「“ジェネラル・ミユキ”だな?」

 

後ろから不意に声をかけられ、三之は振り向く。休日で人気のなくなった小学校の校門の辺りに、その場にはそぐわない人物が立っていた。スラリと長い脚を見せつけるかのようにタイトなジーンズを履いた長身の女性。それだけならば普通だが、如何なるセンスの持ち主なのか、前髪の一部を鮮やかな黄色と赤に染めた奇抜なヘアスタイルをしている。目元の紫のアイシャドウも濃く、ケバケバしく近寄り難い印象を受けて三之は思わず後退りした。

 

「名前からして女だと思っていたが、男だったとはな。珍しい名前もあったものだ」

 

非日常的な色彩を携えた女性は、そういって一歩踏み出す。三之はあたりを見回した。「不審者がいます!」と助けを求められる大人はいないかと探して見たものの、運の悪いことに辺りには人影はなかった。

 

「私の名は瀬戸海里…“ジェネラル・カイリ”だ」

 

長身の女性は珍しい名前を名乗ると、腰に手を伸ばす。ベルトにひっかけられている長方形の箱と、拳大の機械に。

 

「子供だからといって、手加減はしないぞ」

 

右手が長方形の箱の中から一枚のカードを取り出す。左手が液晶画面のついた、小さな機械を構える。

 

「カード…スラッシュ!」

 

“ジェネラル・カイリ”はそう叫び、機械の横についていた切れ込みにカードを勢いよく通した。機械にスキャンされると同時にカードに変化が起こる。カードが海里の手を離れ宙に舞ったかと思うと、透き通って半透明になった。実体を失い、純粋な情報データの塊へと変化したのだ。“リアルワールド”の物質という制約を解き放たれたカードはそこに記載されていた“本来の姿”を開放する。その過程は人間の目にはカードが膨張し粘土のように形を変化させたように見えた。

 

「ぎざぁ!」

 

解放されたデータ名は“ギザモン”。レベルV。水生哺乳類型。ウイルス種。背中に一列に並んだ鋭い棘が特徴的な、小型のデジモンだ。彼への指令権を持つ“ジェネラル”である海里が指示を出すよりも早く、間の抜けた鳴き声を上げて三之に飛びかかった。正確に言えばこのデジタル・モンスターが攻撃しようとしたのは三之自身ではない。

 

「あぐッ!」

 

強制解放。三之の担いでいた鞄の中からカードが飛び出し、ギザモン同様に“デジタル・モンスター”へと姿を変える。“ジェネラル”が別な“ジェネラル”に戦闘行為を仕掛けたとき、それを拒むことは許されない。強制的に“レベルVデジモン”が解放され、どちらかのジェネラルがカードを使用できなくなるまで、カードを“閉じる”ことは出来なくなる。この戦いに設定されたルールの一つだった。

 

強制解放された“ジェネラル・ミユキ”のカードは“アグモン”。黄色い体を持つ、爬虫類型デジモンだ。大きな両手でギザモンの突進を真っ向から受け止め、そのまま頭を掴んで投げ飛ばす。

 

「進化だ!アグモン!」

 

降りかかる火の粉は掃うまで、とばかりに三之も海里と同様の機械とカードケースを取り出す。先制攻撃に失敗し地面を転がっているギザモンが体勢を立て直すその前に勝負を決めようと、カードをスラッシュする。

 

「カードスラッシュ!“ジオグレイモン”!」

 

機械のスリットに通したカードが三之の手を離れ、アグモンに向かって飛んでいく。そのまま頭上を追い越すと、カードの形状のまま巨大化し壁のように変化する。アグモンはためらうことなくその壁に頭から突っ込み、突き破る。壁の反対側から頭を出したのは子供である三之よりも小さな爬虫類の姿ではない。見上げるほど巨大な、頭部の外皮が兜のように硬質化した恐竜の姿だった。頭が校舎の三階に余裕で届くだろう。

 

「そのまま踏みつぶせ!」

 

三之が叫ぶ。アグモン同様、ギザモンは人間の子供よりも小さな体躯のデジモンだ。巨大な恐竜型デジモンであるジオグレイモンに踏みつぶされれば、勝敗は一瞬で決するであろう。

 

「…この時を待っていた!」

 

即座に、海里が動いた。二枚目のカードスラッシュ。モンスターの絵柄のカードではなく、「DS」と二文字のアルファベットが付いたアイコンが大きく描かれたカードだ。

 

「“オプションカード・フィールド”…“ディープセイバーズ”!」

 

スラッシュされ手から離れたカードが地に落ちたかと思うと、巨大化して地面を覆った。そしてカードから水が溢れ出し、一瞬にして辺り一帯が冠水してしまった。

 

「こ、これは!?」

 

あっという間に水位が上昇し、水面が三之の頭上を越えた彼が溺れる様子はない。カードから解放されたのは全て実体を持たない電子情報であり、現実の世界・リアルワールドの物質には影響を及ぼさないのだ。突如として出現したこの海も、目の前にいる巨大なジオグレイモンも三之や海里と言った“ジェネラル”以外には目視できず、存在に気づくこともない。

 

しかし、電子情報生命体であるデジモン達にとっては別である。一瞬で辺りが水没した為ジオグレイモンは足元にいたギザモンを見失ってしまっていた。

 

「まずい!ジオグレイモン、水中からの攻撃に警戒しろ!」

 

「今更何を警戒しようが無駄だ!カードスラッシュ!“シーラモン”」

 

海里が更なるカードをスラッシュする。次の瞬間、ジオグレイモンの背後の海中から銀色の影が飛び出した。三之が声を上げるまでもなくジオグレイモンは振り向いて迎撃を試みるが、胸元まで水につかっているためその動作は緩慢であった。

 

「“ヴァリアブルダーツ”!撃てっ!」

 

海上に飛び出したのは、全身を銀色の装甲で覆った古代魚のような姿のデジモン。普通の魚よりは遥かに巨大だが、それでもジオグレイモンの体躯の半分ほどの大きさだ。その巨大魚が腕のように発達したヒレを振り上げて、鋭く研ぎ澄まされた鱗を投げつける。恐竜の無防備な背中に、“ヴァリアブルダーツ”が幾つも突き刺さった。ジオグレイモンが苦悶の声を上げる。

 

「くっ…!」

 

ジオグレイモンは“レベルW”の中でもトップクラスのパワーを誇るが、水中戦に長けた種族ではない。同ランクとはいえこのフィールドでシーラモンと戦えば敗北は必至である。まずはフィールド“ディープセイバーズ”を消滅させなければ、と三之はカードを取り出す。“フィールドサイクロン”。オプションカードの一種で、“オプションカード・フィールド”を打ち消す効果を持つ。

 

「カードスラッシュ!“フィールドサイクロン”!」

 

カードを機械に通した瞬間、機械から耳障りな警告音が響いた。スラッシュされ解放されるはずのカードが三之の手を離れない。“フィールドサイクロン”のカードに目を移すと、実態を失って透明になる代わりに、カードの絵柄に大きな“×”が重ね書きされていた。原因に気づき、海里に目を向ける。

 

「“プログラム緊急停止!”。お前がフィールドサイクロンを所有していることは事前に知っていたからな、それを使ってくることは読んでいたよ」

 

派手な髪色の女性はそう言って勝ち誇った。その顔の前に、解放され効力を発揮した“プログラム緊急停止”のカードが半透明になって浮かんでいる。三之は悔しげに海里を睨んだ。

 

「さらに言えば、お前が相手に合わせて進化させるデジモンを変えるという戦術を使うという事も調べておいた。お前は水中戦に長けた“ティロモン”のカードを所有しているが、一度レベルWに進化してしまえば退化するまで同じ成長段階であるレベルWのデジモンに進化させることは出来ない」

 

「…だから僕がジオグレイモンに進化させるのを待ってからオプションカード・フィールドを使ったのか」

 

「その通りだ」

 

そう言って海里はさらにカードを取り出す。一枚ではなく、二枚。それらを順番に機械に通していく。

 

「カードスラッシュ!“しょうりつ40%!”・“ワルシードラモン”!」

 

先ほどアグモンがジオグレイモンに進化したときと同様に、二枚のカードは壁のように変化し、空中に浮かんだ。ジオグレイモンへの攻撃を続行していたシーラモンはそれを一旦中断し、イルカショーのように海上へジャンプし光の壁をくぐった。

 

二枚の壁を潜り抜けたシーラモンの体躯は長大に伸びてゆき、蛇のように長い体を持つ海竜へと姿を変える。体は血のように赤い鱗に覆われ、頭部を覆う黒い外皮はジオグレイモン同様硬質化し、兜のように頭部を守っている。鎌首をもたげたその威容は、ジオグレイモンを見下ろすほど大きい。“完全体”デジモン。レベルWであるジオグレイモンよりもワンランク上の存在である。

 

「勝負は決まったな」

 

“ワルシードラモン”を従えた海里が勝ち誇る。ワルシードラモンに利を与え、ジオグレイモンに不利を与えるフィールド。レベルWよりもワンランク上の完全体デジモン。加えて、無傷のワルシードラモンに対し、“矢”を浴び続けて満身創痍のジオグレイモン。自身の勝利を脅かす要素など、何一つ無いように海里は思えた。

 

「それはどうかな」

 

それでもなお三之は戦意を失っていない。新たなカードを取り出し、構えた。

 

「どんなオプションカードを用意しようとも無駄だ!止めを刺せ、ワルシードラモン!」

 

海里は躊躇することなく、攻撃命令を与える。

 

彼女は事前の情報収集で、三之の所有カードはほぼ全てを把握していた。三之の所有する完全体は“メタルティラノモン”一枚。陸上で戦えば苦戦を強いられるであろうデジモンだが、水中戦能力はもちろん、飛行能力も持たないためこのフィールドで進化されても脅威とはならない。

 

他にはレベルWのデジモンを多数所有していたはずだが、既にレベルWに進化してしまった今では、死に札となってしまっている。ジオグレイモンにダメージが蓄積され退化してレベルVに戻ればそれらに進化することも可能だろうが、ダメージや体力の消耗は残る。レベルWに再び進化しようが、既に完全体であるワルシードラモンの敵ではないだろう。

 

残るはオプションカードによる支援だが、これも恐れる必要はない。海里は“プログラム緊急停止!”をまだ数枚手元に残している。うち一枚は特殊な仕様になっており、“プログラム”“アイテム”“フィールド”の三つのカテゴリに分けられるオプションカードを、カテゴリにかかわらず無効化できる。いかなる対抗策を取ろうと、海里はそれを全て叩き潰せるという確信があった。

 

頭部から生えた鋭い刃のような角を突き立てようと、ワルシードラモンが首を振り下ろす。その切っ先が傷つきうなだれたジオグレイモンの首筋に迫る。三之がすかさずカードをスラッシュする。その兆候を見逃さず、海里はカウンターの為に特殊仕様の“プログラム緊急停止!”をスラッシュする。

 

「カードスラッシュ!“ティロモン”!」

 

「何!?」

 

海里の顔が驚愕に歪んだ。相手のカードがオプションカードではないため、“プログラム緊急停止!”は対象を発見できず、海里の機械からエラー音が鳴り響いた。

 

「だが、デジモンカードをスラッシュしたところで…」

 

ジェネラルが解放し、指令を出せるデジモンは一度に一体。最初に開放するデジモンは低ランクのレベルVデジモンでなければならず、そこに上位ランクのデジモンカードを重ね“進化”させることでしかレベルW以上のデジモンを開放することは出来ない。既にレベルWであるジオグレイモンを同じレベルWのティロモンに進化させることは不可能であり、いまティロモンのカードをスラッシュすることは意味のない行為…そのはずだった。

 

海里は目を疑った。スラッシュしたティロモンのカードが三之の手を離れ、半透明へと変化していく。カードが解放されようとしているのだ。

 

「まさか、一度にニ体のデジモンを使役できるというのか!?」

 

しかし、目の前で起こっている現象は海里の予想を覆した。変化はティロモンのカードだけではなく、ジオグレイモンの体にも起こっていた。ジオグレイモンの体が半透明になって歪み、巨大なカードへと変化する。攻撃を仕掛けていたワルシードラモンの角が空を切った。

 

ティロモンのカードもジオグレイモンのカードと同サイズに巨大化する。二枚の巨大なカードは、まるで磁力に引っ張れるかのように互いに惹かれあい、空中で重なりあう。その瞬間、激しい閃光があたりを照らした。

 

「“ジオグレイモン”!“ティロモン”!“デジクロス”!」

 

重なり合い一枚になったカードが歪み、デジモンの姿へ変化していく。古代に生息していた恐竜に似た姿のグレイモンと、海竜に似た姿のティロモン。両者の特徴を備えた新たなデジタル・モンスターが、電子情報の海中に姿を現す。

 

「“ディープグレイモン”!」

 

姿を現したのは、青白い肌をした恐竜のようにも見えるデジモン。二本脚で海底に立つその体格はジオグレイモンそのものだが、頭部の形状が大きく違っていた。鼻先が鋭くとがった海竜のような形状の頭部は、ティロモンそのものの形状をしている。細長く伸びた尾もティロモンにそっくりであり、背中から生えた刃のような背びれもティロモン譲りだ。大きなヒレも腕から生えている。

 

「“デジクロス”?それに、私の知らないデジモンだと…?」

 

「しゃぁっ!」

 

初めて目にする“デジクロス”という現象に困惑する海里を余所に、ワルシードラモンが先手必勝とばかりに攻撃を仕掛けようとする。その瞬間、眼前にディープグレイモンの顔が迫っていた。

 

「“グレート・D・トービート”!!」

 

黙視できないほどの速度の突進が、ワルシードラモンに直撃する。先ほどまで水に足を取られて立ち往生していたとは思えないほど、機敏な動きであった。弾き飛ばされたワルシードラモンの体が背後の校舎をすり抜け、彼方まで吹っ飛んでいく。

 

「一気にたたみかけるぞ、ディープグレイモン!」

 

“ジェネラル・ミユキ”の指示の元、吹っ飛んだワルシードラモンをディープグレイモンが追う。弾丸のような速さで泳ぐその巨体も、校舎などの建物をすり抜けていった。

 

「調子に…乗るなぁ!」

 

“ジェネラル・カイリ”がさらに二枚のカードをスラッシュする。“しょうりつ60%”と“メタルシードラモン”のカードを。町の一角から光が立ち昇る。その付近にディープグレイモンがたどり着いた時、海面から鎌首をもたげ、黄金の装甲を身に纏った海竜が姿を現した。

 

蒼と金。二体の海竜は耳をつんざく様な咆哮を上げ戦い始める。彼らの姿は人々の目には映らない。ほんの一握りの人間…彼らの将である“ジェネラル”達を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“デジタルワールドの肥大化は限界を迎えている”

 

 

 

“そう遠くないうちに滅びるであろう”

 

 

 

“私は世界そのものを圧縮し、眠りに付かせることで滅びを回避する事には成功した”

 

 

 

“だがそこで私も限界を迎えた。世界よりも先に、私が滅びるだろう”

 

 

 

“私が滅べば、眠りに付いた世界を再び目覚めさせるものはいなくなる”

 

 

 

“それだけは避けなければならない”

 

 

 

“私は世界を細かく切り刻み、リアルワールドへと放逐した”

 

 

 

“カードを集めよ。それら一つ一つが世界であり、記憶である“

 

 

 

“全てのカードを手にするという事は、世界を手にするという事である”

 

 

 

“それが出来た者こそ、次代のイグドラシルであり、デジタルワールドの新たな神である”

 

 

 

 

Super Digimon Card War.

 

 

2011/04/31 START

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

S.D.C.W.」オリジナルキャラクター募集!

作品本編に登場する“ジェネラル”を募集するよ!以下の項目に名前・外見・プロフィール・メインとなるレベルVデジモン・使用カードや戦法の傾向を書いてレスしてね!

 

【名前】

 

【外見】

 

【プロフィール】

 

 

 

 

【メインとなるレベルVデジモン】

 

 

 

【使用カード・戦法の傾向】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※本作品はエイプリルフール企画の為に執筆した作品であり、本編開始日やオリジナルキャラクター募集は架空の物で「うそ」なので本当にキャラを送ってこられても何もできません。あしからず。

 

 

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