アルテマオメガモンは最強のデジモンである。

 

 

 

 

あるとき、彼は自分が望むだけの姿を、望むだけの力を手に入れた。それ以前の事、“アルテマオメガモン”ではないデジモンであったころの事はよく思い出せないが、それは重要ではないと考えていた。重要視するのは、“アルテマオメガモン“となった後の事柄のみである。

 

 

まずはデジタルワールド最強の騎士団と名高いロイヤルナイツ、その頂点に君臨するというオメガモンに勝負を挑んだ。この世界の多くの民は、オメガモンこそが最強であると信じている。それは時として信仰の類と言えるほどのものにまで発展するほどであり、そしてそうなる事も必然であると誰もが認める実力をオメガモンは持っていた。

 

 

だからこそ “最強のデジモン”はその力と姿の原型にオメガモンを選び、そして初戦の相手とし、そして勝利したのだ。

 

 

結果だけを言うならば、アルテマオメガモンの完全勝利に他ならない。未来予知の力・オメガインフォースが「完全敗北必至」の結論を出すよりも早くオメガモンは地に伏していた。多くのデジモンが我が目を疑ったこの瞬間が、アルテマオメガモンの神話の始まりであった。

 

 

オメガモンを下した事を皮切りに、アルテマオメガモンは他12名のロイヤルナイツのもとへ赴き、彼らに戦いを挑んだ。時には脅威となりうる存在を打ち取らんと自ら赴いてきたロイヤルナイツもいたが、望むところとばかりにアルテマオメガモンは迎え撃った。

 

オメガモンに次ぐ実力者と湛えられたデュークモンとその愛馬を打ち破った。

 

完全無欠の守りを持つと自負するマグナモンやクレニアムモンの装甲を紙切れのように切り裂いた。

 

神速を誇るというアルフォースブイドラモンやスレイプモンをいとも容易く追い抜き、捉えて叩き伏せた。

 

最大を誇るエグザモンをそれをはるかに凌駕する攻撃力を持ってねじ伏せ、デュナスモンロードナイトモンドゥフトモン他の元より歯牙にもかけてなかったナイツ達を一蹴する。

 

 

最後に現れた空白の座の主、アルファモンに彼のアルファインフォースなど比べ物ならないほど高度な時間制御能力を見せつけた次の瞬間、アルテマオメガモンは“ロイヤルナイツ全員を倒したデジモン”という栄誉ある称号を得ていた。

 

 

 

 

だが、彼はその栄光に驕りはしなかった。ロイヤルナイツと並べて語られる数々の猛者が、魔王が、神々がこのデジタルワールドには語り継がれてきたのだ。アルテマオメガモンの望みはロイヤルナイツと対立する勢力も含まれるそれらを打ち破って真なる平和を、真なる最強を、真なる勝利を手にすることである。

 

最初にダークエリアに赴き、七つの罪を持って人とデジモンの堕落を望む七大魔王を討伐した。魔神となったベルゼブモン、超魔王となったデーモンとルーチェモンすらアルテマオメガモンの敵ではない。魔王の居城の最奥にある“大罪の門”より出でし、わずかでも悪意ある者の攻撃を無効化する化身型デジモン・オグドモンの力をまるでないもののように素通りし、その身を微塵に切り裂いて七大魔王とそれに連なる者の討伐を完了した。

 

ダークエリアに巣食う、デジタルワールドを脅かす憂いは七大魔王だけではない。七大魔王が最も警戒していたという吸血鬼の王グランドラクモンを討ち取る傍ら、種族不明の危険なデジモンであるディアボロモンとその系統のデジモン達を全て根絶やしにし、傍観者を気取る灰色の魔王・デスモンの黒き邪悪な本性を暴き出し誅殺する。最後にファイアウォールの向こう側に存在する怨念の集合体であるアポカリモンと、無感情にデジタル生命体の消去を繰り返す原始的プログラム…デ・リーパーを根こそぎ消去した。これからの時代は争いの絶える事のなかったデジタルワールドの歴史の中で、最も平和な時代になるだろう。

 

 

 

 

以降に相手にしたオリンポス十二神、四大竜、三大天使、四聖獣達の多くはアルテマオメガモンと拳を交えることなく頭を垂れた。中にはアルテマオメガモンが最強であることを認めず刃を向ける者もいたが、彼らの攻撃で“最強のデジモン”が傷を負う事は皆無であった。デジタルワールドの安定をつかさどる神たる四聖獣とそれを総べるファンロンモンを戦わずして跪かせたとき、アルテマオメガモンは確信する。世界の全てが自分を“最強のデジモンである”と認めたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“最強のデジモン”アルテマオメガモンは苛立っていた。

 

 

最強のデジモンとして君臨したことで、ロイヤルナイツや四聖獣といった“過去最強とされていたデジモン”達に向けられていた称賛や信仰は全て自分に向けられるようになった。そう思っていたのだが、それらがオメガモン達に向けられていたものとは少し違う事に、最近に気が付いた。

 

 

“最強のデジモン”になるために欲した能力の中に、他人の心を読む力がある。その力で自分を讃える臣民達の心を読むと、そこにあるのはアルテマオメガモンへの恐れや妬みが大半を占めていることが分かった。身も心も弱い民草の思うことなどそんなものであろう。そう考えていたが、やがて気づく。真なる“最強のデジモン”がアルテマオメガモンだとはっきりした今になっても、オメガモン達を信仰する者達がいることに。それらの心を読むと、その信仰の心には恐れや妬みなどといった感情はほとんど込められていない。憧れや尊敬から来る心情だったのだ。自身に向けられている物とは違って。

 

 

未だに“過去最強とされていたデジモン”達が未だに最強であると信じている愚かな臣民達にアルテマオメガモンは深く憤り、気づいたその日から彼らの目を覚まさせる事に腐心することになる。最初に考えたのは、本心から自分を信仰していない人々を集め、彼らの眼前で自分の強さを見せつける事だった。

 

アルテマオメガモンは基本的に、強さを見せつけて戦意を削ぎ、あるいは止めを刺さず戦闘不能になる程度に痛めつけてから相手に降伏を促す。相手の命を気遣う余裕があるほど圧倒的優位に立てる強さを至上としているからである。意志の疎通が不可能なデ・リーパーやディアボロモン、負けを認めずに命尽きるまで立ち向かってきたダークエリアのデジモン達やロイヤルナイツ・オリンポスの一部には、容赦せずに止めを刺してきたが。

 

そうして負けはしたものの生き残った者や、刃を交える前に負けを認め降参したデジモン達を招集し、彼らを未だに信仰する人々の前でアルテマオメガモンは全員を打ちのめして見せた。自分を攻撃するように集まったデジモン達に促し、それを鼻歌を歌いながらいなして見せた。人々の口から、打倒されたデジモン達からも“最強のデジモン”を称賛する声が次々と上がる。だが心を読めば、自分に向けられる感情の質はまるで変わっていない。それどころか今しがた自分が破ったデジモン達は、事もあろうに勝者である自分に憐みの念を送っているのだ。

 

アルテマオメガモンは頭が沸騰するような感覚を覚えた。このデジモン達は口先では自分の力を称賛しながらも、内心では“最強のデジモン”の力に嫉妬し、憐れむことで自分が優位だと思い込もうとしているのだ。このようなデジモンが未だに人々に信仰されていることが腹正しかった。ダークエリアという憂いは取り除いたがこのようなデジモンばかりではこの世界に未来はない。早急に臣民共々目を覚まさせなければ。そう考えてアルテマオメガモンは次なる行動をとった。

 

 

自分こそが真なる“最強のデジモン”であるという証明が、より完璧な証明こそが嫉妬と盲信に狂った者達の目を覚まさせると信じて、アルテマオメガモンは時を遡った。後に古代種と呼ばれる種族が繁栄していた時代へ行き、伝説の十闘士全員を一瞬で全滅させ、ロイヤルナイツの祖とされる白いインペリアルドラモンの肉体を得物ごと一刀両断する。その後の時代、何度かデジタルワールドが崩壊寸前に陥ったタイミングにジャンプしては、やがて何度も世界を脅かしたと語り継がれる邪神ミレニアモン、破壊と創造をつかさどる神スサノオモン、消去作業を永遠に繰り返す虚ろなる屍・デクスモンらの前に立ちはだかり、その攻撃を全て受け切った上でそれ以上の攻撃を持って勝利して見せた。

 

本来ならば歴史が崩壊しかねない行為だが、アルテマオメガモンは自在にデータを操り、瞬時に自らが葬った相手を蘇らせ、歴史への影響を未然に防ぐことが出来る。一連の様子は全て現代のデジタルワールドに中継されたが、人々が“真なる最強のデジモン”に抱く感情は変わらなかった。

 

 

アルテマオメガモンは血眼になってデータベースを漁り、少しでも名のあるデジモンや実力者であると噂されるデジモンを見つけては片っ端から戦いを挑むのが日課となっていった。他のデジモンを吸収し続け進化する超究極体アルカディモン。究極とも噂される力バーストモードを発現させたデジモン達。デジクロスと呼ばれる未知の力によって誕生する“7”の名を持つデジモン。荒野の賢人と謳われる魔神バグラモンとそれに仕える七人の将軍。果てはラグナモン、クロノモン、グリムモン、“オーバーロードGAIA”、“メカローグX”、“NEO”、“EXイレイザー”と言ったデータベースの片隅に埋もれた存在全てにすら勝利しても、誰一人目を覚ますことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“真なる最強のデジモン”アルテマオメガモンは深い怒りを抱いていた。

 

 

 

 

目の前には十数体のデジモンがいる。オメガモンを始めとした、皆自分に完膚なきまでに敗北したデジモン達だ。誰も跪いてはいない。真っすぐに立って目の前の“絶対的勝者”を睨んでいる。心を読むまでもなく、“真なる最強のデジモン”に敬意や称賛の念など抱いていないことが手に取るように分かった。

 

「…君を止めに来たんだ」

 

先頭のオメガモンが口を開く。力の差は歴然だ。“真なる最強のデジモン”にとってそれは思い上がった言動としか思えなかった。最初にオメガモンに勝利した時、確かに彼は自分の実力を素直に称賛していたというのにそんなセリフが言えるとは。そう感じて、深い失望を憶える。

 

「こんなことを続けていても何も得られるものはない。君とて薄々気づいているはずだ」

 

読心の力によって読み取れるオメガモンの感情は、アルテマオメガモンへの憐み。そして悲しみ。所詮この白カカシは自分が最強の座を転がり落ちた事を悲しんでいて、地位を奪った相手を下に見ることで自らを慰めているにすぎない。アルテマオメガモンの高度な知性は即座に相手の深層心理を見通した。

 

「君が力を誇示するための無意味な戦いで多くの人々が苦しんでいる。こんなことは君も望んでいなかったはずだ!きっと君も後悔する事になる!」

 

確かに後悔はしていた。このような保身と嫉妬に狂った醜いデジモンの名を借りたことを、アルテマオメガモンは激しく後悔していた。その旨を伝えると、白カカシの感情の中の悲しみの色が濃くなり、そしてそれを抑え込むように“決死”の決意が読心の力によって伝わってきた。他のデジモン達も“決死”の決意を固める。

 

「デジタルワールドにとって、君は“悪”だ!それもとてつもなく強大な!私達の命に代えてでも…」

 

白カカシ達が全員の命と引き換えにでも自分を倒そうとしていると気づいた時、アルテマオメガモンは静かに破顔した。本心からの笑み。全員の命と引き換えならば“真の最強のデジモン”と刺し違えられると本気で思っている、その考えがあまりにも滑稽で。

 

 

アルテマオメガモンが瞬いた瞬間、全てが消滅する。白カカシ達だけではない。デジタルワールドとそこに住んでいたデジモンを始めとする生命体全てが痕跡すら残さず消滅したのだ。何が起こったか認識することは、目の前にいた白カカシ達どころかホストコンピューターたるイグドラシルすら不可能であった。

 

 

自らが振るった“真なる最強のデジモン”の力の結果に満足してアルテマオメガモンはようやく怒りから解放され、これ以上ないほどの高笑いを響かせる。もはや彼を称賛できる者は誰もいない、デジタルワールドでなくなったこの空間で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これ以上ないほど完璧完全に 【完】

 

 

 

 

 

 

 

 

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あとがき…と言うより言い訳

 

 

大抵の方が察しているかと思いますが、本作の主人公・アルテマオメガモンはアマチュア創作における「最強オリキャラ」の揶揄であり、「スペックを盛りまくったオリキャラが思うがままに力を振るいまくるだけの作品なんて面白くないだろう」と皮肉ることをテーマにしたのがこの作品です。

 

作品一覧ページでも記しましたがはっきり言って自分が今までWEB上に発表してきた中で一番恥ずかしい作品です。明確に仮想的に想定した作品はないものの(※1不特定多数の創作物に上からマウントを取るようなイキり散らした内容(それもありがちな「最強キャラ批判」)を世に出したことが、単に稚拙な作品を世に出すこと以上に恥ずかしいと後々感じるようになりました。

 

「内面の伴わない最強キャラが延々と力を振るうだけじゃキャラにもお話にも魅力がないだろう」という見解も後々「本当にそうだろうか?」と疑念を抱くようになりました。故にこの作品だけ例外的に言い訳染みたあとがきを添えさせていただきました。

 

 

(1) しいて言えばデジモンウェブ掲示板全盛期時代(2000年前後くらい?)の作品群やそれらによく出てきた最強オリデジが主なメタ対象。アルテマオメガモンという名称は当時本当に「〇〇〇オメガモン」という名称のオリデジを複数見かけたことに引っ掛けた名称である。本作品中に地の文によるアルテマオメガモンの外見や必殺技の描写がほぼ皆無であることも、当時は台本書きが過半数を占め既存・オリデジ問わずデジモンの外見のしっかり描写した作品が少数派だった(主観)ことに由来している…はず。

 

2019/11/02 ut