引っかか
ったと言う事に。

「とるにたらぬものどもが!群れをなした所で!」

バルバモンがそう言って張った魔法陣を閃光はいとも簡単に消し飛ばす。先ほど、ガイアリア
クターを防ぐのに全身全霊をかけたからだ。あとほんの数刻、それほどの間があれば体力が
回復してこの攻撃を防ぐだけの魔法陣を張る事が出来ただろう。

「馬鹿な」



馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



バルバモンはその叫びとともに、閃光に飲まれた。


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